第20話 大樹の丘へ

特異点の件が、ようやく全て終わり、私とルーシェ様は応接室に戻ってきました。

それにしても応接室の中が、なんだか騒がしいです。

私達が中に入ると、ラファちゃんと琉璃ラズリ様、それに瑠璃ラピス様の姿がありました。


ラファちゃん曰く、瑠璃ラピス様が入れ違いでやってきて、そこから双子ならではの口喧嘩が始まったとのことです。

ラファちゃんは、琉璃ラズリ様の見たことのない一面が見れて、とても楽し気にしています。

うーん、この子、将来、きっと大物になるわね。


琉璃ラズリ姉様なんで、こちらに来たことをなんで黙っていたのですか? すぐに知らせてくれれば、お出迎えに行ったのに。」


瑠璃ラピスには、今日、大樹の丘の地下基礎学校で授業があったのでしょう。それを休講にしてまで、出迎えに来る必要性は無いでしょ。どの道、大樹の丘で会えるのだから。」


「それでも私は、姉様に少しでも早く会いたかったのです。」


「昔から、変わらないわね。少しは成長してるのかと思っていたんだけど、残念ね。私が居ないとダメなのかしら?」


「これでも、少しは成長しましたよ。でも、姉様は特別なんです。」


「あのね。私達は双子なのよ。それもほんの少し、私が早く生まれただけのことであって、妹に特別扱いされることは無いわ。」


「それでも、私にとって姉様は、特別な存在に変わりわないのです。」


「それにしても、やっぱり仲がいいのね。さすがは双子の姉妹だけあるわ。」


ルーシェ様が、口喧嘩に一言、割って入る。

私は素知らぬふりをして、聞いています。

琉璃ラズリ様が私達が戻ってきたことに気付き、ミカ様の姿が見えないので、ルーシェ様に聞かれている。


「お戻りでしたか、ルーシェ叔母様。それでミカ様は?」


「ミカなら、身柄を引き渡して、先程、闇の大庭園ナイト・ガーデンに帰ったわよ。帰り際に研修生一家と警護の琉璃ラズリを宜しくお願いしますって、頼まれたわ。」


「そうですか、もう帰られたのですね。ところであの、ルーシェ叔母様。先程、2階の方から莫大な精霊力が一気を7体程、感じたのですが、何があったのですか?」


「あぁ、そのことね。あれでも結構、強力で特殊ま結界を張っていたつもりなのに、やっぱり、あれだけの精霊力は誤魔化せないわよね。」


私に視線を向けて、にこやかな笑みを見せる。

莫大な精霊力って、確かに私が召喚した6体の大精霊さんのことだと思うけど、7体ってことは、私も含まれてるのかしら…。

何故か、傷つくわね。結構、私の心に響く、痛い一言だけど、でも、事実なのよね。


「私をそんなにこやかな笑顔で見ないでください。ルーシェ様。」


「まさか、アニス様が何かされたのですか?」


「アニス姉様、何をしたの?」


「アニス様は、もしかして、貴女様のお友達である大精霊様全てをそこに顕現させたのでは?」


「さすがは、瑠璃ラピスね。大正解よ。あのミカが一瞬にして、我を忘れたのは、面白かったわ。」


ラファちゃんが目を輝かせて、私を尊敬の眼差しで見つめている…。

琉璃ラズリ様は、信じられないという表情をしている。


「だって、昨日、大樹の丘で光と闇、四大の大精霊様を召喚しましたよね。アニス様。私も陰ながら見ていたのですよ。驚きの余り、私の中の時間が止まったように思えましたけどね。」


瑠璃ラピス様も見ていたのですね。あれは、精霊界のバランスを崩す訳にはいかなかったから、仕方なく召喚したんです。」


「それでも、一気に四大の大精霊様を召喚して、顕現されてましたよね?」


「そうですけど、今回は、光と闇の大精霊あの子たちを精霊界に帰してたから、一気に皆様を呼んだんです。」


瑠璃ラピス、もうその辺にしてあげて。アニス様が珍しく困っていらっしゃるもの。」


ルーシェ様が助け舟を出してくれる。

しかし、それが余計な火種になりそうで怖い。


「あら? ルーシェ叔母様、アニス様を庇い立てするのですか?」


「それはそうよ。アニス様は、光と闇の大庭園の大罪を犯した天族に対して、とても素晴らしい処罰を与えたのですから。」


「アニス様が、光の大庭園としての処罰を与えたのですか?」


「そうよ。ミカも驚いていたけど、私も驚いたわ。あれは、普通ならできないことよ。」


「ルーシェ叔母様、アニス様は、我が庭園ナイト・ガーデンの罪たる天族にどのような処罰を与えたのですか?」


「6体の大精霊様の使役を一時的に与えたのよ…。」


「「えぇ? なんですって!!!」」


琉璃ラズリ様と瑠璃ラピス様が息をピッタリ合わせて驚かれる。さすがは双子。

ルーシェ様が琉璃ラズリ瑠璃ラピスの双子の姉妹に一連の経緯を説明をする。

お二人は、大変、驚いたようで、私を少しながら、怖れているような気がする。

ラファちゃんは、この話を聞いて、ますます目を輝かせて、私を見ている。


瑠璃ラピス、アニス様って、こんなに可愛らしい方なのに見た目に反して、かなり心持ちはすごく強いのね。」


「えぇ、琉璃ラズリ姉様、アニス様は勤勉で、責任感も強く、努力は惜しまない素敵な方でもありますよ。そして、何よりも心優しい。だからこそ、怒らせると怖いのです。」


「お二方、お褒め頂き、とてもありがたいのですけど、怒らせると怖いというのは…。」


「アニス様、この双子の姪が言うように怒るととても怖いですよ。御自覚はおありでしょう?」


「まぁ、確かに私は怒ると怖いと思いますけど…。本気に怒ったことは、自覚してる限りでは、特異点での一回限りですよ。なので、もうこのお話は終わりにしましょう。そろそろ、ラファちゃんと琉璃ラズリ様のお二方を私と瑠璃ラピス様で大樹の丘へとお送りしないといけませんよ。」


話を切り替えて、大樹の丘へ戻るお話を始める。

すると、ルーシェ様が少し残念そうな表情で私に話しかける。


「そうね。いつまでも中央ここに居ては、先に行ったラファ様のご両親もご心配をされるでしょうからね。では、アニス様、私は最後の一ヶ月に大樹の丘そちらにお出迎えに参りますので、その際は、宜しくお願い致します。」


「はい。こちらこそ、最後の一ヶ月の研修の際は、宜しくお願い致しますね。では、お三方、大樹の丘へと参りましょう。」


「では、中央地下都市の長距離ロング転移扉ドアまで、私がお送りしますね。」


こうして、ルーシェ様の瞬間転移の魔術テレポートで、中央地下都市の長距離ロング転移扉ドア前まで一瞬で辿り着く。


「ラファ様、ゴメンなさいね。中央庭園セントラル・ガーデンを見学させてあげられなくて。」


「いえ、ルーシェ様、そのお言葉だけで、充分です。それでは、またお会いしましょう。約束ですよ。」


「えぇ、約束するわ。次はきちんと中央庭園セントラル・ガーデンをご案内しますからね。それでは、お気をつけて。琉璃ラズリも警護の任をしっかりとお願い致しますね。」


「はい。ルーシェ叔母様。また、お会いしましょう。」


「せっかくお姉さまがいるのに、ルーシェ叔母様に挑めないなんて…。」


瑠璃ラピス、そろそろもう諦めなさい。私達、二人掛かりで模擬戦を行っても、一時的に優位に立てたとしても、最後に勝つのは、叔母様よ。英雄である私達の力を持ってしても、他の七大魔族ならともかくとして、半分と言えど同じ血脈であるルーシェ様には、勝てないわ。」


「それは、理解しているつもりですけど。あの時の悔しさが忘れられないんです…。」


「喧嘩は無しにしてくださいね。では、お三方、大樹の丘へと参りますよ。それでは、ルーシェ様、失礼致しますね。」


私は、瑠璃ラピス様へ釘を刺して言いつつ、長距離ロング転移扉ドアを起動させる。そして、私の精霊力で発動させると一瞬にして大樹の丘へと転移し、大樹の丘の地下街に到着する。

私の精霊力って、やっぱり「光の書」さんの言う通り、とてつもない容量を持ってるんだなぁ~としみじみと実感する。


「アニス様の精霊力は、やはり素晴らしいものがありますね。もし護身用の模擬戦みたいなことを行っても、きっと私達は負けるでしょうね。お世辞抜きに。」


「そんな、お二方は、お伽話にも出てくる英雄ですよ。そんな方々と模擬戦なんてしませんよ。そんな物騒なことを考えないでくださいね。琉璃ラズリ様。」


「アニスお姉さま。ここが大樹の丘なんですか? 」


「ここは、大樹の丘の地下街よ。中央地下都市に比べたら、田舎みたいものですけどね。でも、皆様、いい方たちばかりだから、大丈夫ですよ。何かあったら、ここにラファちゃんの先生が二人もいるし、私もいるから大丈夫です。さて、ラファちゃんの今日から住むお家に行きましょうか?」


「うん。どんなお家がとっても楽しみ。」


「私は瑠璃ラピスの家に厄介になりますので、ここで失礼しますね。何かあれば、お呼びください。すぐに駆け付けますので。」


琉璃ラズリ姉様、私、聞いてないんですけど…。」


「どうせ、広い所に一人で住んでるんでしょう。私一人が厄介になったところで、別に大丈夫でしょ。それに瑠璃ラピスのことだから、見える所しか綺麗にしてないんでしょ。汚い部屋は、しっかり綺麗に片付けて、私の部屋にさせて貰うから大丈夫よ。」


「うぅ、バレてる。さすが我がお姉さまだわ…。」


こうして、琉璃ラズリ様達と別れ、ラファちゃんをラエル様一家が今日から住むお家に案内をする。

地下住宅街の一軒家。ここは大樹の丘の管理整備棟の家族向けの社宅が数件あって、その中でも上の役職の方が使うように作られたお家なのです。だから、豪華とまでは言えませんが、立派なお家なのです。


「うわー、大きなお家。今日からここに私、住むの?」


「そうだよ。吃驚した?」


「うん。本当のお家よりも、大きいからビックリしちゃった!」


「おお、お帰り。ラファ。そして、案内をして頂き、ありがとうございます。アニス様。今、ニナ様に手伝って貰って頂いて、丁度、荷物の整理が終わったところなんです。」


「ラエル様、お家の方は、問題なかったでしょうか?」


「問題だなんて、とんでもない。こんな立派な大きな家に半年も住まわせて頂けるのですから、有難い限りです。ニナ様に案内された時にも、私達が驚いたくらいなんですから。」


「研修期間中、快適に過ごして頂くようにと特別管理顧問官より言われておりましたので、この家を使って頂くことにしたのですが、喜んで頂けて何よりです。今日は、ゆっくりと地下街をお散歩されたりなどしてお休みください。明日から、徐々に研修を始めていきますので、宜しくお願い致します。それと今日だけは、地上に出ないようにお願いしますね。」


「アニスお姉さま。なんで今日は、地上に出ちゃダメなの?」


「この丘には、古竜さまが住んでいらっしゃるから、その耐性を地下で少しでも付けておかないといけないの。すぐに地上に出たら、失神して大変なことにちゃうから、絶対に地上に出るのはダメですよ。私も整備士として、ここに来た最初の一日は、地下街や基礎学校なんかを見て回って過ごしたのよ。」


「そうなんだ。じゃあ、今日は、お家でパパとママとゆっくりするね。」


「では、ラエル様、明日、お迎えに上がりますので、今日はゆっくりと疲れを癒してください。地下街の案内が必要でしたら、私が案内しますので。」


そういって、お母さんと一旦、管理整備棟に戻ろと思ったところ、フィール様が話しかけてきました。


「あの、もし宜しければ、アニス様にニナ様、一緒にお夕飯を食べていかれてはどうでしょうか? 地下街の商店街の案内と夕飯の買い物を一緒にすれば、一石二鳥で問題もないかと思いますので。」


「わーい。アニスお姉さまと一緒に夕飯が食べれるの? じゃあ、ママ、一緒に皆でお買い物に行こうよ。」


「わかったわ。ラファ。でも、お行儀よくするのよ。」


「はーい。お買い物、楽しみ。」


「フィール様、本当に宜しいのですか?」


「えぇ、お夕飯は、皆で食べた方が美味しいですもの。」


「折角だから、ご馳走になりましょう。アニス。」


「お母さんは、闇の大庭園ナイト・ガーデンの料理に興味があるんでしょう。もう仕方ないんだから。それなら、私達も何か一緒に作って教えてもらいましょう。」


「じゃあ、決まりね。フィールさんにラファちゃん、一緒にお買い物に行きましょう。アニス、案内を宜しくね。」


「アニス様、宜しくお願いしますね。」


「わーい。皆でお買い物だ。アニスお姉様、お夕飯の時に色々なお話を聞かせてね。」


こうして、私達は大樹の丘の地下商店街に買い物に行き、お夕飯の材料や必要な生活用品を揃えながら、商店街の方々に挨拶回りをしました。

商店街の方々は、私の時のことがあるので、色目で見たりすることは無く、普通に接してくれたので一安心です。

その後、ラエル様の家に戻り、夕飯を一緒に作って、ご馳走になり、久しぶりに大勢で囲む夕飯を楽しむ私なのでありました。


夕飯をご馳走になってから、一旦、管理整備棟へ赴き、レイティア様に無事、特異点の件は解決したこととご家族の様子を伝え、今日の業務が終わりました。


明日からは、徐々に研修が始まります。最初は見学がメインになりますが、まずは、この大樹の丘を知ってもらうことが大切なのです。

私も新たな気持ちで、明日に備えないといけない。

それにしても、久しぶりのお母さんの料理も美味しかったけど、フィール様の料理、すごく美味しかった。あの味、また教えて貰おうっと。

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