塾の先生

小学校5年生になった私は、学校だけが自分の居場所のような気がしていた。

以前にユキが殴られているのを見て以来、反抗するのが怖くて何か聞かれても父の望む答えを、「父ちゃんはこういう風に言って欲しいのやろな」という答えを返していた。

顔色を窺いながら生活していた。


そして、勉強さえしていれば、テストの点数さえよければ父は機嫌がよく何でも買ってくれるし、お金も出してくれた。


当時、習い事をしている子は割と多かった。

一戸建てに住んでる子はピアノ、バレエ。フエーの子はエレクトーン。

男子は空手、水泳、中にはバイオリンを習ってる子もいたがフエーに住む男子は習い事をしている子は少なかった。


今のように「塾」というのは少なくて、公文とかそろばんが主流だった。

そんな時、郵便受けに入っていたチラシに釘付けになってしまった。


「四つ葉塾」という学習塾オープンのお知らせだった。

場所も自転車で通えるし、父の帰りを待って「塾に行って勉強がしたい」と言った。

当然、大賛成の父はすぐに通えるよう手続きをしてすぐに通い始めた。


他にはどんな子が来ているのだろう?他校でも通える場所でもあったのでもしかしたら他校の子かもしれない。

ちょっとワクワクする気持ちもあったが、変なヤツが一緒だと嫌だという不安もありドキドキしながら「こんにちは」と入っていった。


「こんにちは、ミキちゃん?」とニコニコしながらおっちゃんが待っていた。

どうやらこのおっちゃんが先生らしい。


先生というより、近所のおっちゃんみたいや、と思ったが口には出さず

「はい」と答えて授業が始まった。


・・・・・?私だけであった。

それから数週間は私一人だけであったが、暫くすると少しずつ生徒が増えてきたが、いずれも他校の子で知らない子ばかりであった。


塾に通い始めて成績が良くなったというわけではない。

元から悪くなかったのだから横ばい状態であった。それでも家にいなくてすむ。

塾で友達は出来なかったけど、友達作りが目的ではない。

雨の日は歩いてでも欠かすことなく塾には通っていた。


先生はいつもミキちゃん、ミキちゃんと言って気にかけてくれるのだが、他の子の手前、ありがた迷惑だった。


ある日、塾が終わって帰る時に「ミキちゃん、これお母さんに渡しといてくれる?」先生からそっと手紙を渡された。


「はい」

そう言ったものの、中身が気になってしようがない。

しかし、しっかりと封がしてある。


「一体何が書いてあるんやろ?他の子にも渡してたかなぁ?どうやったかなぁ?」

父は帰りが遅かったのだが、その日は寝ないで帰りを待っていた。


「父ちゃん、これ・・・・塾の先生が渡しといてって」

「ふ~ん、何や」

そう言ってその場ですぐに開封して読んでこう言った。


「ミキ、来週な、先生が遊園地連れて行ってくれるんやて!良かったな!」



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