第10話 発見

 アプフェルはすぐに見つかった。

公園を出たすぐのところでアプフェルを発見した。立ったままの姿勢で後ろから屈強な男の手で喉元にナイフを突き付けられている。どうやらアプフェルを誘拐しようとしたところで見つかったらしい。

「ありがちなパターンだな……」

 物語を進めるには良い展開だけど目の前で、しかも知り合いがやられると迷惑そのものでしかない。刑事ドラマじゃあるまいし。

 アプフェルの周りには野次馬が集まり、警備兵が犯人に対し投降を呼びかけている。

「君は完全に包囲されている!」「無駄な抵抗はやめなさい!」とお決まりの台詞でがなりたてているが、手を出す気配はない。下手に犯人を刺激できないせいかと思ったが、警備兵たちが小声で話しているのが聞こえた。

「お前やれよ」

「俺は嫌ですよ。『あの』イェ―ガ―家の娘ですよ? もし失敗して傷でもつけたら」

 なんだ? アプフェルが侯爵令嬢だからってだけじゃない。なにか彼女の家そのものが恐怖の対象として扱われている感じだ。アプフェルは温厚そうだけど、彼女の家は領地でそれほどの圧政を敷いているのだろうか?

「ああ、アプフェル様、」

 テルマはアプフェルの喉元にナイフが突きつけられているのを見て口元を押さえ、涙目になっている。短いポニーテールが元気なさそうに垂れ下がっていた。

「警備兵に魔法使いはいないの?」

 僕は小声でテルマに聞いてみる。魔法使いがいれば簡単にアプフェルを奪還できそうだけど。

「いることはいますが、警備兵の魔法使いはエリートですから戦場の最前線に配置されるか、ベルツリンなどの大都市の警備にしかいません」

「そう」

 僕はそう言い残し、その場を立ち去ろうとした。

 一介の学生にできることはすべてやった。後はプロに任せよう。

「じゃあ、僕はこれで」

 帰って勉強しないと。夢の世界とはいえいつもやることをしないのは落ち着かない。

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