第5話 科学部、作戦を練る!

 先程の地点はすぐにわかった。理由は簡単である、一緒に吹っ飛ばされた日傘、鉄板、金盥かなだらい、科学部特製醤油のペットボトルなどが落ちていたからである。


「やん、どうしよう。お姉ちゃんの日傘、こんなとこに持ってきちゃった」

「鉄板があるじゃないっすか、バーベキューできますよ! あー、肉食いてえ」

「さっきのコティロリンクスでも捕まえてきたら?」

「ところでさー、テントも何もないねー、困ったねー」

「そうね。でも寒くなくて良かった。氷河期だったら大変だったよね」

「そうっすね、でも姐御先輩のナマ脚は、この俺が責任もって温めてあげるから大丈夫っすよ」

「寄るなマンドリル」


 姐御の目に僅かな殺意が残るものの、それは二号の癒し系発言によってかき消されてしまうのも世の常なのである。


「フツーに気温は夏だねー。熱帯夜とかあるのかねー」

「明日は洞窟か何か探しましょう。今夜は変に森の中に入るのは危険ですから、ここで過ごした方がいいと思います。戻りがてら枯葉を集めておいたので、これで焚火をしましょう。僕に任せてください、サバイバルが趣味なんです」


 さすがサバイバルが趣味というだけのことはあり、あっという間に枯れたシダの葉や茎などでそれなりの焚火が出来上がってしまった。こうなると、もう、食料があるわけでもなく、明日の朝まではひたすら作戦会議である。


「まずは、食料調達だねー」

「そうね。森の中は昆虫天国だったから、海の方が採れるかもしれないわね」

「ペルム紀前期と考えれば魚類はもう豊富にいる筈だしー、コエラカントゥスとかがいるんじゃないかなー。あーそれとアンモナイト類ねー」

「シーラカンスはいるでしょうか」

「ああ、コエラカントゥスがその仲間ねー。コエラカントゥスを英語読みするとシーラカンスねー。でもシーラカンスは美味しくないらしいから、食べなくていいかなー」


 何故そんなことを知っているんだ二号。


「あと、アカントーデス類ねー」

「話見えんとーです!」


 解説しよう。

 アカントーデス類とは、古生代石炭紀からペルム紀にかけて生息していた魚類の種であり、ペルム紀末期に絶滅したと言われている。以上!


「へー、なるほど。つまり魚なんすね」

「そだねー、魚だねー。あとはオウムガイでも獲れればラッキーかねー」

「じゃ、それ、俺が明日採って来るっすよ。俺アタマもいいけどそういうのはもっと得意なんすよ。狩猟民族っすから」

「なんか言った? そこの鞭毛べんもう虫」

「仕掛けを作るのもいいかもしれません。シダの繊維で籠を編んで、海の底に仕掛けを作っておきませんか?」

「網も作ろうよ、あたしは編めないけど」

「大丈夫だよー、手芸はオイラが得意だよー」

「あたしは生物の解剖だけは得意だから、捌くのは任せてね!」

「じゃあ……」


 と、二号が三人を見渡した。


「籠や網を編むのはオイラが担当ねー。金太は狩猟担当ー」

「おっけーっす!」

「教授はサバイバル的軍師ねー」

「了解です」

「姐御は解剖任せるー」

「教授の夜のお相手も任せて!」

「丁重にお断りします」

「じゃあ俺の夜のお相手」

「あんたはスクトサウルスのメスと交配しなさいよ」

「金太、お前の夜の相手は僕がするから心配するな」

「逆に心配だろ!」

「あ、姐御先輩、僕の白衣で良かったら足元にかけてください。素足のままではいろいろ危険です。何がいるかわかりませんから」


 教授が白衣を脱いで姐御に渡すと、彼女は上目遣いに「ありがとっ」などと語尾にハートをつけて受け取る。


「あ、そうっすね! 教授もたまにはいいこと言うじゃん」

「極めて危険な生物が近くにいるんだ。脊索動物門哺乳綱サル目ヒト科・金太というホモ・サピエンスが」

「俺かよ」

「は? 金太は原核生物でしょ」


 解説しよう。

 原核生物とは、細胞核を持たない細胞からなる生物のことであり、その全てが単細胞生物である。以上!


「じゃあさー、交代で寝ようかねー。金太と姐御をセットにするのはどう考えても問題あるから、姐御は教授と……これは教授の貞操の危機があるから、姐御とオイラがセットの方がいいかなー」

「いいですね、僕が金太とセット、大歓迎です!」

「やめろ気色悪い。二号先輩ズルいっすよ!」

「あんたこそ教授と一緒なんてズルいわよ! あんたはテトラケラトプスと寝なさいよ」

「なんすかそれ、わかんねーっすよ」


 解説しよう。

 テトラケラトプスとは――


「うるさいわね作者! ガタガタぬかすとティラノサウルスに食わせるわよ!」


 ……すいません。ガクブルガクブル(で、でもそれは中生代白亜紀……)。


「は、は、はい、俺は二号先輩とセットで結構です、教授とお休みください」

「そ、そだねー」

「僕はつまり人身御供……」


 翌朝、教授の腕の中で眠る姐御が何をしても起きなかったのは、狸寝入りではなかったのかと後に言われることになる。

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