閑話 纏足



 タイトレーシングの話をしたので、ついでの蛇足話ですね。

 下着ですらねーっすわ。



 纏足てんそく

 これは西洋圏のものというより、中華圏の文化ですかね。


 始まったのは1000年代の初めの方らしいので、時代は……えーと、宋の時代あたりですかね?

 そこからずーっと続いていて、清代になって支配者になった女真族が「そんな変なものやめてしまえ!」と禁止したらしいんですが(お前らの辮髪べんぱつもよっぽど変わってんよ)

 すっかり浸透していたので、禁止令はあまり効果がなかったようです。


 十九世頃、身体に悪いと禁止されても、

 西洋の貴婦人達がタイトレーシングで腰を細く細く砂時計体型に整形している一方、

 中国では女の子の足に布を巻きつけて小さく小さく補正していったわけです。

(禁止された清代はヴィクトリア朝と同時期です)


 纏足のやり方は、骨が柔らかい幼児のうちから始めるのが普通です。

 女の子が三歳か四歳くらいになると、親指以外の四本の指を足の裏側に巻き込むように折り畳み、包帯みたいなものでぐるぐるにきつく縛って固定し、成長させないようにします。

 第二段階として、今度は足の甲を山型に曲げて固定させていきます。


 ――あ、もしかして、今、どんな風か想像した? 想像しちゃった?

 痛そうですよねぇ。骨自体を変形させるっていうところが、コルセットより狂気じみていると思います。


 なんでこんなことしていたんだろう……?

 理由は簡単。小さなあんよが可愛らしいから。


 纏足をされた小さな足で普通に歩けるわけがないから(メッチャ痛いし)女性はちょこちょこと小股で歩くことになるんです。その様子が可愛いんだって。

 それで、小さな足が美人の条件になっていたわけです。

 ちょっとでも小さく見せる為の靴とかも開発されてたみたいです。


 働く女性は、そんな足で働けるわけがないのだから、纏足をしていない女性もいたようです。

 そうなると、今度は「大足女」と蔑まれていたわけです。

 足が大きいだけでお嫁にいけないなんて酷いと思いませんか?


 纏足って、結局のところ、女性を家に縛りつけておく為のものですよね。

 こんなことをされていたら自由に歩き回るのでさえ困難なのだから、嫌なことがあっても逃げ出せない。



 コルセットで締めた女性の理想ウェストサイズが18インチ(約45センチ)

 纏足で小さくした女性の理想の足サイズは10センチ程だったとか。10センチの足は『金蓮』と呼ばれてかなり尊ばれたようです。


 どちらにしても異常です。恐ろしい。身体に悪い。

 このお陰で、西洋の貴婦人達はちょっと動くだけで呼吸困難でバッタバッタと倒れ、中華圏の女性達は事故の際などに逃げ遅れて死亡率が高かったとか。



 こう考えると、日本の平安時代の美人の条件とかってかなり平和的でしたね。

 髪が長く艶やかで美しいこと、イケてる和歌を詠むセンスと機微があること、衣のカラーコーディネートセンスがあることと、好い芳りの香を調合出来ること――これらが揃っていれば、顔の美醜は関係ないのだからいい話だ。



 補足として。

 西洋圏でも小さな足はもてはやされていたようです。

 細い腰に魅力を感じる人達が、小さく可愛らしい足に魅力を感じないわけがないですよね。

 バレエシューズがきつく足を締めつける作りなのは、小さな足への憧れがあったからだという話もあり。

 そういえば、シンデレラはとても小さな足の持ち主でしたね。



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