第20話 刷り込まれていた「非常識」

 死体というものを見慣れない、現代日本人には刺激が強すぎる旅となった。

 稔憲は元がこちらなだけあって、魔獣もその死体も、解体も慣れている。隆文はこちらで修行するようになってから慣れた、、、。本人曰く、「飢えるくらいなら、ゴミ漁りだろうが解体だろうがやる」ということなのだが。

 とどのつまり、隆文が受けていた虐待はかなりひどかったといえる。


「取りあえず、俺のやっていることからは遠ざかって。慣れるまでは、本当にトニーからナイフの使い方、薬草採取方法のレクチャー受けて」

「で……でも」

「ぶっちゃけ言うとね、魔法のごり押しとか力業で倒されると素材がなくなる。それどころか食べる部分もなくなる。だから、時間をかけて慣れて」

 吐くほどつらいなら、こっちに近づかないで欲しいというのが隆文の偽りない本心だ。

「倒すだけが勇者じゃない。人を癒すことも必要だ。あなた方はそちらに重点を置いた方がいいのでは?」

 稔憲にしては珍しく、真っ当なことを提案していた。

「い……いいんですか?」

「何で?」

 そこで躊躇するのが分からない。

「だって、トニーさんとテディさんは神殿関係者ですよね」

一応、、はね。俺は護衛とか警護とか。つまりは戦闘要員」

「……で、でも」

 どっちがどっちだが忘れてしまったが、二人揃って腑に落ちないということだ。


 とするなら……と隆文はあたりをつけた。

「もしかして、あの国の神殿で『神殿関係者は不殺生だ』とかとでも言われた?」

 ビンゴだ。二人揃って、こくこくと何度も頷いていた。

「それじゃ護衛できないよね? もっとも俺もトニーも破門されたわけだからどっちにしても問題ないよ。

 ついでに言うなら、神殿での『捧げもの』は基本神官が揃えるからね」

「そ……そうなのですか?」

「そう。だから気にする必要ない」

 そこまで言えば、二人ともほっとした顔になり、稔憲の方へと向かって行った。


「そんな理由で不殺生だったら、神殿関係者死んでるっつーの」

 二人に聞こえないように思わず呟いた。


 それくらいヘブンズという世界は死が隣り合わせなのである。

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