第4話 主夫ですが何か?(by隆文)

 稔憲の部屋に入るのに、隆文たちはベルを鳴らしたりしない。オートロックナニソレ? というのが稔憲の言い分だ。魔法一つで無効化してしまう。そんなわけで稔憲の部屋は、稔憲が許可した人物しか入れないようになっている。一応、インターホンは生きているが、稔憲が出ると壊れるためでない。

「たでーまー」

「おかえり。いつもありがとう」

「いや、俺は体力ぐらいしか誇れるもんないし」

 稔憲のように頭がいいわけでもないし、他のメンバーのように家が裕福だったりもしていない。

「もっと誇ってもいい。私に付き合えるのは隆文ぐらいだ」

 どうしてそうもあっさりと毎度言ってくれるのか。照れ隠しにキッチンに向かい、稔憲の好きなものを作ることにした。


 稔憲が大好きなのは、和食だ。どうやら繊細な出汁の味が好きらしい。そんなわけで、隆文は出汁パックを水につけ、すぐに出汁を取れるようにしている。

 ちなみに、キッチンに冷蔵庫はない。稔憲特製の「なんちゃって冷蔵庫」と「なんちゃって冷凍庫」「無限収納インベントリ」の三つが置いてある。保冷用の魔石をヘブンズで購入して、作り上げた逸品ものだ。

 冷凍庫の方は業務用冷凍庫も真っ青のマイナス四十度が設定温度であり、蓋を開けても狂うことはない。それでは使う時に低すぎるというので、もう一つ‐二十度の場所がある。その二つで一組だ。

 冷蔵庫も、一定温度を保っている。チルド室は零度、冷蔵室は一度、野菜室が三度である。あとはお茶や飲み物を入れて置くスペース付きだ。インベントリは基本、生き物以外何でも入るし、収納に限界はない。そして、時間経過という概念も存在しないため、買ってきたまま、料理した直後の味がそのまま楽しめる。

ただ、このインベントリ、稔憲と隆文以外使えないよう設定されており、他のメンバーの為にも冷蔵庫と冷凍庫を作ったのだと思っていた。


 のだが。

「いちいち魔法で凍らせるよりも、魔石を充電して使った方が楽だから」というのが理由だと知ったのはいつだったか。稔憲はコンビニで売っている限定アイスクリームなども好きだが、隆文の作る素朴なアイスクリームが一番のお気に入りらしい。それを作るのに、冷凍庫は必需品というわけだ。それに、料理によっては冷やす、常温にもどす、といった工程が必要となる。その度に稔憲に頼っていては料理する方も大変だろうという気づかいがあったというのは、コリーから聞いた「内緒」の話である。


 朝食はインベントリから出した米を炊き上げ、みそ汁とだし巻き卵、焼き魚と野菜炒めというごくありふれたものとなった。

「相変わらず隆文の作るご飯は美味しいな」

「そりゃどうも。俺だけヘブンズに行ってた時は、どうしていた?」

「アレックスやブラッドリーに頼んで買ってきてもらっていた」

 作るのは無理だったか、道理で野菜関係がインベントリに移っていたわけだ、と一人隆文は納得した。肉や魚は冷凍庫に保管されていたため、そこまででもないと判断したようだ。

「んーー。じゃあ、野菜類使い切って明日の弁当にするか。サンドイッチとおにぎり弁当、両方作るから」

 在庫処分をして明日からのお出かけに臨もうではないか。


 蒼に数個の弁当を作って、蒼専用インベントリにいれておくのも忘れない。これがあるだけで、蒼のやる気は断然違うようなのだ。

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