第十色
第十色 ①
琥珀が一階に下りた時、同じく三階に住む
「みんなで何やってるの?」
「おう、琥珀。今度、彩街で一番でかい祭りがあるから、それに使う
「守?」
琥珀が覗き込むと、細く切った竹を編み込んだ丸い物体がいくつも置かれていた。
「そう。この竹で編みこんだものに白い紙を貼るんだけど、それを守って呼ぶんだ。それを祭りの当日に建物に吊るしたり、空に浮かべたりするんだよ。その時に、住人の持つ色でこいつを染めていく」
「へぇ、そんな祭りがあるんだ。なんて言う祭りなの?」
「
背後から声が聞こえた。琥珀が振り返ると、
「七両、彩神祭りってどんな祭りなの?」
「飲んで食って騒ぐのはいつもと変わんねぇよ。あとは、
七両に続いて、白群も、
「なんでも、商売繁盛を願ったり、無事に暑さを乗り切れたことに感謝するために始めた祭りらしいよ」
「まあ、信憑性はねぇけどな」
「シンピョウセイ?」
琥珀が首を傾げていると、
「信用出来るかどうか分かんねぇってことだ」
「ふうん」
「ところで七両、どっかに行くの?」
白群に尋ねられ、
「ああ、空んとこにな。秋冬用の寝間着を取りに行くんだ。最近、朝夕冷えてきたからな」
「ああ。確かにな」
織部は頷いてから、顔を上げて七両を見ると、
「そうだ。お前、今回は手伝えよ?」
「前回、ちゃんと紙張っただろうが」
「えー、そうだっけ?」
半信半疑でそう言う白群を睨むように見た後、七両は顔を逸らして琥珀を見た。
「琥珀、そろそろ行くぞ?」
「うん。ねぇ、この守っていうの作るの手伝わなくていいの?」
「時間があったらでいいぞ。取りあえず、空んとこ行って来な」
「分かった。じゃあ、またね。帰って来てから手伝うから」
「おう」
琥珀は先に歩き始めていた七両の後に続いた。
「七両、お前もな?」
にやりと笑みを浮かべて七両を見上げる。彼は、「分かったよ」と返しただけで、再び背を向けて歩いて行く。
琥珀も手を振った後、同じ様に七両の後に続いた。
「あっ、空さん!」
琥珀がまっすぐ顔を向ける先には、空の姿がある。
染めたばかりの着物を竿に干しているところだった。
琥珀が空を呼ぼうとした時、作業場から珊瑚が出て来るのが見えて、
「あれ?
すっとんきょうな琥珀の声に、七両もそちらに顔を向ける。
「あっ。琥珀くん、七両」
空は二人に気付くと、駆け足でこちらにやって来た。
「空、珊瑚が来てんのか?」
七両が尋ねると、彼女は背後に一瞬目をやってから、すぐにまた目線を前に戻して、
「ええ。ほとんど
「ふうん」
七両がそう答えると、琥珀は珊瑚の元に駆け出して行った。
「珊瑚さーん」
名前を呼ばれて、珊瑚が顔を上げる。
「え? 琥珀?」
ぎょっとした顔を向けている彼女の前で立ち止まると、
「珊瑚さんも遊びに来てたんだね」
「うん。まあね」
珊瑚は伏し目がちにそう答える。
その時、作業場から
「おお、外が賑やかだと思ったら、お前たちか」
笑顔を向けてそう言われて、琥珀も笑顔を返す。
「はい。寝間着を取りに来ました」
「それなら、一昨日染め終わったぞ。せっかく来たんだ。上がっていくと良い」
鳶はそう言うと、半分近くまで開いていた作業場の引き戸を全開にした。
「ほれ。頼まれていた寝間着だ」
目の前の長卓に置かれた紅色と黄色に染め上げられた二枚の寝間着は、夏用のものよりも生地が厚い。
琥珀は覗き込むように寝間着を見てから、
「何か紅葉みたいだね。赤と黄色」
声を弾ませてそう言うと、隣で空も笑みを浮かべた。
「本当。琥珀くんの言う通りね。今の時季にぴったりだわ」
同じ様に寝間着に視線を落としていた七両が顔を上げると、作業場の奥の部屋に三着ほど、まだ染められていない真っ白な着物が目に入った。その着物の上には、文字が書かれた紙が置かれている。
(珊瑚——)
黒い墨で書かれた珊瑚の名前だ。
七両は彼女に顔を向けた後、自分の隣にいた鳶に声をかけた。
「じいさん、先生忙しいのか? ここに珊瑚がいるのは……」
鳶の身体が、一瞬びくりと震えた。その後、彼は口元に笑みを浮かべて七両を見ると、
「まあ、季節の変わり目だからなぁ。体調を崩す者も出てくるだろう。お前たちも気を付けい」
「ああ。そうするよ」
その後、二枚の寝間着を受け取った七両と琥珀は、空たちに別れを告げて四画を後にした。
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