第5話『死者の村の真っ白な魔法』イングヴェィ編

ユリセリさんの能力で別世界に行くには大量の魔力がいる

異なる世界のモノが異なる世界に存在するコトはできないからだ

異世界から武器や道具を取り出せても時間が経てば朽ちてしまう

その時間はモノによって違うみたいだケド、とにかく永久に異なる世界のモノを存在させるのは無理らしい

それはユリセリさん自身もそうで、ユリセリさんの能力は朽ちるのを時間関係なく魔力がある限り防ぎ滞在させるコト

魔力が切れればモノによって期限が切れていればすぐに朽ちてなくなる

まだ期限が来ていないものはそのうち切れてやはり朽ちてなくなる

魔力があればあるほど滞在期間も伸びるみたいだケド、俺は1日…いや2、3時間でもあればなんとかなると考えている

しかし、大量の魔力をどう集めたらいいのか考えているだけで時間が過ぎて行く


自分は今までどんな風に笑っていたんだっけ

思い出せない

自分は今までどんなコト心や気持ちを持っていたんだろう

忘れちゃった

時間が過ぎていくと、もう今までの自分はいなくなっていた

今あるのは、とにかく大量の魔力を集めるコトしか頭にない

どうしてそれを手に入れなきゃいけないのかも…記憶があやふやだ



「本気ですか!?」

大声でそう聞き返してくるのは仲間の1人

俺は自分の城から出かけようとした所、数人に捕まって答えた

「本気だよ

明石のドラゴンを倒してその魔力を手に入れに行くの」

「む、無理ですぅ~!!

明石のドラゴンの強さは神族レベルなんです

プラチナのイングヴェィ様でも今はない力では1人で勝てませんよぉ~」

仲間達が全力で俺を止めようとする明石のドラゴンって言うのは最近になってこの世界に現れた

名前の通り明るく光る石のような身体を持ったドラゴンで、神ではないかと思うほど常に明るく輝いているらしい

始めて見る人達はみんな神と錯覚する容姿をしているケド、生物の魂を餌にして生きる

何万年と生き数え切れないほどの魂を食べてきた為に魔力の高さは必要とする量を軽く超えるだろうね

チマチマ魔力を集めるより明石のドラゴン1匹倒すほうが早いもん

「それじゃあ…」

俺の腕や手や肩を掴み引き止める仲間達に

「君達の魔力をくれるの?この城に住むみんなの魔力があれば足りるんだケドな」

冷たい言葉をかけると、みんなの俺を掴む手の力が弱まり放していく

「………最近、イングヴェィ様は変わってしまった」

「もうずっとあの太陽みたいな笑顔は見れてないですぅ~…」

「こわいわ!!」

ざわざわと不信に思い弱まる信頼感が肌で感じるようだ

もう俺の中には信頼と言う気持ちは失ってしまっているからか、みんなが何を思おうが感じようがどうでもよかった

とにかく…邪魔はしないで

「……………………。」

みんなの不安や心配の空気と視線を受けながら俺は城を出て明石のドラゴンがいる方へと足を向ける

さっき仲間を皆殺しにしなかっただけまだ自分が残っているのかな…


明石のドラゴンが住む深く暗い山はここから廃墟になった町と死者の村を挟んだ先にある

遠くはないから俺の足なら1日で行けるかな

廃墟の町と死者の村は近いから、とりあえず中間地点である廃墟の町で少しだけ休憩

この町は俺がこの世界に来た時にはすでに廃墟になっていたから名前も知らないしどうしてこうなったのかも知らない

人は誰もいないけれど、この廃墟の町の中心には大きな記憶の石があってその石に触れると廃墟になる前の幸せな町の光景が映し出される

その光景は今でも生きてる町のように鮮明で永遠の町とも呼ばれこれがこの町の姿として、町を復旧しないでいつまでもそのままにしている

この廃墟の町は記憶の石で永遠に幸せを生きているんだね

「記憶の石…この町を通ったコトは何度かあるケド、触れたコトはなかったな」

この廃墟の町の本当の姿を見たコトはない

自分の記憶がないから記憶の石と聞いて俺は気になってしまう

この町の記憶しか映さないと知っているのに、やっぱり記憶と言う言葉に反応してしまって…

風の音、地の匂い、鳥の声、今はそれだけしかない静かなこの町は俺が記憶の石に触れると一瞬にして静寂が去り賑やかに蘇る

明るい音楽、焼きたてのパンの匂い、人や動物の声

他の町と変わらないくらいの生きてる町を映し出す

記憶だからなのか映し出された全ては少し薄い感じがする

人が俺にぶつかってもすり抜けて、誰も俺に気づかない

「……みんな、笑ってる……」

幸せ、楽しい、嬉しい、喜びも温かさも愛も…溢れた世界

俺にはない世界がそこには広がっている

幸せも楽しさも嬉しさも喜びも温かさも愛も、何もかもわからない

わからなくなった今少しだけ思い出す

感情のないプラチナだった俺は他人が持っているのに俺が持っていないのがイヤだったんだ

なんで自分だけわからないの知らないの、わかれないのか知れないのか…

ほしいのに得られない

だから…

「…あれは」

町の中心に真っ白なドレスを着た女の人とその彼女の手を引く正装した男、2人の幸せいっぱいの笑顔が見える

これって結婚式…だよね?

目で見てわかる愛の姿に、心が壊れてしまいそうなくらい痛くなる

「やめて…ッ!!」

見たくない!って、記憶の石から手を離すと映し出された全てが消えて町は廃墟に戻った

その時、俺は君のコトが頭に過ぎる

…そうだ……俺は昔とは違うよ

本当はあの感情を俺は知ってるハズなんだ

君がいなきゃ…君に会うコトができれば全てを思い出せるから

プラチナの俺にはなかった感情が君を一目見た瞬間、君が傍にいるだけで生きる

俺の感情はそこにあるんだよ

早く君に会いたい…会わなきゃ


何もわからなくなっても

君に会いたい

それだけは強く心に刻まれてる

俺の愛しい運命の君



廃墟の町から離れ死者の村は始めて来たけれど、本当に近いんだね

「ようこそ!死者の村8へ!」

村の入口でお客様として歓迎される

肉体を持たず魂だけの文字通り死者が住む

死んでもこの世界で生きたいと思う人々の為に神が作った世界にいくつかある村の1つだ

ここに住む死者はこの村から出るコトはできなくて、生者もこの村に長期滞在はできない

それでも死者はたまに生者の愛するものと過ごし、生者はたまに愛する死者に会いに来る

そんな小さな村だ

「今日は生きてる人はいないんだね」

小さな村を見回してみるケド、生きた人の気配はない

たまに生者がいるって聞いてたから、気になったケド

門番?の死者に聞いてみると困った顔をしながら笑う

「あ~それはですねぇ

最近、明石のドラゴンがこの近くに住み着いて

よくこの村に来て暴れるんですよ

ほら見て僕も食べられました!」

はっはっはと笑って死者は自分の右足を指さす先に俺の視線がいく

右膝から下が食いちぎられたようにない…

「笑い事じゃないような気がするんだケド!?」

「身体の一部を食われたのは僕だけじゃないんですけどねー

僕ら死者は痛くも痒くもないけれど

生者にとっては危険だから、明石のドラゴンがいなくなるまでは来ないでって伝えてあるんです

貴方も夜までにはこの村を去ったほうがいいですよ」

明石のドラゴンは夜行性で昼間は寝て夜に来るからと言う

とりあえず、俺は少しでも明石のドラゴンの情報を知りたくて村の中を歩いて回る

小さな村で人も多くないけれど、生者の村や町と同じように人々は人間らしい暮らしをしている

音楽もあって、家畜(も死んでる)の世話をして、畑もあって…

色々見ながら歩いて民家の角を曲がると、白いモコモコしたものが視界を覆う

「えっ!?何々これ!?」

一瞬パニックになるケド、白いモコモコからは清潔感溢れる石鹸の香りがした

「わわわ~!!すみません~!!」

そう平謝りする女の人の声が聞こえたかと思うと、白いモコモコの泡は足元に流れる大量の水で消えていく

白いモコモコの泡がなくなると、平謝りしている女の人と申し訳なく頭を下げる男の人がいた

「今日は大量の洗濯物があったので、つい気合いが入ってしまって家の外まで泡が広がってしまいました」

「ううん、気にしないで」

この2人は夫婦で洗濯屋さんをやっているのだと言う

妻がとても珍しいどんな汚れも消し去って綺麗にする石鹸魔法を持っていて

夫が水魔法で綺麗に洗った洗濯物の泡を洗い流す共同作業で仕事をしているんだって

「洗濯屋さんは色んな町で見かけたコトはあったケド、石鹸魔法なんて始めて知ったよ

スゴイんだね」

雲1つない青空から太陽に照らされて綺麗になった干された洗濯物達が新品のように輝いている

俺の城で2人を雇いたいくらいだよ

「珍しい魔法かもしれませんが…スゴイと言われるような事ではありません……」

「僕達は小さな魔法の村で生まれたので、妻の石鹸魔法の凄さをわかってもらえず認められず

僕は僕で、水魔法は使えてもとても弱いものです

しかし、僕は村の皆がなんて言おうと妻の石鹸魔法は素晴らしいと思います

生前は2人であの村を抜け出し小さな町で洗濯屋をしていました

妻が綺麗に洗濯をした服を受け取った時のお客さんは皆喜んでくれて笑顔でした

沢山の人を笑顔にする妻の石鹸魔法はとても素晴らしいと思うんです」

「あ、あなたったら、お客様の前でそんなに褒めないで

恥ずかしい」

力の弱い魔法なのに人々を笑顔にする魔法…か

魔法の村なら魔法に対して強いか弱いかをハッキリ決めて差別するのは当たり前のようになって根付いている

何度かいくつかある魔法の村に行ったコトがあるケド、ドコの村も差別が酷いのは見てわかったな

リジェウェィが優秀な魔法使いだから手厚く持て成された記憶があるケド

魔法に関しては大都市より小さな村のほうが偏見や差別意識が強い気がした

「彼の言う通りだよ

こんなに綺麗に洗濯してくれたら、みんな嬉しいよ

生きていたら俺の城で2人を雇いたいくらいだもん

前々から洗濯屋さんほしいと思ってたんだよね」

今はみんながみんな自分で洗濯してるんだもん

「ご自分の城をお持ちで…

あっもしかして、貴方は噂のプラチナ様?」

「そういえば、噂通りの容姿をしていますね」

2人の見る目が珍しいものに会ったと興味津々に変わる

「噂がどう伝わってるかよくわからないケド、俺の名前はイングヴェィです」

何故か敬語になる俺

自分自身だから珍しいと思わないし、そういう風に見られるといつもどう反応していいかわからない

「まぁまぁ!プラチナのイングヴェィ様に気に入ってもらえる魔法ならとても光栄ですね

もしよければ、私達の子供が2人いるのですが

上の10歳のお姉ちゃんが洗濯大好きで私の魔法を受け継いでいるので

是非、仲間にして頂けたら…」

「いいねそれ!!

親バカかもしれませんが、10歳でもしっかりした子なんですよ~

手紙送っておきますね!

いや~娘がイングヴェィ様のお城でお役に立つとなったら、村の自慢になりますなぁ~はっはっは!」

まだ何も言ってないのにその気になった親父は急いで家の中に入り手紙の準備をしているようだ

まぁいいか…洗濯屋さんはほしかったし、この人と同じ石鹸魔法を持っているなら悪くない

「あ、ありがとう

あっそうだ

俺は明石のドラゴンのコトが知りたくてこの村を歩き回ってたんだ

明石のドラゴンのコトで知ってるコトがあれば、何か教えてくれるかな?」

「明石のドラゴンですか…」

洗濯屋さんの妻は明石のドラゴンに1番詳しいのはこの村の者だと色々教えてくれた

洗濯屋さんの夫婦も夫は背中を妻は脇腹を食いちぎられたと言う

門番?の人と一緒で痛くも痒くもないと笑いながら

明石のドラゴンは夜行性で夜によく来る

そして死者の村の人々の魂を丸呑みするコトはなく、身体の一部を食いちぎるだけで帰って行くと言うものだ

明石のドラゴンが存在していた世界の記述によると魂(魂を持った肉体つまり生者も)を丸呑みにして生きると書いてあったが

この村では魂を丸呑みするコトはなく、それは明石のドラゴンがすでに不死になるまで魔力を溜め込み魂を食べる必要がないからではと村では話されているらしい

つまり、明石のドラゴンはただたんに人々の魂を食いちぎって遊んでるだけではないかと

「痛くも痒くもないけれど、やはり巨大なドラゴンに追い掛けられて食いちぎられるのはとても恐いです

危ないからこの村に来てはダメと生者達とも、もうずっと会えませんし……」

この夫婦も子供は生きているから、会えないのが辛いと悲しんでいた

死者が明石のドラゴンのせいで悲しいのは、自分の大切な生者達と会えないコト

身体の一部がなくなるより、大切な人達に会えなくなるコトのほうが何倍も何億倍も苦しいんだ…

大切な人に会えないのは苦しい……

目を閉じると君の姿が思い浮かぶ

俺の大切な人…確かに苦しいね

「そろそろ夜になります

イングヴェィ様もこの村を出る時間です」

山の向こうに微かに見える沈む太陽の光

もう数分もすれば夜の闇に包まれる

倒しに行くと言えば、止められそうだから黙って頷く

結局、弱点は誰も知らなくてわからなかったケドなんとかなるかな



-続く-2015/01/12

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