究極の日曜日

@muuko

現代ドラマ編

ドライブ


 光り輝くコンクリートの森を抜けると、空が明るくなって田畑が広がる。本物の森が、自然が私に迫ってくる。

 山々の滑らかな稜線が横を流れていく。いい天気。

 黄金色こがねいろの稲穂が、色づき始めた木々が波打って道の先を示す。


 まるで別の世界。



 首都高を抜けて、今日は思い切って東北道。初めての道。



 私はただ、目の前の道をひた走る。

 遠くに走れば走るほど、剥がれて行く。私を私にしているものが。

 纏ったヴェールを脱ぐように、一枚一枚。



 目的なんかない。

 道があるまま、その先に行く。


 強いて言うなら本当の私になるために。

 誰も知らない、ただの私。

 私しか知らない私。

 裸の私。



 ただ走る。

 振り返ることはない。

 昨日の私は置いてきた。

 前だけ見て走るのは、とても気持ちがいいものだと知った。

 追い抜く車を横目に、自分のペースで行けばいい。

 だれにも文句は言わせない。

 気分が乗ったら、スピード上げて。音楽かけて。大声で歌ってもいいじゃない。



 ありえない速さで、景色をぐんぐん追い越して。流して流して。

 先の先に届く感覚。

 大人にならなきゃ味わえない。贅沢な時間。

 大人はずるい。

 澄ました顔して、気持ちいいことはしれっと隠して知らん顔。

 子供の頃なら文句の1つも出るかもしれないけど、今の私はそれが好き。


 そうでもなかったら、大人なんて生き物。

 ご褒美がなきゃ、やってらんないでしょ。



 風になりたかった。

 誰よりも早く。誰よりも先を行く。

 昔憧れたあの人は、どの辺を走っているのかな。

 今の私は追いつけるかな。


 ちょっと浸ってしまったりもして。



 さぁ、明日からはいつもの私。

 面白くなくても笑うし、ムカついても顔に出さない、悲しくても関係ない。

 誰もそんな私を求めてない。

 時間通りに、正確に。

 ミスなくソツなく抜かりなく。

 それが私の仕事。


 言っておくけど、私はそんなにやわじゃない。自分にしかできない仕事に誇りを持って向かってる。



 だけど。



 今日のこの時間は、誰にも邪魔させない。誰でもないの、私は私。


 好きなようにするの。




 見ててね。

 明日の朝7時59分。

 とびきりの笑顔で待ってる。

 月曜日のあなたの憂鬱が少しでも軽くなるように。


 テレビの中から背中を押すよ。



「今日も1日、頑張りましょう!

 行ってらっしゃい!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る