2016年8月27日ーーホットなジェラートの日part2

 次なるジェラートはヨーグルトを使ったレアチーズ風のものです。

 ヨーグルトはこっちじゃパルフェと言うらしいのです。初めて聞いた時はパフェのフランス語と思ったけど、実際はヨーグルトでした。

 このヨーグルトをまずは水切りするんだけど、ここでも魔術が活躍。中の水分を引き出すには本当は一晩かかるんだけど、これを魔術でイメージさせて水だけを引き出すようにすれば大丈夫。

 見た目リコッタチーズのような水切りヨーグルトが完成です。

 んで、次の工程だけども。


「マリウスさん、また生クリームお願いしてもいいですか?」

「ああ、大丈夫ですよ。こちらもちょうど終わったところです」

「おお」


 どれどれーとバットを確認すれば、綺麗に冷凍されたチョコチップジェラートが出来上がっておりました。


「ただ冷却させるのではと思いまして、何回か混ぜながら冷やしたのですがあってましたか?」

「お見事です」


 僕が言わずでも自力でその工程に辿り着いたのは流石としか言いようがないでしょう。


「カティアちゃーん。こっちのどろっどろになってきたけど、今度は僕が冷却しようか?」

「あ、ちょっと待ってください!」


 ホイップ制作をマリウスさんに任せて、僕はライガーさんが覗き込んでたベリーミックスジェラートの方に向かう。

 ボウルを覗き込めば、赤紫のどろっどろになっている果物のペーストが出来上がってきた。


「えーっと……消去サイザー!」


 中の風の球だけをとりあえず消すイメージをすれば、呪文の後にボウルの中で回ってた風の球は消えていった。けれど、ボウルを覆う半円状の壁はやっぱりフィーさんの魔術だから簡単には消えない。


「フィーさん、この膜消してもらっていいですー?」

「んー、ちょっと待ってー」


 フィーさんには卵液を作ってもらってました。

 卵黄、卵白に分けることが多いジェラートやアイスのレシピだけど、このレシピは全卵で作れてフィーさんには砂糖と一緒にもったりするまで混ぜてもらっていたのです。


「よーし、出来た! はいはーい、膜を消せばいいんだね?」


 と言って、距離が離れてるにも関わらず指パッチンで膜を消去してくださいました。

 それから、僕は蜂蜜を適量入れてスプーンで軽く混ぜた。


「じゃあ、これを料理長がやってたみたいに冷却すればいいんだよね?」

「はい。瞬間冷凍するよりも、何回か混ぜながら冷やす方が滑らかになるんですよ」


 別にしなくても大丈夫っちゃ大丈夫だけど、手間かければなお美味しいからね。


「カティアさん、ホイップ出来ましたよ」

「は、はーい!」


 だから早業過ぎますよマリウスさん!

 まあ、必要だったから良かったけどね。

 次はフィーさんの作ってくれた卵液に、マリウスさんの作ってくれたホイップ、リモニ(レモン)汁少々、香りづけのラム酒っぽい洋酒と水切りパルフェを加えてよーく混ぜます。

 これも他と同じように冷凍すれば完成。

 ただ、これだけ食べても飽きが来るので、フェイのジャムソースもその後に作りましたよ。

 さて、これが終わったからには。


「……最後はセヴィル用の辛いのだっけ?」

「思いっきり激辛ではないですし、ジェラート発祥の地だと定番ではあったようですよ?」

「えー、ちょっと信じらんなーい」


 まあ、僕も現地には行ったことないんだけど、そっちだとチョコ味のもあるらしいんだよね。

 でも、セヴィルさん専用だから僕が一回作ったようにバニラ味にしましょう。

 と言うのも、チョコ味にするなんて口に出したらフィーさんが嫌がらせに作らせようとするもの。

 ダメですからね、そんなことは僕が許しません。

 食べ物で悪戯なんてぜーったいに許しませんとも!

 あ、でもバラエティで昔やってたパイ投げは面白くて好きだったけどね。








 ♦︎








「お待たせしましたー!」


 すべてを作り終えて、提供の準備も整えてから僕とフィーさんは食堂に向かった。


「待ってたぜー!」


 エディオスさんは上座で準備万端にスタンバッております。

 アナさんやセヴィルさんは席でのんびり紅茶を飲んでおられました。

 ただ、セヴィルさんは僕の声を聞くと直ぐにぐるりとこちらを向いてくれました。待ちに待った辛いお菓子に期待大って感じですね。

 目だけがキラキラ輝いておりますよ。わかりやすい!


「まあ、お待ちしておりましたわ。そちらがジェラートと言う氷菓子ですの?」

「はい。全部で4種類作ってきましたよー!」


 マリウスさん達との自信作です。

 チョコチップバニラ味にベリーミックス味とレアチーズ風味。きわめつけはセヴィルさん専用のペペロンチーニジェラート。これだけは少量にしてるから一番少ないけどね。調理場でも流石に出すのはしのばれるし?


「ほー、見た目だけじゃよくわかんねぇが、甘いのはどれだ?」

「一番左のココルルチップのジェラートですよー」

「んじゃ、俺最初はそれにするわ」

「はーい」


 大きめのスプーンで何回かバットから削るようにして楕円形を作り、ある程度の大きさになってからガラスの器に盛りつける。


「とりあえず一個にします?」

「だな。他のもあるかんな」

「はい、どーぞ」

「カティアー、僕はパルフェのがいいなー」

「わかりましたー」


 こっちも同様にして器に盛りつけるが、仕上げにジャムソースをかけて完成。

 それぞれミニスプーンを添えて渡します。


「アナさんはどれがいいです?」

「そうですわね。この真っ赤なのは一体何が使われてますの?」

「果物だけのジェラートで、プチカとフェイを凍らせて砕いただけなんですよ。卵やクリームなんかは一切使ってません」

「さっぱりしてそうですわね。では、そちらをお願いしますわ」

「はーい」


 アナさんのも手早く提供して、いよいよは。


「セヴィルさんのは、カラナ(唐辛子)入りのジェラートですよー」

「あ、ああ。ありがとう……」

「見た目、パルフェ入りっつーのとそこまで変わんねぇよな?」


 気になってるらしいエディオスさんも覗き込んできた。

 まあ、確かに見た目は普通のバニラジェラートにしか見えない。

 だけども、見た目に騙されちゃあいけないのですよ。

 これも皆さんと同じように掬って盛りつけてセヴィルさんに手渡した。

 僕は一番好きなチョコチップにします。


「んじゃ、早いこと食おうぜ。溶けてきてっしな?」

「そうですわね」

「「いっただきまーす」」

「……いただく」


 それぞれひと匙ずつ掬い、口に運ぶ。

 うーん! パリパリのチョコチップが濃厚なミルク味のバニラジェラートによく合う!

 ほとんど手伝ってもらって作ったものだけど、後で余った分はマリウスさん達にも持ってく予定だからその時に感想聞かないとね。


「ん、美味い! ココルルを砕いて混ぜるなんて斬新だな?」

「こっちじゃないんですか?」

「大抵はケーキにするか、普通に食うかだけだぜ?」


 たしかに、ガトーショコラやトリュフチョコらしきものはデザートに出て来たりするけども、チョコチップにしてクリームに混ぜたりはなかったなぁ。


「まあ、果物だけのお味ですのにとてもさっぱりしてますわ」

「あ、ちょこっとだけ蜂蜜は入れてありますよ?」

「そうですの? けれど、ちっともくどくありませんわ」


 アナさんはベリーミックスジェラートを嬉しそうに頬張っておられました。

 と、今思えばそのジェラートの色合いがアナさんの髪色に似ていると感じた。ジェラートの方が紫がかってるけど、それはフェイの果汁のせいだしね。

 けど、そんなにも美味しいのか。僕も次はそれにしようかなぁ?

 だけども、


「うん。これ本当にパルフェ混ぜたの? たしかにカッツみたいな味になってるねぇ」


 フィーさんが食べてるレアチーズ風も食べたいのです!


「マジか?」

「ピッツアとかにのっけるのよりは、そのまま食べれるのに近いよ。このジャムソースも甘いから一緒に食べたら甘酸っぱさが増して美味しいー!」

「俺ぜってぇ次それにするぞ!」


 こちらもやはり美味しく出来ていたようです。

 さてさて、残った1つを食べてるセヴィルさんはと視線を隣に動かした。

 すると、おっかなびっくりなことが起きていたのです。


「……美味い」


 ぱくぱくぱくぱくって、セヴィルさんがジェラートを食べまくっていたんだよ。

 あの辛いのをあんなにも積極的に⁉︎

 最初は甘いけど、後からガツンとくる辛さは平気なんですか⁉︎

 セヴィルさんの珍しいがっつきように、エディオスさんやアナさん達もびっくり目を丸くしていた。


「……ゼルがあんなにも?」

「余程好みに合ったお味でしたのね……」

「おいしーの?」

「美味いぞ」


 と言って、あっという間にペロリと平らげてしまわれた。

 僕としては作り手冥利に尽きますが、舌とか大丈夫?

 そこまで大量には唐辛子(カラナ)投入してないけど、分量通りだから舌が少々痺れるくらいには入れたよ?

 あと、僕に向かってお代わりな状態で器差し出してくださる辺り、よっぽど気に入ったんですね?


「お代わり、ですか?」

「いいか?」


 質問したと同時に即答。

 読みが当たったので、僕は器を受け取って台車の方に向かった。

 そしたら、


「カティア。一体どう言う味なんだこれ?」

「僕もちょっと気になるね。甘いものが苦手なセヴィルがあんなにも積極的に食べるなんてさ」


 気になってたらしいエディオスさんとフィーさんが詰め寄ってきた。

 まあ、たしかに。こんなにもセヴィルさんが甘い物と言うか食べ物を積極的に召し上がることがそうそうないのだろう。

 いつも静かーに文句も特に言わず召し上がるイメージが強いからね。

 今だって今か今かと待ってくださっているし。

 とりあえず、僕はセヴィルさんのお代わりを渡してから、ミニスプーンを2つ用意してほんの少しだけ掬って2人に手渡す。


「間違っても、咳き込んだりしないでくださいよ?」

「おう」

「いただきまーす……」


 パクリとほぼ同時に2人はスプーンを口に運ぶ。

 最初はおやっと首を傾げていたけど、次の瞬間。


「「か、辛いーーーーっ⁉︎」」

「だから辛いのですって言いましたよね?」


 スプーンを取り出して、2人は大声で叫んでしまった。

 あまりの声の大きさに何事だとマリウスさんや給仕のお兄さん達がやってきた。


「陛下⁉︎」

「一体何が⁉︎」

「騒ぐことはないわ、2人共。エディお兄様とフィルザス神様が、ゼルお兄様用のジェラートを召し上がられて声を上げただけよ」


 それよりも氷たっぷりのお水を持ってきてちょうだいな。

 アナさんが代表してマリウスさん達に簡単に事情を説明され、対応をしてくださった。

 マリウスさん達は一瞬唖然とされたが、給仕のお兄さんはすぐに我に返って裏側に戻って行かれたよ。


「けれど、そこまで辛いものですの?」

「始めは甘いが、後から辛味が来る。これならば、俺はいつでも欲しいな」

「まあ」


 とは言っても、アナさんはペペロンチーニジェラートは食べようとせず、セヴィルさんが召し上がってるのとエディオスさん達が持ってきてもらった氷水を勢いよく飲んでいるのを交互に見ていた。


「……ちびっとだけなのになんつー辛さだ」

「まだ舌がびりびりいってるよー……」


 それから2人は口直しにと、それぞれ食べてない方のジェラートを召し上がることになった。

 だけども、なんだか大袈裟過ぎやしないだろうか?

 と思って、残ってたミニスプーンを使って僕も一口。

 始めは普通のバニラジェラートのお味。

 だけども、後からガツンとくる辛味が尋常じゃなかった。


「なっ⁉︎ こ、これはっ‼︎」


 なにこの辛味⁉︎

 こんなにも一気に汗が吹き出すほどの量は絶対入れてない。昔一度作って試食した時も、舌が軽くヒリヒリする程度だったのに。

 こりゃ2人が大袈裟なリアクションするのも頷けれる。僕はすぐ様パルフェ入りのジェラートを器に入れて口にする。

 けど、舌がびりびりしてるせいでわずかな甘みと冷たさしかわかんない。

 うぇーん、味蕾が麻痺しちゃってるよー。


「なんでこんなにも辛く…………となると」


 ちろりと振り返れば、ぎくりと肩を震わせた人物が1人。


「うっ…………ごめんなさい」

「フィーさん……」


 やはり貴方ですか。

 僕が目を離した隙にカラナの量を増やして混ぜたんですね。カラナはタバスコの透明な感じだったので色だけじゃわかんないから、セヴィルさんを少しばかり驚かせようとしたのだろう。

 まったく、食べ物で悪戯するとはなんたることだ。

 だけども、


「……そこまで辛過ぎでもないが?」


 2杯目もペロリと平らげてしまわれたセヴィルさんは至って普通。そして、またお代わりしたい気でいらっしゃる。

 あの辛さが全然平気って、この人の味蕾は頑丈なの⁉︎

 結局、セヴィルさんはバットの半分ほど食べてくださって、残りは明日に持ち越すことにした。

 僕達一口組は、その日から2日ほどは舌のびりびりが取れなかったよ。

 もう2度と口にしたくはないと思ったけど、セヴィルさんがあれだけ気に入ってくれたからもう一度くらいは作ろうかと考え直しそうだ。

 ただ問題なのが1つ。

 あの辛さの分量を量ってないから、好みの辛さがわからないことです。フィーさんも適当に増やしたとしか口を割らなかったので困りました。


「カティアが言うくらいの普通の辛さでもいいぞ?」

「でも、セヴィルさんはどれだけ辛いのが好きなんですか?」


 後日もう一度作ろうかと言う頃に聞くと、セヴィルさんは僕が試食しやすいくらいの辛さでも問題ないと言ってくださった。

 だけども、あれだけの好印象からがっかりするのではと思ったから、僕は質問返しをした。


「そうだな……この間のがちょうど良かったのは否めないが、少量の辛さも好きな方だぞ?」

「あれが好みですか……」


 完璧に再現は難しいけれど、僕は分量通り入れてから気持ち2倍を追加して作ってみた。それを食べてくれたセヴィルさんだったけど、その辛さでも『まだこの前のが辛いな』と言っていた。

 フィーさん、貴方どれだけ追加したんですか。

 と言うわけで、しばらくフィーさんが記憶探査する際にキワモノな食べ物も連想する事で僕は意趣返しをしたよ。

 あーんなホットなジェラート生み出すのに、悪戯心満載に食べ物を使うのが許せないからです。

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