真夜中のラジオ 3

 まだ肌寒いこの季節、輝と森高町子が帰るころには教室に西日が差しこんでいた。その教室から出ると、森高町子は輝を、自分の伯父や伯母のいる病院に連れて行くという。 

 病院、と聞いて輝は、森高の伯父や伯母はどちらも病気で入院しているものだと思った。だから、学校の帰り道にある大きな病院を想像したが、森高はまるで違うほうに輝を案内した。彼女の家の近くで、彼女の伯父と伯母は小さな病院を開いているのだという。

 輝は、それを聞いて少しほっとした。病人から何かを聞かされるとしたら、それはとんでもなく重い話になりそうだったからだ。

 森高の伯父と伯母は、彼女の母の兄夫婦だという。それに加えて医者だというのだから、なんだか気難しそうで輝は少し身構えた。

 輝は、森高の用事のために、部活をキャンセルし、アルバイトも休む羽目になった。幸い、店は平日なのでそんなに店は忙しくない。しかし、それでもシフトから輝一人抜けることに店長はいい返事をしなかった。こういうことはなるべくしないでくれ、そういわれてしまった。母には携帯にメールを送っておいた。どうしても外せない用事があるから今日は部活もバイトも休むと。理由はまだよくわかっていなかったので、打たなかった。

 森高は、輝が用事を全て済ませると、自分の伯父や伯母がいる病院へ急いだ。なぜ急ぐのかは分からなかったが、最近の周りの変わりようと何か関係があるのだろう、そう思って黙ってついていった。

 森高の行く道は、輝の家とはまるで逆の方向だった。彼女は歩きで通学し、電車を使っているが、病院へ行く道は電車が必要なかった。森高の家からも離れた位置にあり、どちらかと言うと学校に近い位置にあったからだ。

 輝も森高も、そしてこの高校も、地方都市に近い田舎にあった。周りは田んぼや畑に囲まれているため、少し遠い山の向こうに日が沈むと、すぐに暗くなってしまう。森高は女子だ。輝がいるとはいえ、暗くなるのは心細く、また怖くもあったのだろう。

 日が沈んですぐに、二人は、病院に着いた。

 中に入ると、数人の患者がまだ待っていて、受付の窓口には何人かの看護師や事務職員がいた。そんなに大きな病院ではないが、個人経営では大きいほうだろう。診療科は三つ、精神科と外科・内科だった。

 医師は二人。名前までは書いていなかったが、森高の母方の兄弟ということは、伯父か伯母、どちらかがハーフだということになる。

 森高は、病院に着くとまっすぐに受付に行った。すると、そこにいた事務員が彼女を確認して、奥にいた看護師に手を振った。

「町ちゃん」

 看護師は、笑ってそう言うと、森高のほうに歩いてきた。

「ごめんね、今日はお昼から先生、海外に出張しちゃって。国境なき医師団とか、そういうところに登録しているでしょ。なんだか最近忙しいらしくってなかなか会えなくてね。予約した患者さんも困っているのよ」

 それを聞くと、森高は待合室にいる患者を見渡した。五、六人はいるだろう。この時間にしては大した数だ。

「でも、どちらかはいるみたい。おじさん? おばさん?」

 すると、看護師は森高に耳打ちした。

「そっちの子は誰? 町ちゃん、ついに彼氏作ったんだ。だったら、今日は引き取ったほうがいいわよ。その子、誘惑されちゃうかも」

「彼氏? 誘惑?」

 森高は、あからさまに嫌な顔をした。赤面もしていなければ焦っている様子もない。なんだか輝にとってそれは少し寂しいものだった。少しは照れてくれてもいいのに。そう思いながら森高の行動を見つめていた。

 看護師は、そんな森高にあきれ顔をした。彼女もまた、彼氏を作ってこない森高に対して寂しい思いをしていた。この年頃の女の子ならば、好きな男の子の一人でもいてほしいものだと思ってもいた。その看護師の意図を踏んだのか、森高はため息をついて、また少し寂しそうに笑った。

「ごめんね、相沢さん。私はまだ彼氏とか作る気になれなくて。でもそのうちできると思うから。それで、今日いるのは伯母さんのほうなんだね」

 相沢、と呼ばれた看護師は、笑顔で頷いた。

「先生の診察が終わったら、すぐに会えると思うわよ。それまでここで待っていてね」

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