気高くそして邪悪なウンコ

連続射殺魔

1

家族で団欒の夕食時の事である。

TVのニュースで民主党の人事についてやっていた。

弟は今日も民主党の批判を始めた。

それはどうせハム速か何かインターネットの受け売りでしかないのは家族はみんな知っている。

俺はため息をついた。

家族の誰もが反論しないのは、それがあまりにも馬鹿げていて、無意味な主張でしかないからなのであるが、弟はそれが自分の主張が反駁もしようのない瑕疵もなく完璧に筋が通っているものと勘違いしているらしく、一通り能書きを垂れたあと、今日も満足気な表情を浮かべていた。

俺は言った。

「お前・・・、今日はハロワ行ったのか?」

「行くわけ無いじゃん」



弟は36歳、一年何か月前に船員見習いの仕事を辞めた。

それ以来、ずっと無職である。

ただの無職ならそれも仕方ないが、弟は家に家賃(生活費)をビタ1文入れようとしない。

そして昼過ぎに起きてきて、昼から明け方までネトゲ三昧である。

それがもう、一年以上続いている。

「今はどこも賃金が安いの。いい?会社は一生のモンなんだから、慎重に選ばないといけないんだよ」

「じゃあ地方公務員の社会人の中途採用枠とかどうだ?試験あるけど、待遇は良さそうだ。ちょっと頑張ってみる価値はあるんじゃないかな」

「公務員なんてロクに仕事せずに金だけ貰うクズじゃん。俺はそんなゴミ共と一緒に働く気はないね」

「はぁーあ?じゃあどうすんだ?お前ネトゲばかりやっ「うるせえな!いいよ、もう!」

弟はプライドが高く、それが少しでも傷付けられようものなら烈火の如く怒り出す。


弟は不快感もあらわに、風呂に向かっていった。

その風呂は俺ら家族が当番制で掃除して湯を張っているもので、彼はそういった家事には一切加担しようとしない。

今日も居候の弟は一番風呂である。

そして風呂から出たら、明け方までネトゲに熱中するのである。

彼はネトゲを通して世界中にお友達がたくさんいるのがとても自慢らしい。


弟は昔から友達がいない。

ゲームだけが友達だった。

高校を卒業後、弟は工場で働いていたが、余暇の時間はすべてをゲームに注ぎ込んでいた。

流石に工場内単純労働以外に何も人生で得た積み重ねのない弟は30過ぎて焦ってきたらしく、ネットの向こうの顔も見た事のない友達の言うがままに転職した。

そして、キャリア1年そこそこで退職してきたのだった。


再び船員の仕事を探しているらしいが、見習いも勤まらなかった弟に海の求人が来る訳もなく、弟は無為に日々を過ごし、そして失業保険も船員保険も切れてしまったのだった。


いつまでも遊んでいるのを咎めると、

「遊んでるわけじゃない。今求人が切れてる」

と弟は説明するが、それは嘘だ。

ただのぺーぺーの分際で仕事を選り好みしてるだけなのは俺たち家族も知っている。

弟は昔はそんな下らない嘘をつく男じゃなかった。


ある夜、俺はハンマーを持ち出した。

「何するのっ?」

「弟のPCとルーターを破壊する」

と俺は母に行った。

「やめろ!俺は家族のいがみ合う姿なんか見たくない!取り返しのつかない事になるぞ!」

と父は言った。

いがみ合うのは覚悟の上だ。

取り返しのつかない事になるのも覚悟の上だ。

ネトゲができなくなったくらいで逆恨みされるような弟なら、こっちから縁を切りたいくらいだ。

「お前は大学4年間自由を満喫したじゃないか!弟は高校を出てからずっと真面目に働いてきたんだ!人生の一時期そういう期間があってもいいじゃないか!」

馬鹿なのだろうか。

18.9の学生の小僧と36のおっさんでは置かれた状況が違うことも理解できないようだ。

「じゃあとーちゃん何とかして。そもそもコレ俺がやる仕事じゃないしな」

「わかったよ!きつく言っとくから」

それから一ヶ月が経った。

相変わらず弟のゲーム狂は続いており、要するに父は弟に対して何もしていない。


近頃、涼しくなってきたので夜風に当たりに外に出た。

離れの家から、ゲームが思い通り行かなくてキレてる弟の喚き声が今日も聞こえる。

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