#17

 明らかに嫌悪している表情で田辺は万治を見ていた。


「だからあそこで敢て、無意味な内容の質問である、昼飯を聞いたんだ」


 万治は得意げに右手を上げて、その場の全員を煽ってみせる。


「それが何だって言うんだ?」


 いつの間にか大岡も落ち着いたのであろうか、落ち着いた様子で万治に尋ねる。


「安心から緊張させる事によって行動心理を見抜きやすくしたんだ。

 わざと相手の頭をクリアにリセットさせて、落ち着かせた後に何をするかを観察する為にね」


 その場に居る全員が、手ぶり身振りで話す万治をジッと見ている。


「先ほどの握手の推測から、これを使って俺は鎌を掛ける事にしたんだ。結果は案の定、分かりやす~い、反応から始まったけどな。

 まず、『重要な質問』だと、後フリし少し考える時間を与える。そして、部長さんに質問をする。

 この時のポイントは二つ。一つは、ポケットに入れていた手だ」


「手?」


 ポツリと川下は言った。

 それに答えるように万治は頷くと、


「そう、俺との会話の後にポケットに手を入れていた。他の人に質問をしている最中もずっとね。

 その際にポケットから親指のみ外へ出すのは、敵対視や自分の力を誇示するものなんだ。ハリウッドスターみたいに大衆に認められた奴が良くやってる、今回の場合は部長さん自身が自分の嘘に自身を持っていたんだろう。

 そして、俺が質問した際にそれを止めて腕を組んだ。

 コレは相手との距離を置く為にとる事が目的とされて、本心を隠す行動。よく怒ってる人がやってるの見ないか? 因みに腰に手を当てて怒る奴は、言いたい事を全部いっちゃうタイプ。腕を組む奴は内心、言い足りない事や何か隠してるサイン。

 わかりやす~く説明すれば、ツンデレ美少女キャラなんかは、良くこの特徴捉えてるよね。

『ちょ、ちょっと、アンタ! 今日、私の格好を見て、何かいう事ない訳!?』

 と腰に拳を添えてプンプン怒る美少女。

『何……だろ?』

 と恍ける男子。

『キィィ! 信じらん無い!! アンタのそういう鈍感な所、どうにかならない訳!?』

 更にプンプンする美少女。

『そ、そんな怒るなよ。あ、今日は髪型変えてるね、可愛いよ!』

 タドタドしく答える男子。

『なっ、何よ!? 分かってたら、最初に言いなさいよ!』

 腕を組んでツンとする美少女。

『ご、ごめんよ~』

 手を合わせて謝る男子。

『フンッ……(――前に買い物行った時の事、覚えてないのかしら。今日のヘアピン私に似合うって、付けたらもっと可愛くなるって言ったからコッソリ買って、付けてきたのに……)』

 突っぱねて見せる美少女。

『あ、あと、今日のヘアピン可愛い。凄く似合ってるね』

 焦りつつもニコッと笑う男子。

『か、かわ……もぅ! ばっかじゃないの!?でも……ありがと』

 と恥じらいを見せる美少女。

 んね、分かりやすい例えでしょう?」


 そんな万治を見て、ぼそりとアヤメは一人呟く。


「イヤ、今の小芝居いるか? オイ」


 小芝居が終わった万治は自身の顔の前で人差し指を立てて続けて話す。


「んで、それを肯かせるのがポイント二つ目。目の動き、右上を一瞬見た反応。

 何かを思いだすかの様にしていたが、実はそれは嘘を付く時に起す反射行動。

 普通何かを思いだす際には右上に視線が泳ぐもの。これって意識してやってみると分かるけど、左上に視線を動かして物事を思い出すと、案外に詳細は思い浮かばなかったりするんだよ。

 以上の二点から、部長さんは嘘を付いていると俺は推測した。まっ、昼飯何てもんに嘘を付く必要が無いのに付かざるを得なかった何かが有るのは明白だな」


 嘲笑うかのように万治は田辺をニヤついた笑顔で眺め、


「後は此処まで来たら、鎌をかけて犯人でしか知り得ない情報を引き出すだけ。そう、秋葉原の駅で突き落としたとね。

 面白いように誘導に引っかかったな、部長さん」


 万治は部長に向かって指をさした。

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