第2話 12月4日(日)1

 その日の朝は、前日までの雷雨が嘘のように晴れていた。

 うっすらと積もった雪は昨日の雨で溶かされ、冷えた気温がところどころに薄い氷に変わっていた。

 僕は、白い息をハァーッと吐き出しながら、神社に歩いていた。

 べつに目的があったわけではない。

 強いて云えば、薄い氷がペキッと音を立てて割れる音が好きで、表面だけ凍った新設の上をシャクッと音を立てて歩くのが好きで…それだけの理由で僕は丘の上に立つ神社へ続く1本道の坂道を歩いていた。


 シャクッ…シャクッ…と冷えた空気に音が反射するような朝、太陽の光が雪を溶かし始める前の1時間くらい、この時間は僕の…僕だけの時間で、この世界は僕だけの世界だと錯覚してしまう。

 でも、それは時間が来れば家族がいて、友達がいて、当たり前の世界に戻れるからできる妄想。

 安全に孤独な妄想に更けることができるのは、それが現実では起こり得ないと理解しているからだ。

 世界は僕一人で、今、この神社には、そうなってしまった原因がある…みたいな感じで勝手に緊張感を高めて歩く、そんな妄想。


 神社の境内に腰かけて、自分の足跡を眺める。

 雪に陽の光が降り注ぎ、キラキラと眩しく光る。


 この瞬間、僕は現実の世界へ戻るのだ。

 来年には中学生になる。

 子どものような妄想ごっこも卒業しなければならないのだろうか。


 きっとそうなんだろう。

 日差しが僕を現実に戻す、少し寂しいような空しいような気持ちになって吐いた溜息は白い息となって視界を遮った。

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