絶界の探求者

Habicht

第1話 冒険をしよう!


 人口15万人のよくある街に住む、どこにでもいる高校生、それが僕。


「青城 ケイト」

 誕生日は遅いからまだ17歳だけど、部活(柔道)が終わり、就職活動の真っ最中のはずの高校三年生。


 未だ将来は決まらず、あまり余裕の無い家庭のため進学も無い。


「就職」

 学生から急に突きつけられる現実に、僕は戸惑い、道を見つけられずにいた…


 ………

「お前は部活頑張ったからな、希望さえ決まれば大丈夫だろう」

 と、担任が背中を押してくれてはいるものの、自分の未来を決められないでいた。

 ………


 ただぼぉーっと過ごした退屈な夏休みが開けて、もうあまり気にすることもない成績から、授業にも身が入らず、羽目を外せるほどのお小遣いも無いからすぐに帰宅するしかなく、その日もトボトボと家路を歩いていた…。


「お前さん、迷ってるね?」

 突然、ひくーい声で話しかけてきたのは、くたびれた服に身を包んだ"いかにも怪しげな老婆"といった雰囲気のお婆さんだった。


「あなたには関係無いでしょ…」

 誰かに話を聞いてほしいと思ってたけど…、他人にいきなり話すことでもないよな…。


「お前さんみたいな迷える若者に丁度いい本がある、どうだぃ読んでみないかぃ?」


 本?


 小学生の頃は見聞が広がることが楽しくて本は沢山読んでた。

 そういえば思春期だった中学以来、あめり読まなくなってたな…


「興味があれば私の店に来るといいよ、ほれ、すぐそこや」

 指差した建物は昭和を思わせる木造の古びた書店。


 部活が終わって暇な毎日、やれ就職活動だと担任、親から急かされる日々、正直うんざりしていたし、刺激が欲しかった。


「ちょっと…、見ていこうかな」

 好奇心はある方だし、こんな老人に何かされるなんて事もないだろうと、僕は店に入った…。


 埃臭い店内、店と言うより図書館のように本棚が陳列されており、どれも古く、分厚い本ばかりだ。

 お世辞にも綺麗とは言えない。


「奥のドアの向こうやよ」

 どこかの訛りのある口調で案内されたドア、多少の怖さもあったけど、それ以上にワクワクが勝ってた。



 ドアの向こうは壁際に棚が並び、そこに長机が沿ってあり、いくつかの椅子が並んでいた。


 角の椅子に一人、女性?同じ年位の人が本を読んで座っている。

 違和感を感じたのはその女性がピクリとも動かないこと…。


「適当に座っとくれ」

 そう言うとお婆さんは一冊の本を持ち出してきた。


 表紙には大きめの宝石が埋め込まれて厚い、宝石を覗くと星屑が散りばめられて、引き込まれるような綺麗さだった。


 さっきの女性からは距離を置いた椅子に腰掛け、そっと差し出された本を手に取る…。


 以外と軽い。


「あんま遅くならねぇうちに声をかけてあげるけ、ゆっくりしてきぃね」

 にっこり微笑み、お婆さんは部屋を出ていった…。


 ………

 本のタイトルは…無い。


 本なんかで僕の今の悩みが解決するなんて信じた訳じゃ無いけど…、興味はある。


 お婆さんに会う前に自販機で買っていた天然水を一口、僕はその不思議な本の表紙をゆっくりと開いた…。


 ?!

 本を読もうとした時、まるで本に吸い込まれるようにページが近づき、そのまま頭から僕は本の中に落ちていった!


 ………………


 中学の時の英語の教科書にあった"不思議の国のアリス"を思い出す、ダウン ダウン ダウン…、まさにそんな気分。


 でも、落ちてるというより、世界が切り替わってるような感じで、足場は無いけど恐怖感は無かった。


 少しすると霧が掃けるように徐々に視界が広がっていく…、どこかの草原のようだ、視界と同時に草の匂い、風の囁きを感じた。


(まるで異世界転生だな…)


 小学生のころ、本に夢中になるあまり、物語の登場人物になりたくて、何度も夢に見ますように!って願いながら寝たのを思い出していた。


「はじめまして!ケイトさん」

 元気な少女の声がした。

 が、姿は見えない。辺りは草原で見渡しはいいはずなのに…


「ここでーす!ここ、ここ!」

 かなり近くで聞こえる!

 僕はとにかく周りを見渡した。地面、後ろ、脇の下、そして空、

 すると小さな光を見つけた。

 よく見ればそれは小さな人の形をしていて、羽根が生えてる。

 "妖精"

 ファンタジーに出てくる代表的な生物によく似た、いや、そのまんまの生き物が宙に浮いている!


「妖精…?」

「はい!妖精・ピクシーなどといった種族として分類されてますね♪」

 おおー!本物のピクシーが目の前に!!

 ここはファンタジー世界なのか!


「私はこの世界の初心者さんをご案内する役目を勤めさせてもらってます」

 いきなり本に吸い込まれて来たからなぁ、"はじめに"すら読ませて貰ってない代わりってことかな?


 聞きたいことは山ほどあったけど、案内妖精は僕が口を開く隙を与えず、説明を始めた……



 ………………

 ………

 …


 説明によると、この世界は"絶界"と呼ばれ、古くから地上の生物は、魔界の化け物の侵略で争いを続けていた。


 地上の生物は人間族、獣人族(さらに多種多様)、妖精などさまざま。

 魔界の化け物と違い、地上の生物は戦いに不向きな種族も多く、魔物の侵略を止められないでいるらしい。


 そこで別世界に赴き、手助けをしてくれる者を召喚しているんだとか…


 ………

 なるほどなぁ…この世界の事情は解ったけど、それと僕の悩みとどう関係してくるんだろう?


「それでは最初の町へ案内します!ついてきてください」

「あ、うん。」

 小さな羽根がパタパタと動いて飛んでいる、後ろ姿はなんか愛くるしい。



 僕はゆっくりと絶界で未知なる一歩を踏み出した…。

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