第6話○おそろいのクマ


 私と彼は、おそろいのクマのぬいぐるみを持っていた。

 誕生日がお腹に書いてある小さなクマのキーチェーン……

 私の大好きなキャラクターで、彼の誕生日プレゼントにあげた時に自分のも買って、二人ともずっとカギにつけていた。


 ちなみに私が彼に貰った誕生日プレゼントは……

 一緒に行ったゲーセンで取ってくれたクマのグッズだった。


 私の誕生日当日は休みだったが、前日の仕事終わりに突然「ラーメン食べ行かない?」と彼に言われた。

 急な話だったので「まだ仕事があるから今日は無理そうかな」と言っていたが……

 職員数人で話しながら結局終わるまで待っていてくれた。


 バスと電車通勤だった私は、彼の車で家まで送ってもらうのがどこかに行った時の恒例になっていたが、その日の帰り……

(なんか違う道だな)と思っていたらゲーセンに着いた。


 UFOキャッチャーは苦手で、大きい景品なんて観賞用でどんなに頑張っても絶対取れないものだと思っていた。

 でも大好きなクマのキャラクターの景品だったので、つい(かわいいなぁ欲しいなぁ)と心の中で呟きながら見ていると……

「どいて」と彼が魔法のように簡単に取ってくれた。

 私はとてもびっくりしたし、嬉しくて何度もお礼を言った。


 後で考えると……誕生日が刻まれた、おそろいのクマのぬいぐるみをずっとつけていたのは、大きくて持ち歩けない景品の代わりに……だけではなく、そのことを忘れたくなかったからなのかもしれない。


 それともう1つ。

 プレゼントを買いに行った時、自分の誕生日のクマにも手を伸ばしていたのは、彼へのプレゼント用のクマに刻まれた日付に切なさを感じていたからだった。


 彼の誕生日は七夕だった。


 織姫と彦星が一年に一度だけ会える日。

 私はそのクマ達に、会えない二人の姿を重ねていたのかもしれない……


 七夕の日、私はクマのぬいぐるみを渡しながら言った。

「お誕生日おめでとう」

 彼はあまり嬉しそうにしていなかったけど……


 ある日、私のクマのチェーンが切れ、カギにつけられなくなってしまった。

 私はなぜか、とても大切なものを失ってしまった気がして寂しかった。


 次の日、彼は「偶然貰った」と言ってプラスチックのキーホルダーを持ってきて見せてくれた。

「丁度欲しかったんだ」と貰って、そこにクマの輪を通して元通りカギにつけることができた。


(後から考えると偶然貰えるものじゃないような……)

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