第6話「モデル」




「今日の美術は二人一組になって互いの似顔絵をデッサンしてもらうぞ!

 じゃあ、さっそくだがペアを組んで始めてくれ」


『はーい』


「…………」


(はいキタァーーッ! ぼっちにとって最大の恐怖!『じゃあ、ペア組んでー』はい、先生! ペアを組んでくれる人がいないぼっちはどうすればいいですか!

 突然ですがここでクイズです。

 このクラスの生徒の人数は30人。さて、二人一組のペアを組むとどうなるでしょう?

 ……答えは俺が一人余るでした。

 あれー? このクラス偶数なのになんで俺が余るんだよ! それはこういう時に何故か三人組を作り出すリア充の所為だよ! その所為で俺はいつも先生とペアを組むハメに――)


「あ、あの……安藤くん!」

「ん? あれ、朝倉さん。何、どうしたの?」

「そ、その――っよ! 良かったら……いいい、一緒に組まないかしら?」

「…………」


(うえぇえええええええええええ! 何で学校で一番の美少女の朝倉さんがぼっちの俺なんかとペアを組もうとしているんだ!?)


(よよよ、よーーし! ついに安藤くんをペアに誘ったわよ! 今まで私はペアで毎回ぼっちになって先生とペアを組む安藤くんを眺めるだけだったけど、今日の私は違うわ!

 今朝のは夢だったけど、あれはきっと正夢に違いないわ! あの夢の中で私は『勇気』を出す事が大事だったって言ってたわ。だから、今日は勇気を出して自分から安藤くんに話しかけるのよ!)


「あ、朝倉さん。マジで俺なんかとペアを組んでくれるの?」

「だ、だから、そう言っているじゃない! 別に、安藤くんが一人残りそうでかわいそうだから声をかけたわけじゃないわよ! か、勘違いしないでよね!」


(って、私のバカァアアアアアアア! 恥ずかしくて何を口走っているのよ! まるでラノベのツンデレヒロインのテンプレみたいなこと言っちゃって……これじゃあ、私が安藤くんの事を……そのーえーと、す―すす、好きみたいじゃない!)


(…………なるほど! つまり、朝倉さんはぼっちの俺を哀れんでペアを組んでくれるのか! あ、朝倉さんって実は良い人だったんだな! なんか、いつも隣の席でニヤニヤしたり、ジタバタしたり百面相の激しい変な残念美少女とか思って、すみませんでした!)


「あ……俺でよければお願いします」

「そ、そう……じゃあ、早速始めるわよ!」


(しかし、デッサンか……俺、人物画って苦手なんだよな。萌え絵なら描けるんだけど学校一の美少女である朝倉さんを萌え絵なんかで描いた日には学校中の生徒の怒りをかって俺の学校生活が終わりかねないしな……やっぱり、普通に描くしかないか)


(あ、あれ? どうしよう……安藤くんをデッサンすると何故か美少女ラノベに出てくる王子様の挿絵みたいになっちゃうんだけど……

 ウソ! どうしてこんなにカッコいい絵になっちゃうのよ! 私! 貴方ちゃんと自分の目に映っている安藤くんを描きなさいよ! ほら、良く見なさい! 彼そんなにイケメンな顔じゃないでしょう? 彼はぼっちよ! なのに、何でそんな彼がデッサンしようとしてみるとこんなにカッコよく見えちゃうのよぉおおおお!)


(うぉ! やべ……目が少しハミ出ちゃった。てか、これ何の絵だ? ぐ、グレムリン? 何故俺は学校一の美少女を描いているはずなのに目の前の絵にはグレムリンが描かれているのだろう? それは俺の絵が萌え絵以外だと壊滅的にド下手だからです)


(し、仕方ないわね……もう描いちゃったし、ここは開き直って背景に薔薇とか描いて思いっきりカッコよく描いちゃいましょう! そして、勢いで『あら、すこし私の芸術センスが火を噴いちゃったわ』とか言えば誤魔化せるわよね?)


(し、仕方ない……描いちゃったし、ここは開き直ってグレムリンでいいか。そして、少しグレムリン感を誤魔化すために頭に可愛いリボンを描いて……はい! リボンを付けたグレムリンの完成だ!)


「あ、安藤くん……どう? もう、描けたかしら?」

「うん! 俺はバッチリだよ! 朝倉さんも完成?」

「そう、実は私もちょうど完成したところよ。もしかしたら、私達意外にペアの相性がいいのかも知れないわね。な、なんちゃって……」

「う、うん? ペアの相性……?」

「ななな、何でもないわ! じゃあ! いっせーので見せ合いましょうか?」

「うん、そうだね!」


「「いっせーの」」


(この後、朝倉さんが今まで見た事がないくらいにブチ切れたのは言うまでも無い)



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