最速勇者は早く帰りたい

軽見 歩

第1話 憂鬱な日、だが不幸は続けてやってくる

 今日の俺は憂鬱だった・・・。最近ゲームにログインしていない友人の訃報を別の友人から聞かされたからだ


「色々と無茶をするヤツだとは思っていたが、まさか本当に死んじまうとは・・・」


 その死んだ友人は真夏の即売会から何を血迷ったのか歩いて帰宅しようとして力尽きたらしい。交通費が無かったじゃ?と聞いたら、非常用にと靴の隠しポケットに入れていた1万円札は手つかずのままだったとか


「まさかテンパって忘れてたとか? …まさかな」


 その友人の本名は知らない。知っているのはアイツが使ていたキャラ名の”ゆうと”と言う名前だけだった


「さてと、行ってみるか」


 俺はゲームにログインし、女の猫型獣人のアバターを操作する。言っておくが俺は男だ、だがネカマのつもりは無い。ただこの猫獣人の種族は女しかアバターに選べなかっただけだ


「にゃおん☆」


 だけどシステム上はしっかり女なわけで、イベントアイテム欲しさに結婚していた、相手はゆうとだ


「さて、どうしようかなこの部屋は」


 俺はゆうとと使っていたネットゲームの部屋で何をするわけでも無くうろうろしていた。前は良くフレンドが勝手に遊びに来ていて、俺達の中身が男だと知っているフレンドからは――――


”二人の愛の巣に特攻♂”


”やめれw”


”昨晩はお楽しみでしたね。さあ、つまらないものですが”


”ちょw超回復薬わたすなしw”


”おつかれでしょ♂”


 ―――――などと良くからかわれていた。だがみんなもう来ずらくなったのか遊びに来ることが減っってしまった。きっとギルドの部屋の方に集まっているのだろう


「あれ?バグってる…」


 勇気を出してゆうとの過去ログを開いてみたが、ゆうとのコメントだけ文字化けしていた。画像フォルダなどもおかしく、ゆうとの映ってる部分だけ画像が乱れている


「ホラーかよ、嫌なもん見ちまった。今日はもう寝るか・・・」


 俺はゲームをログアウトし眠りについた。


「全く散々だ…明日は面接だって言うのに・・・・」



         ・

         ・

         ・

         ・


 翌日、俺は下の階のケーキ屋に出勤した


「おはようございまーす店長」


「ああ、おはよう」


 出勤して来た女性店員と挨拶をし、俺は準備をする。このケーキ屋は俺の店で二階は住居になっている。もちろん俺は面接を受ける側ではなくする側だ!つまりは面接官!最近何かと忙しくなってきたので新しい従業員を雇うことにしたのだ!


「コンコンコン」


 扉がノックされる。期待ある第一号はどんな人物か。何かと暗いなりがちな心のテンションを無理矢理あげて、俺は中に迎え入れた・・・のだが


「どうぞお入りください」


「失礼します!」


 元気な声で入って来たその女性は


「よろしくお願いします!どうですかぁ~、この筋肉は」


「え、あ、はい、真竹を素手でへし折りそうな剛腕ですね。そこにお座りください」


「はい! 失礼いたします」


 入室するなり、いきなり自慢の筋肉をアピールしてきた。インパクトが強すぎて逆にげんなりしてしまう


秋村あきむら光子みつこです!とび職をやってました!」


 すんごく元気よく答える秋村光子、彼女の迫力に俺は完全に押されてしまった


「はは…そんな感じの風貌をしてらっしゃいますね・・・肝心のお菓子作りの方は?」


「はい! 上京する前に実家の和菓子屋を手伝っていました! 評判だったんですよ、アタイがぶっ叩いた餅で作ったおはぎは!」


「はは…和菓子かぁ・・・。洋菓子作りの経験は?」


「ありません! 誕生日はケーキの代わりに赤飯で祝って育ちました! 

ですが物覚えは良い方なので直ぐに仕事を覚えますよ!」


「そ、そう・・・ふーん・・・」


 正直 ”どうしてウチの面接を受けようと思ったんだろう” と思ったので素直に聞いてみる事にした。面接官としても間違っていないはずである


「えーと…どうしてウチで働こうと?」


「車の維持費を稼ごうと仕事を探してまして」


「車の維持費? 高級車に乗られてるんですか? スポーツカーとか?」


「いいえ!トラックです」


 俺は彼女の答えに ”ピックアップトラックの事かな? アレってマニアは凄い金かけるって言うし” と思ったのだが


「スマホに画像がありまあすが見ますか、アタイ自慢のデコトラを!」


「デコトラ!? まさかトレーラサイズの!?」


「ええ、もちろんです! アタイ今その中で暮らしてるんですよ。履歴書の住所はいつも停めてる空き地の住所になります! なんならソイツで配達もしますよ!」


「いいです!いいです!! そんな大掛かりな配達はやってませんから!」


 色々と予想を上回る回答だった。”ホントなんなのコイツ” と思い面接を打ち切った


「質問は以上です。合否の連絡は後ほど・・・」


「本日は、ありがとうございました! あ、空き地にポストがあるんで配送の心配はしないでください!」


「あるんですかポスト・・・」


「はい! 一応アタイの私有地ですから。ありがとうございました!」


 彼女は立ち上がってそう言って一礼し……


「失礼いたします!」


 退出した


「バタン!」


 強く閉められたドアの向こうから微かに彼女と従業員が話している声が聞こえる


「しまった! すみませんドア強く閉めちゃって」


「いいえ、気にしないでください」


 それを聞いた後、俺は深くため息をついた


「はぁ~~~、終わった…。いや、まだ一人残ってる」


 面接に来るのは今日は彼女も合わせて二人だけだ


「頼むからまともなヤツが来てくれ・・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る