第1章 機動戦士ガンダムの歴史


 ここから先は、自分の知りうる知識で書いていますので事実誤認などがあればご連絡ください。(ネット公開版)


「機動戦士ガンダム」は複雑な経緯をたどって今に至っています。多くのガンダムファンの生まれる前のことで、マニアには常識でも一般的には知られていないこともあるので、まとめてみたいと思います。


・機動戦士ガンダム 企画からアニメ放送まで

 元はロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」をモチーフにした企画であることは公式資料などでも扱われていますので割愛しておきます。

・サイドビジネス現る

 1979年本放送当時「アニメック」(ラポート社)という雑誌がありました。

アニメ雑誌は1978年「さらば宇宙戦艦ヤマト」のアニメ映画興行ブーム以降存在しています。 基本的に映像になった成果物を取り上げるものだったのですが、アニメックは映像化される以前の「設定資料」に着目しました。書き下ろし新作画などの絵素材不足からと言われていますが、ファンとして内容を楽しむ雑誌から、クリエイターに着眼した転機とも言えます。

 アニメックのガンダム用語解説記事の中で「RX-78」という言葉が出てきます。 これはアニメ本編にはないアニメックの創発です。 アニメックの小牧編集長にも話を伺いました(ムーンクライシス 主婦と友社 全一巻版 巻末に収録してます)。まさかこれが巨大なビジネスのベースになるとは、当時誰も思いませんでした。


・バンダイ参入

 ガンダムが徐々に知られるようになったのはファン活動にあります。自分の記憶だと放送中は女性ファンが熱心で、シャア・ガルマの美形キャラ推しで人気が高まったような気がします。

 急に男子ファンがついたのはバンダイのキャラクタープラモ発売がきっかけだったと思います。最初こそ玩具ギミックモデルがありましたが、より設定に近いプラモデルが発売されました。

 女性ファンが目立ちはしましたが、「機動戦士ガンダム(初 TV)」はメカニカルな描写が群を抜いていて、男子ファンも潜在的にいました。そのファンを「プラモの売り上げ」で顕在化させたことは歴史を大きく変えていきます。


・劇場版公開

 TVアニメ機動戦士ガンダムが1981年に映画化されました。 総集編にせずに三部作公開という大胆な企画でした。 1作目がコケたら残りも立ち消えという勝負に出て、見事ヤング(思春期から学生までのゾーン)のハートを掴むに至り続編公開も決まりました。 ここで映画を徹夜で待つ若者ビジュアル、映画の興行成績という形でアニメファンの熱狂が数値化され、新聞雑誌にも取り上げられたことも大事なポイントです。


・サイドビジネス現る(2)

 この時期、「ガンダムセンチュリー」という本がみのり書房より出版されました。

主にSFイラストの制作会社「スタジオぬえ」のメンバー主導で、同人誌「ガンサイト」にあった設定考察をまとめたものでした。この本によりアニメの設定が仮想歴史として再創作されました。

 今に至るガンダムの設定リアル考察の大元祖で、ここから生まれたアイデアが後に取り入れられていきます。


・ガンプラブーム来たる

 「コミックボンボン」と「ホビージャパン」この二つの雑誌がガンダムを模型方向から盛り上げていきます。

「コミックボンボン」はメカニカルデザイナーの大河原邦男氏を起用して「MSV」というアニメには無い独自設定を展開。 このMSVはサンライズ発でもあったためバンダイとの関係性も有り後のガンダム公式設定の基本となっていきます。

 一方、ホビージャパンは「HOW TO BUILD GUNDAM 」というプラモ作成の教則本を発売して大ヒット、今に至るモデラー需要を喚起しました。

 ここでのポイントは「富野由悠季監督の創作物では無いところでブーム(商業的爆発)が発生した」ことです。


・新ガンダム始動

 バンダイはアニメのキャラクターをあらかた商品化して、MSVという派生バリエーションもプラモデル販売しました。ビジネス的に新ガンダムを希望し、アニメ制作会社のサンライズが受注するというのは不自然なものではありません。

 「機動戦士Zガンダム」第一話「黒いガンダム」は個人的にアニメ史に残る傑作だと思っていまして、ガンダムの世界を継承しつつ新しい世界描写に感嘆しました。

 しかし、視聴者の望む方向性とはズレが出てきます。 視聴者はかっこいいロボットが見たいのに対し、富野監督の人間ドラマ作りが先鋭化していきます。否定対否定のエキセントリックな台詞と行動が目立つようになりましたが、本来ならば破綻してやむ無しなのですが、「新型メカはちゃんと出す」という仕事人ぶりを発揮しているので商業として成立するという状況が続きます。


 「機動戦士ガンダム」は大河原邦男氏がデザイナーをやっていたことも有りアニメメカの統一感がありましたが 「Zガンダムは」複数デザイナーが投入されて感性の違いが明確化していきます。(個人的にはスペックのインフレで”怪獣化したモビルスーツ”と呼んでいます) しかし商業的には「新ロボットのプラモデル」が宣伝されるので、宣伝から入ってアニメを見ているファンが、「メカファン」と「それ以外」になっていきます。


 ここで不幸なのは80年代後半まで「富野監督の創作物」と「商業的需要」が一致しないにもかかわらず、「富野監督のガンダム」というブランドが残ったことでしょう。 富野監督でないとファンが承知しないのですが、メカなどのファン対象物は後付け設定だったのです。


 富野監督は「ZZ」「逆襲のシャア」でそれまでの「ガンダム(初)」由来の世界観を終わらせて、「F91」で再始動を試みました続編は出来ませんでした。


・ガンダムセンチネル登場

 児童向けガンプラブームがSDに流れていくのに対し、初期ガンプラファンの高年齢化は進みました。新興雑誌のモデルグラフィックスがガンダムのアップデート企画を始めて、デザイナーとしてカトキハジメ氏が起用されます。 カトキ氏の特異な点は「リスペクト点」を残しつつ「工業的な意味 立体的整合性」に落とし込むという難題を昇華したところでしょうか

 模型企画「ガンダムセンチネル」は「Z」起点のサイドストーリーとして支持を集めプラモ化も果たしましたが、映像化が頓挫して「サンライズ主導では無いので扱いづらい枠」に納められることになりました。

 模型ベースの場合、際限なくディティールが入れ込めるところが魅力で、今ある世界に通用する「かっこいいガンダムスタイル」はモデラー発のハイディティールが評価されてのことだと考えています。


.1年戦争回帰

 OVA(オリジナルビデオアニメーション)が販売伸ばしている頃、「ガンダム(初)」のサイドストーリーに需要を見いだして、サンライズ主導で「0080ポケットの戦争」が企画されます。 企画段階では近藤和久氏も関わっているのでMSV路線を継承した後継作とも見れます。 そして続く「0083」ではハードな戦争メカアクションを主体として「コアなガンダムプラモファンが望む形」を導き出します。


・バンダイと出版

 80年代後半は今で言うバブル経済時代。玩具会社バンダイが出版事業にも乗り出し「サイバーコミックス」を出版します。初期の頃はガイナックスに発注していましたが後にスタジオハードMXが引き継ぎます。 サンライズのコンテンツが使えるという強みがありかなりの二次創作が生まれました。 その後ガンダムの専門誌として「MSサーガ」に継承されます。 サイバーコミックス(ガイナックス)~(スタジオハードMX)~MSサーガ~(バンダイ)~(主婦の友社・メディアワークス)~(角川・メディアワークス)~(KADOKAWA メディアワークス)と引き継がれました。


 90年代に年表問題が発生します。

長期的なガンダム年表を最初に作ったのはガイナ時代の「サイバーコミックス」で宇宙世紀はNASA宇宙開発起点。広く普及するようになったのは伸童舎編の年表です。

 伸童舎はZ、ZZにも参加していて、「ダブルフェイク」(うしだゆうじ)など伸童舎がらみの企画も年表に入ってます。バンダイ出版物の模型情報、Bクラブで「公式コミック」という言葉も生まれ「富野監督以外の二次創作公式化」というスタイルが生まれました。 サイバーコミック発は年表であらかた無視されています。


・バンダイプラモデルの解説書

 自分はガンダムの設定のかなり重要な部分が、バンダイプラモデルの解説書にあると睨んでいるのですが、あまり触れられていない題材です。

 アニメ原点から推察されるライティングですが、開発史などはここからも生まれています。 活字になった物を信用するという傾向があるので、プラモから入った読者は「ここで書かれた内容が正解」と認識してもおかしくありません。


 年表から公式非公式が発生するようになりました。自分の関わった作品では「ファミリーソフトの機動戦士ガンダムゲーム(PC)」「ピピンのゲーム」などライセンスを受けて発売されていますが、今では再生不能なレアアイテムになっているため内容把握はされていないでしょう。


 コミックボンボン「プラモ狂四郎」ホビージャパンの「タイラントソード」後に電撃ホビーの「ソロモンEXPRESS」などなど模型発ガンダム二次創作は、商品プラモデル化されたか否かで認識が変わっています。


 結果、年表にあるもの基準がゲームに登場するなどの「ガンダム二次創作の篩(ふる)い分け」が行われるようになりました。

 あまりにも派生が増えすぎたので一度宇宙世紀の歴史本「機動戦士ガンダム 公式百科事典 GUNDAM OFFICIALS」皆川ゆか 監修:サンライズ (講談社)も出版されましたが、これ以降も次々設定矛盾を抱えるものが生まれてきます。


 ガンダムシリーズの入り口が「スーパーロボット大戦」のファンも増えました。そういった方達には最初から知らないことも多くなります。

 コミックも含め いかなる作品企画も表現においては先鋭意欲的にもかかわらず「年表篩い分け」に無いから顧みられないというのは、かなり理不尽と言えるのでは無いでしょうか。


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