チカン召喚まっぱ兄様

世楽 八九郎

第1話 つまり君は『まもうと』ということか

 悲鳴が聞こえた。

 始めは遠くから。

 そのうちにその悲鳴は頭の中から響いてきた。

 やがてその振動が身体を振るわせて……まるで自分が叫んでいるような錯覚を覚える。

 そしてその叫びの発生源が曖昧になり、目の前が真っ白になり―


「きゃああああっ!!!」


 目の前で誰かが悲鳴をあげながら手を振るった。


 コォォォォォン……!!


 するとその手から赤黒い血のような色をした嵐が巻き起こり空間を引き裂いた。

 男は突然な出来事に一瞬目を見張ったが、ひょいと横へ避けてその一撃をかわした。

 赤い嵐が壁にぶつかるとすさまじい衝撃と轟音が部屋に響いた。


 ドゥオォォン!!


「………」

「………」


 嵐を躱した男はその着弾地点を見てから自身の正面に立つ少女へと視線を移した。

 男の正面に立つ少女 ― 先ほどの嵐を巻き起こした娘の瞳は男に釘付けになっている。


「これは、どういうことかな? 説明を願いたいのだが?」

「なんで! なんで貴方、裸なんですか!?」


「………」

「………」


 顔を真っ赤にして叫ぶ少女は豪奢なドレスと貴金属で全身を飾り立てている。

 一方冷静な男は全裸だった。


「ふむ。君は混乱しているようだ。なら、君から話すといい」


 男 ― 成人したてと思しき年齢の彼は濡れた髪をかき上げ少女の発言を促した。

 少女は差し出された手が自分に発言権を譲っているのだと理解するとおずおずと質問した。


「あ、あの……貴方はどうして裸なんですか?」

「入浴中だったからだ」


 なるほどたしかに男の全身は濡れていた。小ホールほどある部屋の真ん中に立っていなければ入浴中だと言われれば納得の格好だ。今度は男の番だ。


「では、私からも質問だ。君は誰だ?」

「あの……失礼ながら、私をご存じないのですか?」

「質問に質問で返すのは失礼ではないかな?」

「あっ、はい……失礼しましたわ」


 少女は慣れた仕草でスカートを摘まみ恭しく一礼してから自己紹介を始めた。


「私はディモニーク・ノワル・アーラ。魔王の妹ですわ」


 自らを魔王の妹だと名乗った少女ディモニークは作り慣れた完璧な笑みを浮かべた。

 彼女の自己紹介を聞いた全裸の男は彼女をじっと見つめた。


「な、なんですの?」

「なるほど、コスプレではなさそうだ」

「こす、ぷれ……?」


 男の裸に羞恥を感じているのかディモニークは男を注視できない。

 男は裸体を隠そうともせずに腕組みして思案顔を浮かべている。

 しばらく一人で頷いたり呟いたりしていたがやがて彼はディモニークへ確認した。


「つまり君は『まもうと』ということか」

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