第2話 新しい仲間(サリエ)

 サリエがトリマー助手としてここで働くようになった経緯を聞いてから、僕は彼女を一日でも早くイライザと同じように働けるようにしてあげなきゃと思ったんだ。

 

 獣人には、人面種と獣面種がいる。

 人間種と共存していると、獣面種が不利な場面がたびたび生じる。

 少しでも同類に近い外見の方が安心する人間種が多いのか、獣面種は就ける仕事が人面種より狭い。

 まだ貧しい村サンドニタウンでは、工場や坑道での作業を除くとほとんど無いと言って良いほどだ。


 トリミングでも、男性に対応して貰うより、女性のトリマーに接客して欲しいというお客さんは意外といる。お客さんが男性でも女性でも、それぞれの理由で女性のトリマーを望む。

 ここサンドニタウンには女性のトリマーはまだ居ないから、そういった要望はないけれど、シャーロットタウンではたびたびあったんだ。もし、トリマーが増えたら、男性より女性のほうが就職で有利だろうって思ったよ。

 同じように、特にサービス業では、獣面種より人面種の獣人のほうが仕事にありつける。

 

 サリエの両親と妹も獣面種で、サリエだけが人面種らしい。家族のためにも、サリエは手に職をもちずっと働いていけるようになりたいって考えていたそうだ。そして、たまたま見かけたトリマー助手の求人に飛びつき、ブライトンさんに直接頭を下げたそうだ。


 ビズラ系犬人のサリエは短毛種だし、その家族も短毛種で抜け毛での苦労はさほどない。

 接客業でありがちなトラブルが少ないはずなんだ。

 それでも獣面種の就職は厳しい。


 僕も魔法力に乏しいから就職でとても苦労した。

 僕の場合は能力の問題だから、諦めもつくし、実際、仕方ないよなと諦めてた。


 でも獣面種の獣人はそうじゃない。

 能力以前の外見で損をしている。

 

 僕はそれが悲しく、やりきれない気持ちになる。

 

 人懐こく、明るく真面目で、キリッと締まった、どちらかというと美人のサリエの頑張りを応援したいんだ。そして、サリエが一人前になるのを後押しするとともに、いつか獣面種にも機会が与えられるような仕事を作りたいって思うようになってきた。


 「そこはもっとこう」


 イライザに教えられる仕事をサリエは集中して真剣に見て真似る。

 薬剤が混じった湯で満たされた浴槽に浸かるお客さんが心地良く過ごせるよう、表情こそ笑顔だが、お客さんの肌に異常が無いか? お客さんは痛がったりかゆみを感じてるところは無いか? 少しも見落とさないようその目は光っている。少しでも気づいたことがあれば、イライザか僕に速やかに報告してくれる。

 彼女のおかげで程度の軽い段階で、ブライトンさんはお客さんの治癒に移れるようになってるんだ。

 

 これからは、お客さんとの会話の中で異常に気づくよう気をつけられるようになれば、イライザと同じ程度に一人前と言っていいと思う。でもこればかりは、医療面の勉強をして、そして経験をたくさん積むしか無い。


 仕事が終わるころには、家がすぐ近くにあるから、サリエの妹が迎えに来る。


 「もうちょっと待っててね? 」


 そう言って、店内の掃除を終えたあと、今日学んだことや気づいたことをサリエはイライザに確認し始める。

 その間、僕かトニーがサリエの妹の相手をしている。


 「お姉ちゃんは今日も頑張ってた? 」


 まだ成人前の幼さが残る妹が無邪気に聞いてくる。

 彼女なりに心配があるのだろう。

 毎日、聞いてくるんだ。


 「ああ、お姉ちゃんは立派だよ。とても頑張ってる」


 僕もトニーもそうしっかりと答える。

 サリエの妹は、僕等の返事を聞いて嬉しそうに笑い、自慢げにサリエを見る。

 僕はそんな彼女の頭をつい撫でそうになるけれど、そろそろ十七歳になろうという女の子の頭を気安く撫でてはいけないといつも思いとどまるんだ。


 「さあ、帰りましょう。アレックスさん、イライザさん、今日も有難うございました。トニーさん、また明日。皆さんお疲れ様です」


 軽く礼しながら僕等に微笑んで、サリエは妹と肩を並べて店を出る。

 彼女達の背を見送りながら、僕もトニーもイライザも言うんだ。


 「ああ、また明日」

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