第7話 魔王城のとある一日

 吾輩の名は、コロ・アルファス・イレヌルタ・ウェパール・エウェパズズ・オルゼブエル・フェネクス。偉大なる魔王である。

 魔王である吾輩は、常に最凶にして最強の存在である。

 そして吾輩が率いる魔王軍は、種族の差異は重要ではなく実力がすべてである。

 なにゆえこのような話をしているかというとだな・・・・・・。


「魔王様! お食事の用意が出来ました!」

「キコ、魔王様のお世話は、魔王軍No.2たる私、イネスが取り仕切っているのです。貴方の出番はないのですよ?」

「うっさい、料理もできないオバハンがっ! それに『キコ』って呼んでもいいのは魔王様だけだ! オバハンには呼ばれたくないね!」

「お、おば・・・・・・」

「それに僕は魔王軍の中でNo.3、それも2位とは僅差じゃないか。なら僕がお世話する権利があるはずだよ。さぁ、魔王様、今日の料理は僕の故郷の料理だよ~」

「ぐぎ、ぐぎぎぎ・・・・・・」


 魔王軍Mo.3、愛称キコ、本名フランシスコの種族は人族である。いつだったか討伐した勇者どもに付随していた剣士である。

 愚かにも吾輩に再戦を求めて独りでやってきたのだ。魔王相手に勇者でもないモノが単独で挑む・・・・・・その勇者以上の勇気を吾輩は称賛し、戦うのを承諾したのである。

 今度こそは心を折るためにも、奴めの長剣と義手に仕込んだ刃を、即座に圧し折ってやったのだ。やったのだが、奴めは心が折れるどころか、この魔王たる吾輩に土下座をし、弟子入りを申し込んできたのである。

 吾輩率いる魔王軍は、来る者は拒まず去る者は追わずが基本指標であるからして、いくら敵勢力側の人族とはいえ、弟子入りを申し込まれると断ることはできないのである。今までの魔王歴の中でも、このような珍事は初の出来事。さすがの吾輩も対処に困り、つい承諾してしまったのである。

 しかし、吾輩の能力は吸魔の能力。弟子に取ったところで強さを教えるのは到底無理な話。最初は吾輩の寝首を掻くための弟子入りだと思っていたのだが、これが妙なことにその気配がないのである。

 そして、魔王城の格付け闘技会で、あっさりとNo.3の座を勝ち取ってしまったのである。あのイネスが追い込まれているところは、吾輩、初めて見たのである。

 我が魔王軍は出自には関係はなく実力がすべて、実力を示したからにはその地位を確立しなければならぬ。

 それにフランシスコの奴めは、良く働くのだ! 吾輩の側近たちは、普段は吾輩の魔力吸収体としての立場もあることから、特に何もせず警護をしてもらっているのだが、フランシスコの奴めは、料理から洗濯、掃除に裁縫とあらゆることを完璧にこなすことができるのである。

 その能力は、魔王軍No.2でありメイドでもあるイネス以上。認めてやらねば魔王の矜持に傷がつくというモノである。

 そのため、歴代魔王軍の中でも初となる、人族の側近が誕生したのである!

 困ったことがあるとすれば、No.2のイネスと妙に張り合うというか、仲が悪いことである。吾輩の世話係として認めているのだから二人ともに仲良くして頂きたいものである。


「フランシスコ、もう少しイネスと仲良くはできないのであるか?」

「あ、魔王様、僕のことはキコでいいよ。ま、そんな事より、今日のメニューはお魚大好きな魔王様にバカリャウ・ア・ブラスとパステス・デ・バカリャウ、そしてサルディーニャス・アサーダスを用意したよ。デザートはパステル・デ・ナタ。今日の食事も楽しんでね」

「うむうむ、今日も旨そうなのである。フランシスコ、期待しているのである」

「キコで良いってば・・・・・・あ、オバハン、見てる暇があったら魔王様にお酌してあげないと」

「え? あ、はい、魔王様、こちらをどうぞ~」

「まったく、気の利かないオバハンだなぁ!」

「ぐぎぎぎぎ」

「お前たち・・・・・・仲良くな」


 まったく、こやつらにも困ったものだ。だが、フランシスコの料理は旨い。最初は人族の部下なぞ・・・・・・と思っていたのだが、これはこれで良い拾いモノであったかもしれぬな。

 うむうむ、イワシの焼き加減が最高である。ふんわりとしたイワシの身にかけるオリーブオイルが鼻腔をくすぐる。そしてイワシの濃厚な旨み・・・・・・まさに口福と言わずして何と表現したらよいのであろうか? 干しタラのコロッケも調味料が絶妙で素晴らしい。干しタラとじゃがいも炒め物も、卵の優しい風味が口の中で混然一体となり、実に素晴らしいのである。そして、料理の合間に呑むマタタビ酒のなんと甘美なモノかっ!


「実にうみゃ~にょにゃ~!」


 ハッ! いかん、つい声を荒げてしまった。はぁ、はぁ、この程度で心を乱されるとは魔王失格だな。うぬうぬ平静を保たねば・・・・・・。

 旨い料理に旨い酒、一日の終わりとはこうでなくてはな。


「ニャハハハハハッ!」

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