第6話 舞い上がる太陽



 侵攻する【ザガー・カルツ】――その対応に現状手詰まりなC・T・O軍指令部。


 打開できないまま、指令である月読つくよみにもあせりがつのっていた。

 そこへ、一つの通信――軍格納庫より発された報が、膠着こうちゃくする流れに風を送り込む。


「指令、格納庫から通信が……!神倶羅かぐら 大尉が戻られた様です!」


「……っ!戻ったかっ……!」


「内部C回線……、そちらに回します!」


 水奈迦みなか月読つくよみの立つオペレーション・ルーム中央――特殊回線モニターに映し出される一人の女性。

 新たなる、フレームパイロットのスカウトに向かっていた 神倶羅 綾奈かぐら あやな である。


「(ご苦労様……綾奈あやなさん……。)」


 状況にひとまず対応が出来る、その思いで水奈迦みなかが今しがた到着した女性への感謝を、ささやくく様に口にする。


『すみません、月読つくよみ指令。遅くなりました……。状況は……?』


 大尉にとっては、少々予定より早く交渉がなった事もあり、スカウトに要した時間の大幅な短縮を見たが、状況が暗転すればそれも水泡に帰す。


「うむ、非常にまずい状況だが……タイミングはギリギリ。よくやってくれた、大尉……!……紅円寺こうえんじ君はそこにいるかね……?」


 綾奈あやなは変わらずの状況である――が自分の行為も無駄にならず、今は胸をで下ろす。


『……いつき君、……こっちへ……。』


『えっと……、話したらいいんスね……?』


 そしてスカウトを終えた女性大尉に代わり、まだ学生服のままである高等部であろう学生がモニター前に立つ。


『……っと……、初めまして・・オレは紅円寺 斎こうえんじ いつき です……。』


 その学生の顔つきに、C・T・O軍指令はふと民間協力団体の理事長を思い起こす。

 民間協力団体【フリーダム・ホープ・A・C】は、軍専門の設備や機械の多くを

C・T・O軍へ納入しており、軍指令とその理事長も定期的にではあるが面識を持っていた。


 だが、だからといって霊装機セロ・フレームと言われるフレームパイロットに無条件で搭乗させるなどは厳禁である。

 フレームに搭乗するという事は、確実に命の保障が出来ない場合が存在し、それを搭乗者に通告する義務がある。

 パイロットを搭乗させる際にも、その者の意思を最優先すべきと、最低限の条件が定められる。


 それもあくまで、最悪の事態に対応したものではあるが。


「私が、災害対策軍C・T・O指令を努める月読 慶陽つくよみ けいよう大佐だ……。そして軍を代表して一言……、急に呼びつけた事を謝罪したい……。」


『え……ああ……、全然オレはいいですけど……。』


 少年も、先のスカウトに訪れた女性の過激っぷりから、場合によってはここの代表者もかなりの暴れ者かと推測していた様だが――何の事はない、なんとも礼節をわきまえた見るからに頭の切れそうな、ザ・指令官を目の当たりにして逆に緊張が強まってしまう。


「すまない……、火急の事態ゆえ時間がおしい。後で改めて話す機会を設けよう……。」


「では――出撃準備に取り掛かる前に、一つ……確認したい……。」


 それは火急の事態である――その中で、臨時ではあるがパイロットとして霊装機セロ・フレームという、超常の機体に搭乗するために必要な――戦う意思の確認でもある。


「戦闘行為が発生する以上――安全が確実に保障されない状況は……、確実に存在する。……それでも……。」


「……霊装機Αアルファフレームに自らの意思で搭乗し、事態の収拾に協力してくれる――そうとらえて構わないかね……?」


 覚悟の無い者は自分は愚か――多くの犠牲までも呼び込んでしまう。

 戦闘行為を前提とし、霊装機――Αアルファフレームに乗るという事はその責任と覚悟がなければ、軍部としても採用し兼ねる。


「ハイ……、オレは――」


 その意も含めた指令の確認に――少年は、決意の言葉を放つ。


Αアルファフレームに乗って……戦うため、ここに来ました……!」


 その決意に、指令を初めとするヤサカニ家当主を筆頭に、当の少年をスカウトした女性――神倶羅かぐらも安堵する。


『了解した……!期待させてもらうが、無理はするなよ?』


「ハイ……!」


 格納庫側、少年に必要な装備をチェックしながら、まずは関門一つクリアの女性が最大の関門――【ザガー・カルツ】という難所へ突撃するため、少年に準備をうながす。


「じゃあ、いつき君――ひとまずパイロットスーツを……、着いてきて!」


「っと……ハイ、すぐ行きます!」


 通常C・Hコズミック・ハザード対応として、フレーム出撃カタパルトは【アル・カンデ】のメインシャフトに沿って設置される。

 この内部に敵が侵攻した今回はともかく、ソシャール内部での災害活動用に別ルートの発射カタパルトがあり、そこにこの格納庫も併設へいせつされている。

 その併設へいせつ区画に、霊装機セロ・フレームを含めた兵器が格納される。


 だが、通常のA・Fアームド・フレームとは完全に隔離されており、国家で言う所のSSSクラス機密事項扱いとされ、まずそこに一般人が出入りする事は不可能であった。


神倶羅かぐら大尉!いつでも出撃OKです!」


「遅くなりました!彼をロッカールームへ!」


「了解!」


 すでに併設へいせつ区画の特殊隊員は、緊急連絡を受け必要準備を整える。

 いつでもパイロットが出撃出来る、完璧な流れは無論災害対策でつちかわれたチームワークである。


 本来霊装機セロ・フレームが使われる事が無い災害時において、彼らもまた災害対策活動における主役――だが、彼らはこの火急の事態で、裏方としてその力を発揮する。


 そして主役となる少年は、新世代にして霊装機セロ・フレーム操縦に必要な各種設備を内包する――赤を基調とした宇宙服を兼用するパイロットスーツをまとう。


 その少年はすでに準備を終えた大尉神倶羅 綾奈かぐら あやなの誘導で、併設へいせつ区画の一角へ。


「準備はいいわね……?」


 ロッカールームを抜け、直線的に通る通路から開けた広間に出る。

 その広間から延びる左右の通路――それが囲む中央の大きく開けた、高さ50mはあろう巨大な空間が少年の前に姿を現す。


 そこには無数の照明に照らされ、煌々こうこうと輝く機体。

 まるで太陽を思わせる赤炎――高さにして18m以上をほこ雄大にそびえ立つ。


「……神倶羅かぐらさん……、これが――」


 少年が学園で学んだ物は、災害対策用のA・Fアームド・フレームの姿。

 当然国家の機密事項に触れる事などありえない。

 それ故、眼前に現れた物は認識の範囲を越えていた。


 A・Fアームド・フレームにありがちな無骨な、ブロックとブロックを組み合わせた生産性・メンテナンス性を考慮した姿など欠片も無い――機体をおおほとんどの装甲が、曲線と湾曲を鋭利に切り落とした様な接合部。

 複雑ではあるが表面等凹凸の極めて少ない滑らかな外面。


綾奈あやなで良いわよ?そう……、この機体――フレーム形式00-アルファ……【アーデルハイド=G-3】――。」

 

 その赤き機体――大尉が口にするその名は、本来起動予定にないための仮名称である――だが、それでもそこに霊的な力が宿る様な響き。


「これが、アルファ・フレームよ……!」


 綾奈あやなに指示され機体の内部まで伸びる通路にて操縦席へ向かう少年。

 その外観から来る認識を越える様相は、当然コックピット内にまで及ぶ。


 ブウーッン


 機体の電源が入りモニターと思しき物が無数に現れる、が――


「……綾奈あやなさん?これ……A・Fアームド・フレームと違いすぎなんですが(汗)てか椅子も無い……??(汗)」


 と聞いて座席のあるコックピットを想像していたいつきは、完全にきょを付かれた。

 目に飛び込んで来たのは、体を持たれかけるだけの謎の設備。

 どうやら、パイロットスーツとの接合部と思われる箇所が多数、つまりはほぼ立ちっぱなしという所である。


「脳神経パルスを量子センサーで感知するシステム――D・M・Q・Tダイレクト・モーション・クオンタム・トレーサーよ……。」


「パイロットの神経伝達、それに反応する筋繊維の収縮から来る微弱な電流。それらを瞬時に読み取り、フレームが追従するシステム。」


 筋繊維の微弱な電流は、筋肉繊維が収縮する動きや筋力を発生させた時に発生する。

 こと格闘家ともなれば普通の常人を上回る速度で反応する――それに対応する程のシステムである。


「君がパイロットに選ばれた理由……、なんとなく想像つかない?」


 体の動きのなんたるかは、知識と実践で身体にしみこむ格闘少年にとって、かろうじて想像に至る知識領域だ。


「あ……、なるほど……。」


 そんなやり取りの中――機体に同乗する大尉 神倶羅かぐら

 そう――この機体に限らず霊装機セロ・フレームは多分にれず、複座の機体である。

 これは搭載機関や災害対策任務の関係上、一人がオペレーションを担当する、複座式マニピュレート・システムの側面もあるのだ。


 そして、赤き機体のコンディションが指令部でモニタリングされ、全ての発進準備が整う。


アルファフレーム……、機体調整完了!」


月読つくよみ指令っ!いつでもいけますっ!」


「よしっ!【アル・カンデ】内部カタパルト起動――ゲート解放っ!」


 格納庫から固定用ハンガーがレールで移動――そのまま傾斜しながら電磁カタパルトへ固定され発射体制に移る。

 本来起動予定に無いため、緊急の射出システムで万全の出撃体制が取られた。


『【アル・カンデ】内部ゲート解放します!アルファフレーム……射出用ラフターへ移動!』


 全てが始めての格闘少年――初の出撃においては、仮として上官に相当する神倶羅かぐら大尉が受け持つ。


いつき君、出撃の手順……覚えておいてね?次からは任せるわ!」


『は……ハイ……!』


 大口を叩いたものの、やはり予想を逸脱する機体の全容に、緊張がピークに達する格闘少年 いつき

 だが、今そんな事でひるんではいられない事態――緊張の中覚悟を強く心に刻む。


 その格闘少年――そしてそれをサポートする者 神倶羅かぐら大尉は赤炎をまとう機体と共に、戦場と化した母なるソシャールを守護せんがため、飛び立つ――赤き戦いの始まりである。


紅円寺 斎こうえんじ いつき神倶羅 綾奈かぐら あやな……、アーデルハイドG-3……!イグニションッッ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る