第3話 導かれる炎陽



「出撃可能なA・Fアームドフレームは……?」


「現在20機が待機中……、うち14機はすぐにでも出撃できます……!」


 

 幾重のモニターと、各セクション――指令官の座席を始め、通信担当・兵器及び火気管制担当、C・Hコズミック・ハザード対応の災害防衛広域レーダー担当等の重要管理中枢を全て内包するオペレーション・ルーム。

 その中央に座す、司令塔である月読つくよみ大佐。


 この指令官はすでに状況分析を終えている。

 即座にA・Fアームドフレームで可能な対応をその頭脳に巡らせ、次々と命令を下していく。


「構わん!残りの機体も準備を急がせろ!全機出撃だ!」


「しかし……それではC・Hコズミック・ハザードに対応するフレームが……。」


「ソシャールの防衛が最優先だ!工場区画……奴らの侵入ルート上周辺住民に非難指示、急げっ!」


「りょ……了解!」


 そして隊員も優秀である。

 命令に緊急性を感じ、即座に対応してみせる。

 走る目が複数のモニターを素早く読み取り、舞う様な両の手が次々と必要な手順を刻み――ソシャール内、指定された区画への迅速なる非難警告を発令。

 C・Hコズミック・ハザード防衛対応のエキスパート達は、臨機応変な対応力が非常に高いと思わせる。


と、その見事なオペレーションが繰り広げられるオペレーション・ルームに、自動開閉の二重隔壁を越え一人の女性がやってくる。


 その女性の声が響くやいなや、オペレーション・ルーム内がさらに引き締まる。


月読つくよみ指令……ご苦労様。……どうなってはります……?」


 その口調は、地上の日本で言う所の京都弁に近い物がある。

 ゆったりとしながらも凜とした表情が印象的な、巫女装束を模した出で立ち。

 そして、日本を守護すると言われる三種の神器の一つ、勾玉まがたまを形取った髪飾りで、腰まで届く黒髪を後頭部で結った女性。


 その髪をほとんど揺らす事もなく、つつましやかな歩調で月読つくよみ指令に近づき問い掛ける。


「み……水奈迦みなか様……、何故こちらに……!?」


「強い霊力震ヴィヴレードがウチの所へ届きました。只事では済みまへんやろから……。」


 軍の階級からしても上級仕官である月読つくよみ大佐が、その明らかに年下である女性にかしこまる。

 皇国軍において彼女の発言・権力は絶対である。


 宇宙世界において皇国は、ラムー王族を正等に受け継ぐ末裔である。

 元老院議員を最高権力とし、その末裔の血脈を継ぐ者が皇王に即位する体制である。

 だがこの皇国最大の特徴として、皇王の権力暴走を考慮した監視・監督する立場に、元老院と同等の立場の者が必ず設置される。


 その立場として際たる存在、地上世界古来よりラムー帝国を守護し続け、その後の歴史上 あかつきの大地日ノ本を、今も守護し続ける組織――【三神守護宗家】である。


 そして水奈迦みなかと呼ばれた女性こそ、ヤサカニ家裏門当主【ヤサカニ 水奈迦 皇翔姫 みなか こうしょうき 】その人である。


「侵入者は【ザガー・カルツ】3機のSV・Fシヴァ・フレーム……、【アル・カンデ】中枢へ侵攻中です。」


「3機だけ……おすか……?」


「はい……、現状では……。」


 彼女に大佐クラスの月読つくよみかしこまる。

 それは水奈迦みなかという女性に、ソシャール【アル・カンデ】防衛軍の指揮全権と、監視の役割が与えられているからに他ならない。


 水奈迦みなかは簡潔に告げる大佐の言葉を受け止め、考えうる最善の対応を思案する。

 そして今取れる二つの対策――


 可能性は限りなく低いが、最も現状打開確立の高いであろうはずの策。

 もう一つは、可能性はほぼ確実であるが、現状打開の可能性が低いと思われる策。


 その双方を、月読大佐へ確認と共に指示を出す。


「コードΩオメガの起動は可能?」


「……無理おすな……。彼が来いひん事には……。」


 可能性が限りなく低いが最善……。

 大佐の口にした彼という言葉――恐らくそれが関係しているのだろう。

 その策はすぐにも可能性が潰えてしまう。


 ならばと、ヤサカニ家当主はもう一つの策をむ無し、といった感で決定事項とし――指揮を取る大佐へ命を下す。


「分かりおした……、コードΑアルファの起動……許可します!」


 当主 水奈迦みなかは眼前のモニターへ手を伸ばす。

 その直後――パネルのスイッチにより、リミッターを解除された2機の機体がモニターへ現れる。

 そこに映し出される機体――それはA・Fアームド・フレームとは明らかに異なる様相をしていた。

 

 そのうち、一機は消灯された暗がりの中にあり、全容は確認出来ない。

 もう一機――こちらが照射される照明で、煌々こうこうと照らされる。


 その機体――燃える様な赤き装甲に身を包まれる。

 A・Fアームド・フレームよりスマート且つ高機動を思わせる、可動部も無駄の無いのシルエット。


 その迫力たるや、特機を連想させる赤炎の機体――例えるなら燃え上がる太陽の様であった。



》》》》



 太陽系に住まう宇宙人そらびとにとって、文化の中心となっているソシャール【アル・カンデ】。

 多くの人種・種族が入り乱れる集合民族空間——中でも限られたコロニー内部における教育システムは難所である。


 ジュニアからハイまでを統合した、一貫教育を中心とし展開する体制。

 ソシャール内において、環境的に余裕がない事、またC・Hコズミック・ハザード時の避難場所や経路の関係上それが最善であった。


 ここ第5居住区は地上アジア系住民が多く、その子供達の学び舎である【私立あかつき学園】。

 その学園に資本出資する大企業、【あかつきグループ】は【アル・カンデ】のみならず、周辺宙域で絶大な資産力を持つ企業グループで知られている。


 その資産力と強固な信頼を得る源――それは、この宇宙に住まう人には避けられない障害、放射能による遺伝子への影響。


 避けて通る事の出来ない、巨大な太陽から放射される放射線。

 全てを防ぎきれないが故、非常に発生率の高い身障者。

 

 その者達が作り上げた企業、いわば身障者が社会において、無類の大活躍をした結果である。


 いつしか活躍を太陽系全土に広げたその企業は、社名を【フリーダム・ホープ・A・Cアカツキ・コーポレーション】と改め――その名に〔自由への希望を託す〕と言う意味を込めた。


 それは、真の健常者の様には活躍できず、後方支援に甘んじざるを得ない身障者達が、前線で活躍する者達に託す希望と公言している。





 あかつき学園の北西に位置する武道館。

 数種の体育会系部活動が使用しているが、今日はひときわ部員の少ない部が部活動に励んでいた。


「せいっっ……!ハッッ!」


 静まり返った館内に、足運びによる床とのれ合いの音。

 その音と合わせて、旋律を奏でる様に気合の掛け声が木霊していた。


 武道着に身体・腕・足と頭にプロテクターを着込む二人の部員。

 立会いの構え――そしてにらみ合い、そこから双方が相手にめがけて一撃を打ち込む。


「はぁぁっっ!!」


 気合いと共に交差し、放たれたかに見えた一撃それは虚しく空を切り——


っ!」


 一瞬だった。

 先ほどまで拳打の応酬を浴びせていた少年が、そのにらみ合いから大振りの一撃を放ったその刹那――防御側の少年がふところに飛び込んでいた。

 そこから攻撃をいなすと同時に、背中からぶつかる様に体当たる。


 拳打を空振った側は、その無防備なボディに一撃を見舞われ、弾かれた後仰向けに倒れこむ。


「さぁ~まだやるか~。」


「……まっ、参ったよ!……ったく!」


「……えぇ~やらないのかよ~。」


 倒れた少年は、これ以上は無理とばかりに必死で負けを宣言する。

 倒した側は相手の面前に拳を突き付けつつ、残念かつ物足りないとげんなりした表情を振りまいた。


「やっぱりいつきが勝っちゃったよ……、ってかあいつ何連勝目??」


いつきせんぱーい、かっこいいーーっ!」


「そこの女子!黄色い声を上げるな……!うらやましく……ごにょごにょ……。それより誰かあいつの連勝を止めろよっ!」


「そんなの無理です~。」


 勝利を収めた側、いつきと呼ばれた少年をネタに随分と様々な声が上がる。

 先ほどの張り詰めた空気は何処へやら……、生徒の休み時間の様な風景が広がっていた。


 そこへ頭のプロテクターを脱ぎながら、ネタもとの少年・いつきが、好き勝手な部活仲間の前に進み出て、堂々と言い放つ。


「なーに言ってる、やる前から諦めてんじゃねぇよ!いったい何しに部活に入ったんだ……?」


 その言葉を前に、部活仲間は妙~な沈黙のまま顔を見合わせる。

 ――そして最強の少年に、痛恨の地雷発言を連続で浴びせていった。


「文化部って……か……かっこ悪そうだったし……。」


「い……いつき先輩が……近くで見られるかな~って……。」


「……右に同じ……。」


「あ……あみだくじ……。」


 最後の部員が特大の地雷で締めくくる。

 するといつきの表情がとてもにこやかに――いや……目が笑ってない。


「ほぉ……そうかそうか、じゃあ取り合えず全員そこに正座だこのやろう……!」


 かくして、問題発言をひとしきり言い放った部活仲間は揃って正座させられる事になる。

 いつきはこの部で部長なのだろう、実力と共に発言力もあるようで、少ないながらも部員達はよく言う事を聞いている。

 休み時間然とした雰囲気は相変わらずだが。


「だってまさか武術部が紅円寺こうえんじ流で、おまけにC・T・Oの特殊養成も兼ねてたなんてさー……。」


「お前も言ってくれりゃオレだって……」


「入部なんてしなかった……って?」


「うっ……。」


 相変わらず目が笑ってないいつきに突っ込まれ、言い訳を放った少年は言葉を詰まらせる。


「まあ……うちの学園、お袋の性でずっと運営してたからな~。おかげで今でも混乱する生徒が……。」


「そこんとこもっと詳しく教えやがれ……この理事長の息子……!(怒)」


 いつきのふと漏らした諸事情に、怒りの突っ込みで反撃をする少年部員。

 

 その諸事情の元となる変化、つい数週間前学園内会議であかつきから紅円寺こうえんじへと改名されたばかりで、仮運用ではあるが紅円寺こうえんじ学園と改められている。

 いつきと呼ばれた少年はまさに、理事長である暁 咲耶あかつき さくやとそのパートナーである紅円寺 陽善こうえんじ ようぜんの一人息子であり、かつて紅円寺こうえんじ流総合格闘術の師範であった父の意志を受け継いでいるのだ。


 その両親の事情こそが、学園の改名に大きく関係しているのだが、当の関係者本人はそれ程事の本質を重くは考えていないのだろう。


「よってオレは悪くねぇ!……(キッパリ!)」


「うぉいっっ!(怒)」


と、この調子である。


「ま、極秘なんとかっていう大人の事情……」


 いつきが深く考えのない思考でさらっと話を流そうとしたその時――

 生徒の部活のはずが、休み時間気分を拭き飛ばす警報音がソシャール内に響き渡った。

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