第2話 「出会い」

 頭がいいとは思わないが

あまり自分は馬鹿ではないと思う。

しかし今回の自分の無計画な散財には

嘆く気も失せ呆れることしかできない。

 恭は久しぶりに行ったスーパーで、

懐かしい駄菓子に柄にもなくテンションが

上がってしまい、一度してみたいという理由で

駄菓子の大人買いをしてしまった。

 もしタイムマシンがあるなら

そんな短絡的な考えをした自分を

殴りに行こうと思ったが、

そんな事のためにタイムマシンを使うのが

アホらしくて妄想はそこで止めておいた。

 自分の過ちに気付いた時、

普段は気にならないものが

自分を馬鹿にしているように思えた。

 レジの近くで大声で話してる

派手な服装のおばさん達はこっちを見て

笑っている気がするし、

レジ打ちのお兄さんはバーコードを合わせてた時に

僕を見てにやけていたような気がする。

電柱の上にいるカラスの鳴き声が

自分をアホ呼ばわりしているようにも思えた。

そんな事はないと分かっているが、

実際そう言われたらぐうの音も出ない。

 恭の残りのお金は200円、次のお小遣いまでは

2週間ちょっとある。これは流石に厳しい。

しかしうちの家はお小遣いの前借りなどという

特例は余程の事がない限り認められない。

というより認められた事がない。

 どうするか‥

一人悩んでいるとあるものが目に入った。

小学一年生の時サンタさんにもらったプレゼントの箱だ。

昔は父からもらったのだが、今はプレゼントは

母にねだるようにしている。

 それは父はあまり家族に関心の無い人だからだ。

それは息子としてありがたい時もあるが、

クリスマスの時はそれは見事に裏目に出た。

父は僕に欲しいものを聞かずにとりあえず

もらっても困らない物をプレゼントした。

 正直、それなら欲しいものを聞いて買ってきて

くれた方がありがたいのだが、

父も子供の夢を潰さないという父としての

使命を果たさないといけない義務を感じていたの

かもしれない。

 もうずいぶん昔のことだが、もらった時に

落胆したおかげで中身が何かは覚えている。

豚の貯金箱だ。

よくマンガに出てきそうなハンマーで壊すタイプ

のもので、何かのキャラクターみたいな豚ではなく本当の豚みたいに細い目。あまり誇張していない鼻。毛の色はもらった時は鮮やかなピンクだったが、ずっと箱の中に入れられてたので

くすんだピンクになっていた。

 子供の頃、何だかせっかく貰ったプレゼントを

割るのは忍びなくて使うのを途中でやめていたが、

もしかしたらいくらかお金があるかもしれない。

そう思い貯金箱をとりだし、

ハンマーに代わる物を探していた。


「久しぶりやなぁ」


 えっ?恭は驚いたが、

すぐに冷静さを取り戻した。

自分以外誰もいないはずの空間に

知らない人の声がした。

これは空耳というやつだ。納得しようとした時


「おいおい無視かいな、しばらく見いひんうちに

 そんな世間知らずになってもうたんか?」


 落ち着け。恭。これは空耳だ。

多分近くで、たまたま表れた関西のおじさんが

たまたま同じ名前の近所の子供に説教しているのだろう。あまり現実的ではないが、

ありえない事ではない。

何とか頭を回転させ、こじつけの推測で

納得しようとするが


「恭!こら!返事せぇ!とりあえずわしの事

 一回地べたに置け!話はそっからや!」


 嘘だろ‥。確かに俺は返事してないし

貯金箱は手に持ってる。だからと言って

貯金箱が喋るわけない。

何かにすがるような思いで貯金箱を見てみたが

想像していた5倍怖い顔した豚が僕を睨んでいた。

 もう駄目だ。いや夢なのかもしれない。

古典的だが頬をつねってみた。痛い。

頬に鋭い痛みが走り、自分は正常だと自覚した。

貯金箱からも古いと言われたのが駄目押しになった。何なんだいったい‥

 これが僕と奇妙な豚の貯金箱の初めての

いや正確には初めてではないが、

これが僕たちの出会いとなった。


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