第3話 親友大作戦

 そして、桃色学園の入学式が始まった。


 元の世界では高二だったはずなのに、またしても入学式をやるなんて何だか変な感じだ。


 俺は自分の前をチラリと見た。


 俺のすぐ手前には『桃色学園がーるず』の主人公、小鳥遊たかなしが立っている。


 そして少し後方には俺の推しヒロイン、桃園ももぞのさんまで。


 心臓のバクバクが止まらない。


 こんな状況になるなんて、誰が予想した?


「それでは新入生一同に、この学園の理事長であり校長でもである茶畑真人ちゃばたけまさと先生からご挨拶をいただきます」


 生徒たちの拍手とともに、真っ赤なスーツにサングラス、茶色く日焼けした肌の派手な男が現れた。


 桃色学園の名物校長、マッチョ校長こと茶畑真人先生だ。


 この校長、キャラが濃いせいか、ちょいキャラなのになぜかやたらに人気があるんだよな。謎だ。人気投票でも桃園さんより上の九位だし。


「やぁみんな、青春してるかい? 高校とは青春、青春とは人生。そして人生は筋トレであるからして――」


 マッチョ校長がわけの分からん挨拶をしている間に、俺は小鳥遊と桃園さんをくっつけるための作戦を立てることにした。


 まず思いついたのは、二人を近くで見張って、他のヒロインたちを小鳥遊に近づけないようにするという作戦だ。というかそれしか思いつかない。


 そのためには、絶えず小鳥遊の側にいる必要があるだろう。


 俺はチラリと後ろを見た。そこにはメガネをかけた冴えない男、山田がいる。


 こいつは小鳥遊の親友ポジのキャラで、最終的に桃園さんくっつく憎き男。まずこいつを出し抜いて、俺が小鳥遊の親友ポジに収まるのが最初のミッションだ。


 確か原作では、小鳥遊と山田は入学式の帰りの廊下で話したことをきっかけに仲良くなり、親友になったはず。


 ということは、まずは山田が小鳥遊に話すのを邪魔するところから作戦スタートだ。


 幸いにも出席番号順に並んでいるので、俺は小鳥遊の真後ろというベストポジションに陣取っている。


 この位置からなら、最後尾にいる山田を出し抜いて小鳥遊の親友ポジに収まれるはず!


 俺はじっと小鳥遊の後ろ姿を見つめた。


 チャンスは一度きり。ここで出遅れたら全ての計画が台無しだ。慎重かつ迅速に動かなくては。


 ゴクリ、ツバを飲み込む。


 そして長ったらしい校長の挨拶が終わり、生徒たちがゾロゾロと教室に帰り始めた。


 ――今だ!


「あのさ――ぐあっ!」


 俺は山田が小鳥遊に話しかけようとするのを押しのけ、小鳥遊の肩を無理矢理抱いた。


「やあ。俺は武田タツヤ。君は? どこ中? もし良かったら友達にならない?」


 一気にまくし立て、少し後悔する。


 しまった。ちょっと馴れ馴れしすぎたかもしれない。どこのチャラ男だよ。


 だが小鳥遊はキョトンと俺の顔を見つめると、人懐こい笑顔を返してくれた。


「僕は小鳥遊イツキ。東中出身だよ。話しかけてくれてありがとう。ぜひ友達になってよ」


 俺は心の中でガッツポーズをした。


 よっしゃ、ミッション成功!


 パーフェクトじゃないか。

 俺は自分の作戦の完璧さに酔いしれた。


 よしよし、これで小鳥遊の親友ポジに陣取れるぞ。

 

「よし、じゃあ決まりだな。俺たちは親友だ!」


 俺は右手を差し出した。


「えっ、親友?」


 小鳥遊が首を傾げる。


 あ、しまった。ちょっと馴れ馴れし過ぎたか?


 冷や汗が背中を流れる。

 どうしよう、親友になるつもりが逆に好感度が下がってしまったかもしれない。


 だが小鳥遊は、一瞬キョトンとした後で爽やかな笑顔を見せ、俺の手を握り返した。


「うん、分かった。僕でよければ親友になろうよ」


 ぱあああっ。


 小鳥遊の背後に、後光が射し、キラキラとした花や星のエフェクトが舞ったような気がした。


 ま、まぶしい。なんて良い奴なんだ。さすが俺たちの小鳥遊。


 俺は小鳥遊の笑顔のあまりの眩しさにクラクラと目眩がしそうになった。


 俺は大体のハーレムものの主人公は嫌いだが、なぜか小鳥遊だけは嫌いになれない。


 紳士的で優しくて、しかも肝心な時には行動力があって、熱いハートを持っていて、人気投票で桃園さんより上だったこと以外は完璧な主人公なのだ。


 しかも実際この目で小鳥遊を見てみると、「僕はごく普通の高校生」とか言ってたくせに普通にイケメンじゃないか。


 モデルとか俳優になれるってレベルでは無いけど、クラスで二、三番目にはカッコイイ。こりゃモテるわ。


 まあでも、そうでも無いと桃園さんとは釣り合わないか。


 俺は桃園さんをチラリと見た。


 桃園さんは、一人で不安そうに廊下を歩いている。


 ああ桃園さん、待ってろよ。この俺が小鳥遊とくっつけてやるからな!


 それにしても、後ろの方でなんかキモいメガネが「ぐぬぬ」とか「覚えてるでゴザル」とかいってるけど、たぶん気のせいだろうな。

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