第6話 蒔く(1)

「ほんとにどう思う? 自分ではなんも教えないクセにさあ。 そんなことで怒るし。」


南は秘書課の志藤のところに行って、今朝のことを早速、愚痴った。


「ほっときゃええやん。 斯波の机なんか。 あの子にも斯波のことは放っておくように言っとけ、」


「でもさあ、新卒で来たばっかりの子にあんな理不尽な怒り方、」


「だって斯波やもん、しゃあないやん。」


「また! あんたも人任せにして!」

南はブチ切れそうだった。


「あたしだってねえ、仕事山積みなの! それを!」


すると萌香がやってきて、

「あの。 よかったら私が加瀬さんに教えます。」

と言った。


「え、でも。 萌ちゃんだって忙しいのに。」


「時間があるときだけ。 あとは南さんにフォローしてもらって。 新しい人には早く仕事を覚えてもらいたいし。」


「ありがと。 でもさあ、彼女、すっごい大声で斯波ちゃんに怒られてもしゃきっとしてるし。根性はあるかも。」


「さっすが体育会系やなあ。」

志藤は笑った。




「加瀬さん、コレ書いて。 総務に持って行くから。 一緒に行きましょう。」

萌香も手取り足取り教え始めた。


「はい!」

常に大きな声で明るい返事。


「あ、これは計算間違いしてる。 よく見て。」

間違いを指摘しても、


「あ、すみません!」

と笑顔だった。


電話の取り方から、取次ぎ。

新卒の子には教えるべき基本的なことがたくさんある。

萌香は根気よく彼女に教えた。


「すみません。 栗栖さんも忙しいのに。」

休憩室でお茶をしていると、夏希はしょんぼりとして言った。


「そんなの。 最初から何でもできる人はいないし。 今日は私も暇だから。」



コーヒーを飲む彼女の横顔は本当にきれいで。

同性といえども見とれてしまう。


「ん?」

萌香がその視線に気づく。


「あ、いえ…。 栗栖さんって本当にきれいだなあって…」

夏希は思ったことをそのまま口にしてしまった。


「え?」


「いや、芸能人かと思いましたよ。ホント。」


「もう、なにを、」

萌香はクスっと笑った。


「ほんとにあたしってガサツだし。 こういう人を見ると憧れちゃうな~って。女子高から女子大で。 女だらけだったのに、何だか男社会みたいなとこで生きてきたんで。 今まであたしの周りにはいなかった人かなあと。」


「でも、元気がいいのはいいことよ。 南さんもあなたが根性があるって褒めてたわ、」


「いや~。 まあ、 元気だけがとりえですけど。」

夏希は照れた。



「はいっ! クラシックじゅぎょうほんぶですっ!!!」

夏希が電話を取った声が部屋中に響き渡る。


玉田はぶっと吹き出した。

「でっかい声で、噛むなよ・・」


「は? あたし、今噛みました?」


「噛んでる、噛んでる。 もう、勢いつけるから。」


「噛んだかなァ・・。」

本人だけが解せない顔で。

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