第2話 山荘旅館 非連続性殺人事件 (4)

 橋を渡ると旅館はすぐそこにあった。建物は2階建てで、少し大きなロッジのような作りをしている山荘旅館だった。

 周りを見渡すとテニスコートがあるだけで他には森しか見当たらない。

 この旅館へと続く他の道はなさそうだ。

 唯一の交通手段だった橋が使えなくなった以上、我々は隔絶されてしまったと考えた方が良いだろう。



 入り口で警備をしている警官と挨拶を交わし、玄関を抜けると、すぐにロビーとリビングを合わせたような広い部屋になっていた。

 そこには嵐山警部補が容疑者とみられる少年達を集めて事情聴取をおこなっている。

 少年達は5人いる、つまり容疑者は5人という事だ。



 警部補を見つけると、うちの先生はズカズカと部屋の中央に進み出て容疑者からの聴取をさえぎる。


「またうだつの上がらない、聴取ですか嵐山らんざん警部補、それでは事件は解決しませんよ」


 いきなりの否定的な意見に、嵐山警部補は少しムッとした表情を浮かべるが、大人らしく感情を押し殺して挨拶を交わす。


「お越し頂いてありがとうございます。早速ですが事件解決にご協力をお願いします」


「もちろんですとも、私が来たからにはもう大丈夫です」


 そういってコートの襟を正し、容疑者の方々の方へ向き直した。


「さてと、まずは私の自己紹介からかな。助手の刈谷かりやくん、いつもの紹介を頼む」


「いつもといっても、人前で披露するのは初めてですが……」


「良いから早くやりたまえ」


 先生にせかされて、僕は探偵事務所で練習させられていた台詞せりふを言う。


「このお方は害悪探偵がいあくたんてい 晴見はれみ 直人なおひと

 およそ1万冊の推理小説のデータを元に、名推理を打ち出します。

 すでに数々の難事件を100パーセントの確立で解決してきました。

 晴見 直人その人に、解決できぬ事件はありません」


 1万冊の推理小説を読んだとは紹介したものの、うちの先生はオチの部分しかつまんで読んではいない。

 だが説明を聞いた者は、全ての推理小説を完全に読破したと錯覚するだろう。


 説明を一通り終え、僕は周りの人々の反応をうかがう。

 いきなりの不審者の出現と、そこに訳のわからない説明が加わり、話しを聞かされた容疑者の方々はポカーンとしていた。


「あれ? 反応が悪いな、ここでは敬畏けいいを込めた驚きの歓声が上がる予定だったが……

 まったく刈谷くんちゃんと頼むよ」


「この気まずい雰囲気は僕のせいですか?」


「ああ、もちろんきみのせいに他ならない。

 まあ紹介の失敗などはどうでも良い、さて、本題に入るか」


 そう言うと、これまで取った調書を嵐山警部補から奪い取り、うちの先生の事情聴取が始まった。

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