第4話 押し入れの川沿い

ルネさんを振り切りたい。

が、わたしはそんなに速く走れないうえにルネさんは人外なのでものすごく速い。経験済み。怖かった。

「なんでそんなに変な顔してるんだ?」

あなたのせいですよ。ルネさん。

一人でのんびり散策する予定だったのに…!

「ルネさん、今日はどうしてキラハデなお姉さま方と遊びに行かないんですか」

「気分じゃない」

さいですか。

モテる男は違いますね。

「なんでぱっと見女の人なのにそんなにモテるのか…」

背後からガシッと頭を掴まれた。

掴んだ手に少しずつ力が入りつつ低い声が聞こえた。

「おいハルてめえ今なんつった」

「あたまっ、頭掴むのやめて…!」

ぱっと見女の人は禁句だった。

「ごめんなさいは?」

わたしは小さい子ですか。

「ごめんなさい」

顔怖い。綺麗な人が怒ると迫力が違うよね。

さて、そんなこんなで川沿いについたわけですが。

「河童!?」

船の船頭さんが河童なんですけど!?

緑の肌に頭にお皿、背中には亀さんよろしく甲羅が…

江戸時代にでてくる船頭さんと同じ恰好してるよ。周りの風景中世ヨーロッパなのに。

「俺、ハルが河童で喜ぶとは思わなかったわ」

「なんで?河童だよ?普通いないからね?」

いや、ここの世界の人たちにしてみたらいるのが普通なのか。

普通じゃないことが普通に起こるのがこの世界なのだった。忘れるところだった。

橋の上から河童の船頭さんを「わーすごーい」と小さい子どもみたいに見ていたら、

「船乗るか?」

とルネさんが言ってくれた。

「いいの?」

とても乗りたい。河童の船頭さんを間近で見てみたい。

「二人かい?」

河童の船頭さんはすごく気さくな人だった。

ん?人?か?とりあえず人と言わせてください。

人外さんってなんていえばいいの?二足歩行だったらもう全員人でよくないか?

「色男と嬢ちゃんなんて、えらいまた不思議な組み合わせだなぁ。しかも嬢ちゃん、人間だろう?」

「え?あ、はい、人間です」

いっけね、考え事してて半分くらい聞いてなかった・・・

ここ来るようになって結構経つけど、いまだに人間のわたしがいることに驚く人は多い。よっぽど珍しいようだ。

最近はルネさんとよく一緒にいるからかペアで見られることが難点だ。

「二人はあれか?恋人とかなのかい?」

ほらきた。

「ないな」

「ありえないですね」

こういうときはルネさんと気が合う。

「そうかい」

船頭さんはやっぱりいい人だ。黄色いくちばしをカチカチ鳴らしながら笑っているものの、それ以上は何も言わなかった。

しつこい人はここで食い下がってくるからなー

「ルネさんならともかく、わたしを色恋沙汰に巻き込まないでほしいよね」

「そうだな。ちんちくりんだもんな」

ルネさんに吹っかけたらダメージ食らった・・・

きっとこれから成長するはずだもんね!

「お前はもう無理だからあきらめろ」

「エスパー!?」

「そんなわけないだろ」

「仲いいなぁ」

これ、仲いいの?

「あら、かわいい子が乗っているのね」

急に水の中から声がした。

びっくりしてかたまっていると、「ここよ」と美人なお姉さんが水の中から顔を出した。

舟のヘリに手をかけて、わたしを見てにっこりと笑った。

白い肌に細い腕、薄い青の切れ長の瞳に真っ黒の髪、そして、その後ろに見えたのは・・・

「人魚!?」

緑色のうろこのついた尾ひれだった。

「あら、あなた人間なのね」

まじまじと見られた。いや、わたしもまじまじと見たんだけど。

「四百年くらい生きているけど、人間を見たのはこれで二度目だわ」

今なんて?

「よ・・・四百年とおっしゃいました・・・?」

「言ったわ」

マジですか。すごくベタな展開すぎて脳みその処理が追いついていない。

人外だから長生きなんだろうなっては思っていたよ。いましたとも。

でもここまでとは予想外だ。

「・・・ちなみに船頭さんはおいくつで?」

おそるおそる聞いてみた。

「オレかい?オレァ四百六十くらいだな」

おーまいがっ。

「ルネさんは?ルネさんはもうちょっと若いよね?」

あれ、なんか涙出てきた。

「なんで涙目なんだよ。そりゃ若いけど」

「何歳?」

食い気味に聞いた。

「二百・・・」

「あ、もういいです」

「てめぇが聞いてきといて・・・」

「くらい」がつくのは数えるのも面倒くさくなっているからなんだろうな。

さて、そろそろいい時間だ。

「降り場につけてもらってもいいですか?」

「おうとも」

帰る時間になった。今日はここまでにして、また来週、もう一度ここに来よう。

舟を下りて、お金を払って、さて、出口までって思ったんだけど。

「ここどこ?」

「言うと思った」

世界は広いなー(棒)

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