少女、暗黒の太陽を目指す

「きゃああぁぁぁぁ!!」

「深いなおい!」


 リリィはアビーに背負われたまま、深い闇が広がる大空洞に落ちていた。


「「っ!?」」


 だが、途中でいきなり身体がふわっと浮き上がった。


「こ、これは・・・」

「俺の魔法だ」


 暗闇からナハトの声が聞こえてきた。ナハトは手に淡い光を放つ玉を持っていた。


「ま、このままお前らを食い殺すことも出来る闇魔法の一つだがな」

「おっかねぇな」


 アビーはリリィを背負ったまま、闇魔法の領域から出た。


「ここは・・・」


 リリィはアビーの背中から下ろしてもらいながら、辺りを見渡す。


「まさか・・・・火の遺跡・・・」


 目の前にあるのは遺跡だ。それも火の魔力が辺りに多く漂っていた。


「そうだ。見ただけで気付くか。流石だな」


 ナハトは淡々とリリィを称賛する。


「ここに何があるの?」

「火の兵器を使う」

「火の兵器?」

「そうだ。あれは火の魔力を多量に使うが、空を飛べるようになっている」


 ナハトは歩きながらリリィとアビーに説明している。


「・・・・・・あそこだ」

「あれ?」

「誰かいるな」


 ナハトが案内した場所には先客がいた。


「やっぱりここを目指してたね。リリィちゃん」

「アリアさん!」


 そこにいたのはアリアだった。


「ほら、ウィンディア、起きて」

「ん、んん?・・・・・君が」


 アリアの持っている緑色の宝石から女の子の声が聞こえてきた。


「今のは・・・・」

「風の精霊ウィンディアだよ。風の遺跡もここと一緒で破壊されちゃったからさ、私がウィンディアだけでも回収しようかと思って」

「私は物じゃない」

「ごめんごめん」


 アリアとウィンディアは結構仲が良いようだ。


「こうして4人集まるのは本当に久しいな」

「ですね。アリアだけ実体を持っているのは癪に障りますが」

「何でさ!」

「ん~・・・寝てもいい?」


 精霊が四人で話し始めるとなんだかややこしくなってくる。


「精霊4体か・・・。アリアといったか?お前が火の精霊だな」

「え、うん。そうだよ」

「こいつで飛ぶことは可能か。リリィを乗せてな」


 ナハトは兵器に手を当てながら、アリアに問いかけた。


「ん~・・・多分行けるよ。でもその前に。ウィンディア?」

「・・・わかってる」

「はい、リリィちゃん」

「これがウィンディアの?」

「そう・・・一応契約してあげる。私小っちゃい子好きだし」

「小っちゃいですか!?」


 リリィの掌にある小さな緑の宝石から自分が小さいと言われてちょっとショックを受けるリリィ。


「でもリリィの胸は前より大きくなってきてるぞ」

「そう・・・なんだ」

「なに言ってるんですか!?」


 いきなりアビーとウィンディアは変な会話をし始めた。


「どれどれ・・・」

「ひゃん!」


 突然、リリィの胸がひんやりと風が包み込んだ。まるで空気に胸を揉まれているようだ。


「や、やめ・・・」


 リリィは胸を押さえているが、その行為は止まることはなかった。


「ふむ・・・おもったより大きい」

「だろ?」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・アーシー、ウィンディアって」

「元からこんな感じだ」


 リリィは厄介な精霊と契約をしてしまったと思ってしまう。


「もう話を戻していいか?」

「は・・・はい」


 これから行動を起こすっていうのに、リリィは変に疲れてしまった。


「リリィちゃん、ウィンディアに魔力を分けてもらってもいい?」

「う、うん」


 また胸を揉まれると思うと分けるのは嫌だが、必要なことなら仕方がない。


「それじゃあ、私は兵器に入るから。ウィンディアは私が説明した通りにお願いね」

「りょーかーい」


 アリアは火の魔力に霧散して兵器の中に宿っていく。


「じゃあとっととやりますか~」


 ウィンディアも魔力の粒子となって兵器に宿っていった。


(リリィちゃん、ここ乗って)

「え?」


 リリィは頭の中に響いてきたアリアの声に従って、兵器の上に乗る。


「それ俺も行ってもいいのか?」

(いいって言ってあげて)

「いいみたいです」


 どうやら、このアリアの声は契約しているリリィにしか聞こえないようだ。


「ナハトは?」

「俺は他にやることがある」

「他に?」

「ああ、それに俺が向かったところで奴の制御下に置かれるのが関の山だ」

「どういうことです?」


 制御下に置かれるの意味が理解できないリリィ。


「奴は負の怨念。つまりは精神体だ。俺には主から承った闇の魔力を宿している。ヘタに近付けば、俺が暴走を起こすか、奴に取り込まれてしまう」

「そう・・・・ですか」


 リリィはナハトは敵に回すと厄介だが、味方だとありがたいと少し期待をしていたのだ。


「リリィは俺が守るから安心しろ」

「それは信じてますから大丈夫です。でも・・・」

「ま、不安だわな」


 まだ子供のリリィに過去の戦争の根源と戦うなんて荷が重すぎる。それはわかってはいるが、光の巫女の子供であるリリィにしか、負の怨念と戦う術はない。


「我々もできる限りの力は貸す」

「そうよ。私達が付いているわ」


 アーシーとウォーティもリリィを元気付けてきた。


「・・・・・うん、出来るだけやってみる」


 リリィも覚悟を決める。


「そうだ。リリィ、お前指輪持っているな?」

「指輪って・・・これ?」

「そうだ」


 ナハトはリリィの指にある赤、青、黄、緑の宝石が嵌まった指輪を指してきた。


「あと一つ何かが嵌まる台座があるな?」

「は、はい」


 リリィの指輪に嵌められている4つの宝石の中心に小さいが何かが嵌まるような台座がある。


「そこにはこいつを嵌めておけ」

「わわっ」


 ナハトは透明な宝石をリリィに投げ渡した。


「これは?」

「主が長い間掛けて生成した特殊な魔石だ。効果はその時がくればわかる」

「・・・・・わかりました。お預かりします」

「いってこい」


 ナハトはそう言うとすぐさま何処かへと走り出して言ってしまった。


(リリィちゃん、準備はいい?)

(眠いから飛ばすよ~)


「アビーさん、出発するそうです」

「ああ、わかった」


 リリィ達が座っているのは兵器の背中の少し窪んでいる辺りだ。捕まる物も少ないので、できる限り身を低くする。


(アーシー、二人が飛ばされないように弄って)

「仕方あるまい」


 アーシーがリリィ達の周りの石を操り、囲んでくれる。


「ありがとう」

「途中で落とされたら危ないからな」


 リリィがお礼を言うと少し照れたアーシーの返答がくる。


(じゃ、いっくよー!!)


 アリアの声が頭の中で響くと同時に、周りから炎が噴出をし始めた。そして、すぐに浮遊感を感じる。


「ま、マジで飛んでるのか?」

「みたいですね」


 飛んだことで、アリアが宿る兵器姿が露になる。


 リリィとアビーが乗っているのは胴体にあたる背中辺りだ。その胴体の背中部分以外は炎に包まれている。といっても熱くはない。

 そして、炎が形作るのはまるで


「・・・・・炎の鳥」


 そう、その姿はまるで鳥。目にあたる部分は他の場所より赤く燃え盛っている。拡げた翼からは火の粉が舞い続けている。


 そして、リリィ達が通ってきた通路に向かって、もの凄い速さで移動を始める。


(向こうの大きな穴から出るよ!しっかり掴まっててね!ウィンディア!)

(ん)


 頭上にリリィ達が落ちてきた穴が見える。その先に小さいがまん丸の月が見えた。その月にうっすらと闇の靄がかかっている。


 そして、その穴を一気に炎の鳥はリリィとアビーを乗せて、上昇していく。


「わわわわわわ」

「はははは!こいつはすげぇ!!」


 リリィは怖くて、口をぱくぱくさせて震えている。逆にアビーは楽しそうに笑っていた。


 そして、そのまま穴から脱出して、空へと舞い上がった。


「・・・・・・」

「おい、リリィ。周り見てみろよ」

「え?」


 怖くて目を瞑っていたリリィは目を開ける。


「わぁ・・・すごい」

「だな。あれがなきゃもっと最高なんだろうけどよ」


 空から見渡す地上は月明かりに照らされて綺麗だった。こんな光景は見たこともない。

 だが、アビーが見る方向には闇の霧を出し続ける暗黒の太陽が不気味に浮かんでいる。


(リリィちゃん、何か見える?)


「・・・・・・うん。闇の魔力の中に僅かだけど光の魔力を感じる」


(たぶん、そこに聖女様はいると思うよ)


「アリアさんはティアが拐われたの知っていたんですか?」


(ううん、聖女様は拐われたんじゃないよ)


「それはどういう・・・」


 リリィはてっきり負の怨念みたいのに拐われたと考えていたと考えていた。


(聖女様は負の怨念っていうのに精神を乗っ取られて、同化しているの。私のさっきの遺跡もウィンディアの遺跡の封印も壊したのは精神を乗っ取られた聖女様だよ)


「そんな・・・・」


 精神を乗っ取られたということは、クリスティアと戦うことになってしまう。


「リリィ、光の魔法はどれくらい思い出している?」

「わからない。でも、光の魔法は使えると思う。それはなんとなくわかるよ」

「相変わらずだな」

「リリィには私達も付いています」

「何かあったら俺が守ってやるから安心しろ」


 リリィに付いてきてくれるのは、かつての巫女戦争の時に活躍した精霊四体に、いつも一緒にいて守ってくれているアビーだ。


「うん、ありがとう。怖いけど頑張るから、力を貸してください」


 そうして、リリィ達を乗せた炎の鳥は暗黒の太陽に向かって飛んでいくのだった。



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「隊長、住民への注意喚起は順調に進んでいます。避難する方々も大きな建物に集まってきている所です」

「そうか・・・」

「何かあるのですか?」


 ロイスの口調が少し固く感じ、セレナは疑問に思った。


「・・・アリアは見つかっていないのだろう?」

「はい。ただ目撃情報はありました」

「何処でだ?」

「1人で街の外に向かったという情報があります」

「街の外・・・遺跡か?」

「恐らくは」


 ロイスはアリアが無事だったことで、肩の荷が一つ降りた。


「・・・・・・・・」

「隊長?やはりお疲れなのでは?」

「いや、なんか嫌な予感がしてね」

「予感・・・ですか」

「セレナはあの黒い太陽はどう考える」

「・・・・・・そうですね」


 セレナはずっとこの街ルインの上空に佇む暗黒の太陽を窓から見上げる。


「闇夜の使徒が何かをしたのではないかと考えてます」

「それは僕も同意見だ。だが、奴らの目的が分からない。それにそうだとするならクリスティア様を攫ったのも彼らと考えるのは筋だ」

「そうですね」

「奴らは以前一度クリスティア様を攫った。だが、その時はこちらに返してきた」

「・・・・そういうことですか。それで嫌な予感しかないと」

「ああ、もしかすると彼ら『闇夜の使徒』とは別の何かが動いている可能性がある」


「たたたた隊長!!ロイス隊長!!!」

「何ですか?騒がしいですよ」


 突然、ロイスとセレナが話をしていた第一部隊隊長の部屋に一人のハンターが駆け込んできた。


「そそそそれが!」

「落ち着け。何があった」

「魔物です!大量の魔物がこの街に押し寄せてきています!!」

「なんだと!?」「何ですって!?」


 嫌な予感はもしかしたらこちらだったかもしれない。ロイスはそう考えてしまう。


「状況は!」

「幸い、住民の避難は事前にしていたおかげで被害はありません。ただ、あまりの数に動けるハンター総出で当たっていますが、守護者ガーディアンクラスの魔物も含まr手ているようで、苦戦を強いられています!」

「隊長」

「わかっている。僕達も出るぞ。君は守護者ガーディアンクラスには第一部隊が対応するから、無暗に攻撃をしないよう伝達を」

「りょ、了解しました!!」


 ハンターの男は慌てて部屋を出て行った。


「隊長、身体は大丈夫なのですか?」

「これぐらい問題はない」

「・・・・・・・・」

「セレナ?」


 セレナはロイスに正面から抱き付いた。


「隊長・・・いえ、ロイスさん。どうか無理はしないでください。止めても貴方は行くでしょうから」

「そうだな。無理をしてほしくないのはこちらもだがな」


 ロイスもセレナを優しく抱きしめ返す。


「・・・・・・それでは行くか」

「そう・・・ですね。行きましょう」


 二人はハンター協会を出て、それぞれの戦場へと向かって行くのだった。

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