少女、誘拐犯を追う

「リリィ!」「リリィちゃん!」


 開店準備をしていたアメリースの店の前で、掃除をしていたリリィにロイスとセレナが駆け寄ってきた。


「お、おはようございます。何かあったんですか?」


 リリィは二人の勢いに押されながら、肩で息をする二人に声を掛ける。


「クリスティア様が拐われた」

「・・・・・・え?」

「リリィちゃん、聖女様が朝起きたらいなくなっていたのよ」

「ま、待ってください。ティアは見張りの人に守られていたはずなんじゃ」

「それがクリスティア様の部屋の担当だった見張りは行方不明。付近にいたものは全て殺されていた」

「そ、そんな」


 リリィはまさかの事態に言葉が出なくなる。


「今は聖女様の僅かに残った魔力をアリアが追っているわ。出来ればリリィちゃん達にもそれを手伝って欲しいの」

「ふむ、確かにアリア一人では心許ないな。わかった。私も手伝おう」


 そこに、話を聞いていたアーシーが話に加わる。


「アーシー殿に手伝って頂けるとは光栄です」

「そこまで畏まらんでいいのだが」


 ロイスはかなり丁寧な口調でアーシーと話していた。

 とりあえず、アーシーが動くならば、必然的にリリィも動くことになる。


「じゃあアビーさんを起こさなきゃ!」


 リリィは慌てて店の中へとドタバタと入っていった。


「アビーさん!起きてください!緊急事態です!」


 ロイスとセレナは店の外で待機して、アビーを起こすリリィの声を聞いていた。


「わきゃあーー!!変なところ掴まないでください!!」

「「・・・・・・・・・」」


 やたら騒々しいことになっていた。


「・・・僕も見てこよう。あいつは寝起きが悪いからな」

「はい・・・、わかりました」


 ロイスがアビーの部屋に入った時は、アビーが寝相の悪さで、リリィに抱き付きながら胸を揉みまくっている時であった。



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「ロイスさん・・・ありがとうございます」

「アビーの寝起きが悪いのは昔からだからね」


 リリィはいまだに羞恥で顔を赤くしていた。

 ロイスはあの後、リリィに寝ぼけて抱き付くアビーの頭にげんこつを下ろして、叩き起こしたのだ。


「って~・・・。ロイス!もう少し加減しろ!」


 頭を押さえながらアビーが店から出てきた。


「おまえが変なことしているからだろ」

「変なことってなにもしてねぇじゃねぇか!」

「ふん!」

「ぐほっ!!」


 被害を受けていたリリィはアビーの腹に拳をめり込ませた。


「な・・・なぜ・・・・・・」

「変なことした罰です!」


 腹を抱えながら踞るアビーに、リリィは吐き捨てるかのように言い放つ。


「・・・・・・・理不尽だ。ただ良い夢を見ていたぐらいなのに」


 何をしていたか、まったく記憶がないアビーにとっては理不尽極まりないことであった。


「・・・良い夢?」

「あ、ああ。柔らかい何かに包まれていて気持ちがよかったんだ」


 リリィはもう一度、アビーに制裁を加えようかと考えていると、セレナから声が掛かる。


「それよりリリィちゃん、どうやって探すんです?聖女様の部屋にいきますか?」

「・・・どうなの?アーシー」


 リリィは心を落ち着かせようとしながら、アーシーに問い掛けた。


「確実に通った場所でないと、私でも難しい。ならば、聖女とやらが拐われた場所に行くのが早いだろう」

「ということらしいです」

「わかったわ。隊長」

「では、一度協会まで行くぞ」


 リリィ達は手掛かりを求めてクリスティアが拐われたと思われる、クリスティアの部屋まで行くことになった。



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 リリィ達が駆け足でハンター協会に向かう途中


「止まれ!!」

『っ!?』


 突然響いたアーシーの声に皆は驚きながら足を止めた。周りには一般の人も数人いるが、面子が面子だけあって、遠巻きながら見ていたため、アーシーの声が何処から聞こえたのか分からなかったみたいだ。


「どうしたの?」

「リリィ、そこを左に行け!」

「え?」

「早く!」

「う、うん!」


 いつものらしくないアーシーの声に従って、リリィは狭い路地に入っていった。他の皆もそれに続く。


「あ、アリアさん!!」


 路地の途中でアリアが倒れているのを見つけた。外相は殆どないが、魔力を極端に減らしていた。


「り・・・リリィ・・ちゃん・・・・・・・にげ」


 アリアはか細い声でリリィに話しかける。


「っ!リリィ!」

「きゃっ!」


 後ろにいたアビーが突然リリィを突き飛ばした。

 リリィが自分のいた場所を見ると、建物の影から剣のようなものが突き出していた。


「まったく・・・、予想以上に嗅ぎ付けるのが早いですねぇ」


 路地の先から男の声が聞こえてきた。


「あなたは」

「ユルバンです。以前はお世話になりました」


 それは、アリアを殺そうとしていた『闇夜の使徒』の幹部ユルバンであった。


「あなたがティアを拐ったんですか?」

「てぃあ?ああ、聖女のことですか。ええ、そうですよ」


 ユルバンは隠すことなくクリスティアを拐ったことを宣言する。


「お前が協会の者を殺したのか」

「まぁ、実際に手を下したのは僕の部下ですけどね」


 ロイスは抜剣してリリィの隣で構えた。リリィもすぐに魔法を詠唱出来るように、魔力を高めている。


「それよりも・・・いいのですか?こんなところにいて」

「どういうことだ」


「ぎゃあああー!!」

「来るなあ!!」


『っ!!』


 リリィ達は叫び声がした元来た道の方を見る。

 そこには守護者ガーディアンらしきものが、街の人々を襲っていた。


「くっ!セレナ!お前はアリアを!アビーは」

「では僕は野暮用があるので失礼させて頂きますよ」

「待て!」


 ロイスの制止の声を聞くはずもなく、ユルバンは再び影の中へと消えていった。


「くそ!」

「おい、ロイス!それより向こうをどうにかするぞ!」


 アビーも抜剣して、元来た方へと走り出していた。

 セレナはアリアを抱えて、すでに移動を開始している。


「リリィ、君も手伝ってくれ」

「・・・ごめんなさい。私はユルバンを追います」


 ロイスは意外そうな顔をする。リリィは手伝ってくれるものだと考えていたから。


「だが、奴は影の中へと行ったんだ。追えるはずが」

「追えます。今ならまだ闇の魔力の残滓が残ってます」


 リリィの目は真剣だった。なにより追えるのであれば、居場所だけでも掴んでおきたい。ロイスは少し逡巡し、リリィの目を見ていう。


「わかった。だが、絶対に奴と戦わないようにしてくれ」

「わかりました」


 リリィ一人に行かせるのは危険だと理解しているが、ここで逃すわけにはいかない。ロイスは苦渋の決断をした。


「では行きます。ロイスさんも気を付けてください」

「ああ、そっちも無理はしないように」


 ロイスはアビーに続いて路地から出て、守護者ガーディアンと戦うのだった。



 --------------------------



「リリィ、いつの間に闇の魔力を感じれるようになった」

「光の魔力を把握出来るようになってからだよ。んー・・・こっちかな」


 アーシーの質問に答えながら、リリィはユルバンの残した闇の魔力の残滓を追っていた。


 どうやら影の中を通るといっても、瞬間移動ではなく、地面の中で繋がっているようだ。

 そのため、闇の魔力の残滓が地面の中に道筋として残っていたのだ。


「アビーさん達は大丈夫かな?」

「恐らくは大丈夫だろう。ロイスとやらはかなりの魔法の使い手でもあるのだからな」


 アーシーは以前、リリィがロイスと共に戦った時に実力を見ている。守護者ガーディアンぐらいでは遅れは取らないことはわかっている。

 アビーはなんだかんだで、天性の勘なのか、実力はある方だ。

 更にあの二人は幼馴染で連携も出来る。守護者ガーディアンに負ける要素があまりないのだ。


「そうだよね。うん、私は早くユルバンを見つけないと」


 リリィは残滓を追って、ルインの街の路地をくねくねと移動を続けていた。


「えっと・・・ここ?」


 辿り着いた場所は墓場だった。ここは遺跡の中で亡くなった人達を埋葬している場所だ。


「リリィ、何かいるぞ」

「うん、わかってる。火よ!水よ!大地よ!風よ!我が手に光を!カルテット・エレメンツリング」


 リリィは無詠唱で放てるように魔法の準備をしてから、その場に足を踏み入れた。


「・・・・・・・何?ここ」


 リリィは足を踏み入れた瞬間に、この墓の異様さに気が付く。


「魔力が・・・統一されている?」


 普通の人では気が付けないことだが、リリィにはわかってしまったこと。

 この墓はハンター協会の見回りの範囲に入っているのに、異常には気が付かなかった。

 なぜなら、異常なのはこの場の魔力だけだからだ。


 この世界はいろんな魔力が入り混じっている。水の中でも土や風の魔力はあるし、空にも風だけでなく水の魔力や火の魔力がある。

 しかし、この墓場は闇の魔力で統一されているのだ。


「リリィ!ここはまずい!一旦戻れ!」

「う、うん!」


 アーシーの声からしてリリィは嫌な予感がしたので、墓場から出ようと走り出す。


「え!」


 逃げようとした時、墓場を囲うように闇の魔力が壁を作り出し、リリィを閉じ込めようとした。


「ファイアボール!」


 リリィは入口だった場所に向かって無詠唱でファイアボールを撃つ。しかし、闇の壁は消えることなく、その場にあり続けた。


「リリィ!後ろだ!」

「え・・・いっいやぁあ!!」


 リリィが振り向くと、墓の下から死体が次々と這い出てきてゾンビとなり、リリィの方へとゆっくり近付いてきていた。


「リリィ!あれも魔物だ!しっかりしろ!」

「う、うん!か、風よ・全てを・吹き飛ばせ・エアロハンマー!」


 リリィは涙目になりながら風属性中位魔法のエアロハンマーを発動させる。

 風の壁はゾンビ達を一気に叩き飛ばす。


「ひっ!ま、まだ来る」


 吹き飛ばしたゾンビは腕や足が取れてもなお、リリィに這ってでも近付こうとしていた。


「そうだ!この壁は闇なら光で」

「リリィ、それは無駄だ」

「なんで!?」

「この闇の壁は見覚えがある。何処かに核があるはずだ」

「核・・・」


 リリィは向かって来るゾンビから逃げるように距離を取りながらその核とやらを探す。


「ない・・・ないよ!」


 リリィは魔力の視認が出来る。だから、魔力の集中点を探す要領で墓を見渡したのだがどこにもなかった。

 リリィは再度ゾンビを吹き飛ばして、核を探す。


「あるはずないじゃないですか」

「ユルバン!?」


 墓の陰からユルバンが現れる。


「これは僕がこの魔法の核なのだから。破るんだったら僕を殺すしかないですよ」


 ユルバンは影の中に入り、リリィの近くの墓石の影から出てきて、リリィの服を斬り裂いた。


「な!なにするの!」

「何って、貴方はこれから恥ずかしめながら殺すに決まっているではないですか。この僕をあそこまで痛めつけたのだから当たり前でしょう」


 ユルバンはすぐに影に消え、別の場所から出て来る。

 リリィは露出した肌を隠しながらユルバンを睨みつける。


「ティアはどこ!この辺りにいるんでしょ!」

「ええ、この下にいますよ。ある実験をしながらね」


 再びユルバンが影の中へ消える。


「きゃっ!」


 リリィは周りを警戒しようとしたら、いつの間にかゾンビが背後まで近付いており、リリィを羽交い絞めしてきた。


「いい気味ですね」

「いやっ!やめてっ!」


 羽交い絞めにされて行動が出来ないリリィの服をゾンビ達は破いていく。そんなリリィの姿を見ているユルバンは見渡しがいい場所に移動したようだ。


「貴方に見せてあげましょう。闇の魔法を!」


 ユルバンは手をリリィに向けて詠唱を始める。


「闇よ・仇名す者を・数多の槍で・貫け・ダークネビュランス!!」


 ユルバンの手から無数の闇の光の線が迸り、リリィに降り注いできた。羽交い絞めされたリリィに防御する術はない。


「きゃぁぁぁあああ!!」

「ふふふ・・あーはっはっはっは!!!」


 味方であるゾンビごと撃ち抜くように闇の光の槍は、辺りに土煙を上げながらリリィのいた場所に降り続けた。

 そして、勝利したも同然のユルバンは歪んだ笑みを浮かべて笑い続けていた。


 ヒュン


 そんな音と共にユルバンの頬に一閃の傷が迸る。


「なんです?」


 ユルバンは頬に流れる血を確認して、リリィがいる方を見る。


「ば・・・馬鹿な!!」


 リリィはユルバンに向けて手を翳して立っていた。服はボロボロで肌をほとんど晒して、身体も傷だらけで血で赤く染まっていた。しかし、眼には力強い光が宿り、ユルバンを睨み続けていた。


「リリィ、お前はまた・・・」


 アーシーは静かに呟く。


「天の光よ・彼の者に・神の裁きを与えよ・ディバインロア」


 リリィはユルバンに魔法を使った。ユルバンを中心に天から極光の光線が降り注ぐ。それは次第に大きくなり、リリィも含め、墓場全てを飲み込む大きさとなった。


 ディバインロアは光属性の古代魔法に当たる。これは現代の魔法ではなく、古の魔法だ。

 極光の光は破壊の光ではなく浄化の光だ。なので、闇の魔力を持つ者や光に仇成す者には、より効果が増す。


 光が収まると墓場を囲っていた闇の結界が破られていた。自分をも巻き込んだ魔法でリリィの衣服は全て無くなっていたが、不思議と先程の傷は消えていた。この現象はリリィが知る由はないが、アーシーは気が付いていた。


(光の魔力が膨大に膨れ上がり、自己治癒速度が一気に上昇したのか・・・。恐ろしい子供だ)


「な、なぜこうなる・・・僕は・・・」


 ユルバンは何とか持ち堪えたようで、先程とは逆にボロボロになりながらも立ち続けていた。


「うぅ」

「リリィ!」


 アーシーの声が響く中、リリィは魔力を一気に消費してしまった影響でその場に倒れそうになってしまう。


「ふふふ・・・まだ僕に・・・勝利の女神がついて・・いるようですね」


 ユルバンは残った魔力で魔法を使おうと構える。しかし


「・・・・え?」

「ぐっ!!・・・・なぜきさまが・・」


 リリィも身体を隠しながらユルバンの方を見て唖然とする。

 なぜなら、ユルバンの身体から剣が突き出していたのだから。


「ふざけた実験をしているからだ」


 ユルバンを刺した者はなんと同じ『闇夜の使徒』の幹部であるナハトだった。


「そこのガキ、感謝する。こやつの闇の結界は俺でもなかなか入る事が出来なかったからな」

「・・・・・・・・」


 リリィは警戒を解かずにナハトを睨みつける。


「貴方はあの時の・・・」


 リリィはナハトの顔を覚えていた。フードに隠れていたとはいえ、自分が教えてしまったことで始まった事件があったから。


「ああ、あの時は色々と助かった。おかげで封印の一つが解けたのだからな」

「・・・・・・・・」


 ナハトは剣をユルバンから引き抜いた。

 ユルバンは力無くその場に倒れる。どうやらすでに死んでいるようだ。


「なんで仲間を・・・」

「仲間?ふざけるな。こいつは我らの主に逆らった行動をしたから裁かれた。すでに仲間などではない」


 リリィはナハトの目を睨み続けるが、嘘を言っているようには見えなかった。


「・・・それより貴様、名を何という」

「・・・・・・・教えるわけない」

「そうだな。順番が間違っていた。俺はナハト。既に知っていると思うが『闇夜の使徒』の一員だ」

「・・・・・・・リリィ」

「リリィか。お前とはまた会うだろうからな。名は覚えておいてやる。ああ、そうだ。名を教えてもらった礼だ。こいつを持っていけ」


 ナハトは思い出したように担いでいた袋をリリィの方へと投げてきた。


「・・・・え、ティア?」


 袋の口からはクリスティアの顔が見えた。


「こいつの実験で弄られていた奴だ。どうなったかは知らんが今はまだそちらに預けておく」

「・・・・・・・」


 その言葉の意味は分からなかったが、クリスティアが帰ってきたことに安堵するリリィ。その隙にナハトは何処かへと行こうと移動を開始していた。


「待って!・・・ナハト、貴方は何をしようとしているの」

「・・・・・巫女の解放。それでお前ならわかるだろう」


 ナハトはそう言って、走り去って行ってしまった。


「・・・・闇夜の巫女のこと・・・だよね。封印って・・・」


 リリィはナハトに言われたことを呟きながら、目の前で倒れているクリスティアに近付いた。そして、袋を開けるとネグリジェ姿のクリスティアがいた。身体はあまり傷はないように見える。


「よかった。息はある。これなら」


 リリィは治癒魔法をクリスティアに掛けてやった。


「・・・・ん」

「ティア!大丈夫?」

「えっと・・・リリィ?」


 クリスティアはゆっくりと瞼を開けてリリィを見た。


「リリィは・・・どうして裸なのですか?」

「あぅ、そうだった。どうしよう」


 リリィはクリスティアに指摘されて思い出し、恥ずかしくなって身体を丸めて隠そうとする。


 すでにボロボロになっていたとはいえ、自分の魔法で服が消し飛んでしまった。その時の記憶は曖昧だが覚えてはいる。


「これじゃかえれないよぉ」


 リリィはどうしたらいいか分からずに泣き出してしまう。


「え、リリィ?えっとえっと・・・あ」


 クリスティアは自分が入っていた袋をリリィにかぶせる。人が一人入っていた袋なので、身体を隠すには十分だ。


「うぅ・・・ティア、ありがとう」


 リリィは泣きべそを掻きながらクリスティアにお礼を言う。


「お、お礼を言うのは私のほうですわ!・・・リリィ、助けてくれてありがとうございました」

「おーい!!」


 クリスティアがお礼を言うと、遠くからロイスの声が聞こえた。

 ロイスはアビーと一緒にこちらに向かって走ってきていた。


「リリィは私の後ろに」


 流石に袋を巻いた裸の少女を男の前に出すわけにはいかない。そう考えたクリスティアはリリィを隠すように前に出た。


「リリィ!大丈夫か!」

「クリスティア様もご無事なようで」


 アビーはリリィに、ロイスはクリスティアの方にやってくる。


「だ、大丈夫ですからあまりこっちには」

「私はリリィに助けて頂いたので大丈夫です」


 クリスティアはアビーからリリィを守るように立ちまわりながら、ロイスに返答する。


「リリィ、無茶はするなと言った筈だ。戦うなとも」

「ご、ごめんなさい。その・・・」

「怒ってやるな。リリィは罠にはまり、戦わざるおえん状況になったのだ」

「そ、そうだったのか」


 リリィをアーシーがフォローしてくれた。


「ほんっとうに無事でよかった!」


 アビーは俊敏な動きでクリスティアを避けてリリィに抱き付いた。


「あぅ」

「ん?」


 流石に感触で気が付いたのか、アビーは首を傾げた。


「なんでお前はその薄い布しか着てないんだ?」


 アビーはそう言ってリリィの巻いていた布を捲った。

 幸い、ロイスの方からはクリスティアが盾になり、見えることはなかったが、アビーはリリィの身体を見てしまう。


「アビーさんの・・・」

「わ!待て!悪かった!」


 アビーはリリィがわなわなと震え、魔力が高まっていることに気が付いた。


「ばかーー!!!!」

「ぎゃぁあああ」


 アビーはリリィの猛攻の嵐を貰うことになってしまった。


 この後、ロイスの上着を借りて身体を隠せたリリィは、無事に帰ることが出来たのだった。


「あ」

「どうした、リリィ」


 ロイスとクリスティアと共にアメリースに到着した時にリリィは何かを思い出したように声を出した。


「アビーさん、忘れてきちゃった」

「いいんじゃないか?」「いいのでは?」


 ロイスとクリスティアはアビーをばっさりと切り捨てた。


「・・・そうですね。今回はいいですか」


 リリィも裸を見られたので、今回は切り捨てることにした。


 因みにアビーが帰ってきたのは翌日の昼近くだった。

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