少女、風邪を引く

「ではリリィちゃんはその骨董品屋アメリースっていう店で住み込みで働いているのね」

「はい、そこで一緒に住んでいる店長のアビーさんって人と住んでいます」


 リリィは守護者ガーディアンとの戦いの後、ハンター協会の第1部隊副隊長のセレナと隊員の3人で遺跡の街ルインを目指して歩いていた。


「そうなのですね。リリィちゃんと一緒に住んでいるなんてなんて羨ましいのかしら」

「セ、セレナさん?」


 途中から変な凄みのある笑い方をしたセレナに少し驚くリリィ。


「リリィ殿。副隊長は可愛い物に目がない病気のようなものなのです。できればスルーして頂くと助かります」

「は、はぁ」


 リリィの後ろから隊員の男が耳打ちをしてくる。


「何か言いましたか?」

「い、いえ!何も!」


 セレナは隊員の男に迫力のある笑顔で問い詰めた。隊員の男も少し顔を引きつらせて後ろに下がっていった。


「リリィちゃんも陰口は叩かない方がいいわよ?」

「は、はい!気を付けます!」


 リリィも妙に姿勢を正して頷いてしまった。


「リリィちゃんって14歳なのよね?」

「はい、そうですよ」

「誕生日はいつなのかしら?」

「春の最初です。春の1日ですね」

「ってことは今日は春の72日だから過ぎたばっかりなのね」

「まぁそれなりに経ってはいますが」


 この世界は春夏秋冬と季節が有り、それぞれ80日ずつあるのだ。今は春の72日なので、もうすぐしたら夏の季節がやって来るのだ。


「その、さっきの戦闘の時に見ましたが、セレナさんのその細剣って綺麗ですよね」

「あら、ありがと。私の愛剣なのよ」


 セレナはそう言って細剣に触れる。


「綺麗な装飾ですもんね。水の魔石ですよね?その花」

「え?ええ、そうよ。よくわかったわね」

「はい、見れば何となくは分かりますよ」

「・・・何となく・・・ねぇ」



 魔石は普通加工なんて出来ない。これはオーパーツの古い高度な技術で作られたと言われているので、装飾の形の物を見ても、普通ならそれが魔石とは思わないはずなのだ。



「リリィちゃんがウチに入ってくれたら色々面白そうだけど・・・」

「何か言いました?」

「いえ、何でもないわ。それよりここで大丈夫かしら?もう町の入口だし」

「は、はい。大丈夫です!今日は色々ありがとうございました」

「私達の方がお礼を言う方よ。本当にありがとね、リリィちゃん」

「はい!じゃあ、これで失礼します」

「うん、またね」


 リリィはセレナと隊員の男に挨拶をして町の入口で別れた。


「副隊長、本日の報告はどうしましょうか?」

「・・・リリィちゃんのことを公にするのは止しましょう。リリィちゃんのことは隊長の耳に入れるだけに」

「わかりました」


 二人もハンター協会の方へと歩き出したのだった。



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「ただいま」

「おーおかえり。今日はちょっと遅かったな」


 アビーは相変わらず椅子に腰かけ、足を机の上に置いていた。


「うん、ちょっと守護者ガーディアンと戦うことになっちゃって」

「へー、守護者ガーディアンと・・・守護者ガーディアンだと!?」


 ごん!!


 アビーは驚いて椅子から落ちてしまった。


「リリィ!大丈夫だったのか!?」

「ア、アビーさんこそ大丈夫ですか?」

「俺のことはどうでもいい!それより守護者ガーディアンってどういうことだ!」

「え、えっと・・・」


 いつものアビーらしくない言動に同様しつつ、リリィは事の顛末をアビーに話した。



「なるほどな。協会の奴らの失態か」

「違います!偶然私がそこに居合わせただけです」

「それでもお前を戦わせたのはあいつらだ」

「だから!私が助けたいと思ったから助けたの!」


 リリィはセレナ達が悪く言われているようで強く反発してしまう。


「・・・・・リリィ、俺はお前の力がどれだけのものか全てを知っているわけじゃねぇ。だけどお前はまだ14歳だ。命の危険があるようなことは出来るだけしないでくれ。もしするんだったらまず俺を連れてけ。いいな」

「・・・・・・」


 リリィは少し驚いていた。アビーはいつも怠け者でどうしようもなくて、少しエッチで、ただそんな人だと思っていた。今のような真剣な目を見たのは出会った頃以来だろう。


「わかりました。次はアビーさんに声を掛けます」

「ああ、分かってくれればいい」


 そう言ってアビーはリリィを優しく抱きしめて来た。


「本当に無事でよかった」

「・・・アビーさん」


 リリィはここまでアビーが自分のことを心配してくれているなんて思っていなかった。アビーの抱擁は凄く優しい物だった。リリィはそれに安心感を抱いたのだった。


「・・・・っていつまで抱きしめているんですか!」


 リリィはいつまで経っても終わらない抱擁にドタバタし始めた。


「いや、こうして抱きしめたらなんか抱き心地が良くてな。いい匂いもするし」

「いやー!アビーさん!匂いは嗅がないで!結構汗かいたんですから!」

「でも本当に良い匂いだぞ。クンクン」

「やめてくださーい!」

「そうだ。このまま」

「なっ!」


 アビーの手がリリィのお尻に伸びてきて揉み始めた。


「うん、リリィの尻は柔らかいな。揉み心地も」

「いい加減に・・・・して!!!」

「ごほっ!!お・・・お・・・お・・・」


 リリィは耐えられなくなりアビーの急所に膝蹴りをお見舞いした。アビーはその場に崩れ落ちた。


「ふん!今日は夕飯抜きですからね!」


 リリィはそう言って倉庫の整理をするために下へ降りていった。


「そ・・・そん・・な」


 アビーは声も出せずにその場で蹲り続けた。



 --------------------------



「そんなことがあったのか」

「はい、報告書には書いておりませんが」

「いや、セレナの配慮は正しい」

「ありがとうございます」


 セレナは今日の顛末をロイスに直に話していた。


 場所は第1部隊の部屋ではなく、闘技場まで来ていた。ここなら人に話を聞かれずに済むからだ。


「それにしても耳を疑う話ばかりだね」


 ロイスは苦笑した。それも当然だろう。成功例がない三属性の複合魔法に治癒魔法だ。これだけを聞くとリリィに少しも魔法で勝てる気がしなくなるロイスだった。


「私も今日は驚きました。ですが、あの場にリリィちゃんがいなかったら私は今ここにいませんでした」

「そういう意味では本当にリリィには感謝だな。セレナにいなくなられては僕も困るからね」

「隊長、ご冗談を」

「冗談じゃないけどね。でもリリィをこれ以上巻き込むのは危ないかもしれない」

「危ない・・・ですか?」

「まぁ・・・保護者の方がね」

「保護者と言うとアビーという方ですか?」

「まぁね。奴がこのことに関しては煩いから」


 ロイスは肩を竦めて言った。


「・・・・・・あいつも吹っ切れてないんだよな」

「何か言いました?」

「いや、何でもないよ。じゃあ戻ろうか」

「わかりました」


 二人は密談が終わり、ハンター協会に戻っていった。



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「う~・・・頭痛い」


 翌朝、慣れない戦闘に疲れが出てしまったのか、風を引いてしまった。ふらふらしながら着替えるリリィ。まだ時刻は陽が昇り始めたばっかりの時間だ。もちろんアビーはまだ寝ている。


「朝食だけでも作らないと」


 リリィは1階まで下りて台所に向かう。


「火の魔石は・・・あれ?どこだっけ?」


 頭痛が酷く思考が上手く出来ない。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・少し休もう」


 リリィは近くにあった椅子に座ろうとする。


「あ・・・れ?」


 そこで意識は途切れてしまう。


 ガタン!


 リリィは椅子に座る前に気を失い、床に倒れてしまうのだった。



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「お?目覚めたか?」


 リリィが目を開けるとアビーの顔が見えた。


「えっと・・・アビーさん?」

「ああ、そうだ」


 リリィは身体を起こそうとするが、身体がだるく上手く起き上がれない。


「リリィ、寝とけって。お前は台所でぶっ倒れたんだぞ」

「あ・・・」


 リリィは今朝のことを思い出した。


「驚いたぜ。朝早くに変な音がしたと思って下りてみりゃ、お前が倒れてんだからよ」


 アビーはあの後、リリィが倒れた音で目が覚めた。嫌な予感がして階段を下りて台所を覗いたらリリィが倒れていたのだ。


「それからお前を部屋まで運んで、寝かしたんだからな」

「あ、ありがとうどざいます」


 リリィは少し恥ずかしくなり布団で顔を半分隠した。


「店の方は今日は休むことにする。お前に何かあったらいけねぇからな」

「ごめんなさい」


 店を開けられないと聞きシュンとなってしまうリリィ。


「別にいいんだよ、店なんて。だから今は寝とけって」

「うん」

「何かあったら呼べ、下にいるからよ」

「うん」


 リリィは眠りに就いた。



 --------------------------



 アビーはリリィの額に濡れタオルを置き、1階に下りた。


「あいつが風邪ひくなんて何年振りだ?」


 アビーの記憶だとリリィが来たばっかりの時に一回だけ寝込んだことがあるぐらいで、それ以外の記憶はなかった。


「ったく、最近は色々あったしな。無理はさせられねぇもんな」


 アビーは台所に入る。


「さて、簡単な物でも作ってやるか」


 アビーは不慣れな料理を始めるのだった。



 --------------------------



「う・・ん」


 リリィが目を覚ましたのは昼過ぎの時間だった。何かいい匂いがしたのだ。


 コンコン


「リリィ、起きてるか?」


 扉の向こうからアビーの声が聞こえてきた。


「うん、起きてる」

「入るぞ」


 アビーは一言断ってから入ってきた。


「アビーさん、どうしたの?断って入って来るなんてらしくないよ?」

「さすがに病人に無理はさせねぇよ。それより、ほら。できる限り薄めで作ったんだ。食欲があるなら食え」


 アビーは適当に机をベッドの横に持っていきスープとパンを置いた。


「これアビーさんが作ったの?」

「ああ、まぁ、何か食べねぇと治るもんも治らねぇしな」


 アビーは少し照れながら言った。


 リリィはスープを飲んだ。


「おいしい・・・」

「そいつはよかった」

「本当に・・・おいしい」


 リリィは少し泣きそうになりながらスープを飲んだ。


「お、おい!どうした?やっぱりまずかったのか?」


 アビーは突然泣き出しそうになったリリィに戸惑った。


「ううん、おいしいよ。なんか嬉しくなっちゃって」

「嬉しい?」

「うん、こんなにも暖かいスープを作ってくれる人が私にもいると思ったら」


 リリィは孤児だ。昨日のアビーの抱擁といい、今のこのスープといい、家族の暖かさというのはアビーからしかもらったことがない。そのことを強く感じた今、自然と涙が出てきてしまったのだ。


「こんなスープでよければまた作ってやるよ」

「うん」


 アビーが見守る中、リリィはゆっくりとスープとパンを食べるのだった。



「ご馳走さまでした」

「おう、お粗末さん。他に何かしてほしいことあるか?」

「・・・汗で気持ち悪いから汗拭きたい」

「わかった。今、水とタオルを持ってきてやる」


 アビーは食べ終わった食器を持って部屋を出ていった。



「入るぞ」


 アビーは一言掛けてから部屋に入ってきた。


「ほら、ここおいとくぞ」

「ありがとう」


 アビーは先程の机に水の入った桶とタオルを置いた。


「俺は扉の前にいるから、何かあったら呼べ」


 アビーはそのまま部屋を出ていこうとする。


「え、行っちゃうの?」

「は?当たり前だろ。服を脱がなきゃ身体を拭けねぇだろ」


 アビーはそう思い部屋を出ていこうとしたのだが


「・・・着替えを出してもらっていい?」

「あ、ああ、そうだよな。着替えも必要か」


 アビーは思い出したように、リリィの洋服タンスの前に行く。


「えーっと・・・」


 アビーはどこに何の服が入っているかわからず動きを止めてしまう。


「上から二段目に寝間着、入ってる」

「あ、ああ・・・」


 リリィからの助言でアビーはタンスを開ける。そして、その隣にリリィのパンツもしまい込まれていた。


「後・・・隣のパンツもお願い」

「わ、わかった」


 アビーは寝間着とパンツを適当に取り出してタンスを閉めた。


「ほらよ」

「ありがとう、じゃあ・・・拭いて?」

「は、はぁ!?」


 アビーはリリィの言葉に驚愕してしまう。


「背中、届かない」

「ああ、なるほどな。背中な」


 アビーはリリィの言葉で納得した。


 リリィはアビーに背を向けて服を脱ぎ出す。


「その、お願い・・・します」

「あ、ああ、わかった」


 アビーはタオルを濡らし絞る。それからリリィの背中を拭き始めた。


「ん。冷たい」

「少しは我慢しろ。にしてもお前の背中小さいな」


 アビーは変な気を起こさないように、一心不乱に背中を拭いた。



 アビーは背中が拭き終わり、次こそ部屋を出ようとしたのだが


「足のほうも」

「・・・・あいよ」


 アビーは諦めてリリィに付き合うことにした。


 リリィはスカートを脱ぎ、パンツ一枚の姿になる。上半身は布団を被っているので隠れてはいた。


「・・・その、お願いします」


 リリィは足だけを布団から出した。


「・・・・・・」


 その際にリリィの水色のパンツが見えていた。いつもなら慌てて隠すのに、今日は隠すことなく晒け出していた。


「ほら、拭くぞ」


 アビーは出来るだけ見ないようにしてリリィの足を拭き始めた。リリィの顔はそれがわかっているのか、風邪なのかはわからないが、真っ赤になっていたのだった。


「足の裏はくすぐったい」

「我慢しろ」


 アビーはリリィの考えている事がわからなかった。だが、こうやって気を許して、頼ってくれることは凄く嬉しく感じていた。



「ほら、終わったぞ」

「うん、ありがとう」


 後は身体の前を拭いて着替えるだけだ。流石にこれ以上ここに留まるわけにもいかない。


「じゃあ、終わったら机の上に全部置いとけ。後で取りに来るから」

「わかった」

「着替えたら寝るんだぞ」

「うん」


 アビーはそう言い残し、部屋を出ていった。



「身体を拭かないと」


 リリィは濡れタオルで身体を拭き始める。届きづらい場所はアビーが拭いてくれたので問題はない。


 身体を拭き終わったリリィは下着を変え、寝間着に着替える。そして、脱いだ服を机に置いてベッドに身体を預けた。


「アビーさん、見ないように頑張ってたなぁ」


 リリィはアビーがリリィの身体やパンツを見ないように頑張っていたことはわかっていた。


「いつもは見てこようとするのに変なの」


 だが、それがアビーの優しさなのかもしれないと思うと笑みがこぼれた。


「・・・寝よう」


 あまり考えすぎると眠れなそうなので、リリィは考えを中断し、眠りに就いたのだ。



 --------------------------



 リリィは陽が落ちた頃に再度目を覚ました。アビーはリリィのベッドの近くの椅子で寝込んでいた。


「・・・アビーさん」

「ん、リリィか」


 リリィがアビーの名前を呼ぶとすぐに目を覚ました。


「わりぃ、ちと寝てた。リリィは風邪は大丈夫か?」

「うん、少し楽になった。アビーさん、近くにいてくれたんだ」


 リリィはその事が嬉しかった。


「ま、何かあったら困るからな。それより飯は食えるか?」

「うん、少しなら」

「じゃあ、昼の時のスープ余ってるから温めてくるわ」

「お願いします」


 アビーは部屋を出ていった。


「ずっとここにいたのかな」


 リリィはアビーが座っていた椅子に手を触れる。


「・・・暖かい」


 時間を忘れアビーの熱を感じていると、廊下から足音が聞こえてきた。リリィは慌てて手を布団の中へ戻す。


「ほら、持ってきたぞ」


 その後すぐに扉が開きアビーがスープを持って戻ってきた。


「ありがとう、いただきます」


 リリィはゆっくりとスープを飲み始めた。



 暫くして、リリィはスープを全て飲み終わった。


「ご馳走様でした。・・・ねぇ、アビーさん」

「なんだ?」

「少し話ししてもいい?」

「・・・少ししたらまた寝とくんだぞ」

「うん」


 アビーは片付けようといた食器を机に置き、リリィの近くの椅子に腰を下ろした。


「で、話って何話すんだ?」

「・・・前から気になっていたこと」

「気になってた?」

「うん。アビーさんは何で私をここに置いてくれたの?」

「っ!そいつは・・・」


 アビーは少し驚いた顔をした後、暗い顔になる。


「アビーさんの性格は何となくわかってるつもり。もう6年も一緒に暮らしてるんだもん」

「・・・・・・」

「でも、だからこそアビーさんが私をここに置いてくれた理由が分からないの」


 リリィが知るアビーはかなりの怠け者だ。今のリリィぐらいの年の子ならある程度常識もあるし、自分が怠けるために店に置くのはわかる。しかし、リリィはまだ8歳の時にアビーにここに置いてもらっている。孤児だったので、最初の頃は手伝いらしい手伝いも出来なくて、アビーに何度も迷惑を掛けたのをリリィは覚えている。それでもアビーは怒ることもなくずっとここに置いてくれたのだ。今思うとそれが不思議でしょうがなかった。


「・・・笑わずに聞いてくれんなら話す」


 アビーはそっぽを向きながら呟いた。


「わかった。笑わない」


 アビーは自分の灰色の髪の毛をわしゃわしゃと掻いてから話し始めた。


「お前が似てんだよ!その・・・俺の幼馴染に・・・・初恋の人に」

「・・・え?」


 リリィは驚いて目を見開いた。


「幼馴染ってロイスさん?」

「なんで俺があいつに恋をしなきゃなんねーだ!」


 リリィは幼馴染と聞きロイスのことしか出て来なかった。


「俺の幼馴染はあいつの他にもう一人いたんだよ!」

「・・・いた?」

「ああ、10年前ぐらいに死んじまったがな。魔物に殺されて」

「っ!?」


 リリィは予想はしていたのにアビーの口から直接聞いてしまうと驚きが隠せなかった。


「いや、俺が弱くて守れなかったんだ。あいつは俺を助けようとして・・・」


 アビーの顔は泣きそうな顔をしていた。


「・・・アビーさん、ありがとうございます。つらいことを聞いてすみませんでした」


 リリィは封印していたであろうアビーの記憶を表に出してしまったことを悪いと思ってしまった。


「いや、いいんだ。そうだよな。いつもぐーたらしている俺が何も出来ないガキを助けて、そのまま一緒に暮らしちまうんだもんな。不思議に思うのはしょうがねぇ」


 アビーはリリィの頭を撫でて来た。


「アビーさん?」

「お前はあいつじゃないというのは分かっている。だが、俺は大事なもんは次こそ守り通す。だからリリィ、何かあったら俺に何でも言っていいんだ。俺はどんなお前になったって味方でいてやる。守ってやる」


 アビーは真剣な顔でそう言ってきた。リリィはそれが愛の告白のように思えて顔を赤くてしまう。


「ア、アビーさん、私は・・・その」

「ん?どした?顔を赤くして」

「その・・・今の言葉・・愛の告白に聞こえてしまって」

「はっ!?・・・・た、確かに」


 アビーも驚いたが思い返すとそう聞こえてしまう。


「ならいっそのこと結婚しちまうか?」

「ふぇ!?」


 更にリリィの顔は真っ赤になる。すでに首まで真っ赤だ。


「ははは、冗談だ。ま、お前がもう少し成長して美人になったら考えてやるよ」

「・・・もう、アビーさんは」


 アビーのその言葉は大きくなったら結婚しようと言っているのと同じような意味に取れた。リリィはそれは案外悪くない未来なのかもと思うのだった。


「ほら、そろそろ寝とけ。風邪治んねぇぞ」

「うん」


 リリィはそのまま眠りに就いたのだった。




「ったく、慣れないことをすると疲れんな」


 アビーはそう言って食器を持ち、リリィの部屋を出て扉を閉めた。


「・・・絶対守ってやるからな」


「・・・うん」


 部屋の前で呟いた言葉にリリィの返事が聞こえたような気がしたアビーであった。



 --------------------------



 翌日、アビーは昼近くに起床した。前日は慣れないことをして疲れが溜まってしまったようだ。


「アビーさん!おはようございます!」


 アビーは1階に下りたらリリィの元気の良い挨拶が聞こえてきた。リリィはすでに店を開いて、店番をしていた。


「おう、おはようさん。風邪はもういいのか?」

「はい!アビーさんのおかげで元気になりました!」


 リリィは両手をぐっと腕の前に持ってきて言った。


「そうか。そいつはよかった」


 アビーはリリィの近くに行き、頭をわしゃわしゃと撫でた。


「あ!髪がくしゃくしゃになっちゃうじゃないですか!」


 リリィはアビーの手を跳ね除けて髪を直し始める。


「あははは、やっぱお前はこうじゃなきゃな!ほれ!」


 アビーは頭に手をやっているリリィのスカートを捲った。


「きゃー!スカート捲らないでください!!」


 アビーはリリィの白いパンツを見た。


「もう!アビーさん!!」

「あははは!!」


 アビーはリリィとの当たり前のような、こんな日々が長く続けばいいと思うのだった。

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