第10話魔王軍の侵入

第六界


今回の指令

「勇者コワイから殺してきて」




「一応、都に来た目的を聞いておこうか。」

別に特別な質問をしたわけではない。東ノ宮の門番として当たり前の業務であり、都入りしてくる人物一人一人に目的を聞いていた。ただ門番の男は目の前に立っている男に対しては他の者達以上の警戒心を持って質問した。確かに見た目は軽装でどこにでもいそうな銀の額縁の眼鏡をかけた若い優男だが一目見た時その顔の奥にどこか異常な気配を感じたからだ。しかし男はそんな警戒をしても無駄だと言わんばかりに優しく、ゆったりとした声で受け答えをしてきた。

「旅行です。」

「・・・旅行?」

「はい。んー、あとそうですねぇ。美味しい食べ物も目的です。好きなんですよ、ソースカツ。」

「・・・なるほどねぇ・・・。」

門番も最初は警戒していたがそのやんわりとした声と受け答えにあの気配は気のせいだったのかと思わずにはいられなくなり次第に警戒の糸が解けていった。

「・・・良し、通れ。・・・次の人!」

門番から解放され、男は町の中に入ろうとしたがすぐに立ち止り門番に向き直った。

「門番さん。申し訳ありません。召喚の儀はすでに終わってしまったのでしょうか。」

召喚の儀は東の宮の神官が勇者達と共にナミ神から神の使いを呼び寄せる神聖な儀式でその光景はとても神秘的だと有名で地方から見物に来る者もとても多かった。

「ラッキーだなあんた。さっき勇者様が全員都入りしたらしいから急遽、今日執り行うそうだよ。」

笑顔で返答してきた門番に男は何かに安心したように胸を撫で下ろした。そして感謝の礼を述べてその場を後にした。

「よかったぁ。・・・なんとか間に合ったみたいですね。」

灰色の石造りで出来た長い門を潜り抜け、男は中心街に続く通りの脇に設置されているベンチに座った。そして入口で貰った東ノ宮の城下町が載っている地図を一通り見た後、左手に着けた古臭い革の腕時計を見た。昼はすでに過ぎてしまっているが未だ飲食店は賑わっているように見えた。

「いやぁお腹が空きましたね。まずご飯にしましょうか皆さん。」

男は姿の見えない何かに語りかけるように呟くと、ゆっくりと人が賑わっている中心街に向かって歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る