英雄の異世界戦記〜敵を使役する異端な存在〜

旅ガラス

第1話 平和な世界

 勇和暦15年。


 歴史学を研究している私は、約15年前まで続いていた人類と魔王の戦いについて調べていた。


 今からおよそ150年ほど前、突如として魔族と呼ばれるもの達が現れる。

 主軸となっていたのは15人の魔王。

 魔王達はそれぞれ"使徒"、"上級魔人"、"中級魔人"、"下級魔人"、"魔者"を率い、人間が住む村や国を蹂躙。


 それと同時に魔物と呼ばれる生物も世界に溢れだした。


 それからは人類と魔族による戦争に明け暮れる地獄のような日々。

 魔族も我々と同様に魔法が使えることができたが、その威力は人類の比ではなかった。

 身体能力、魔力、全てにおいて魔族は人類の上位互換に位置していた。


 結果、一つ、また一つと滅ぼされていく国や村。


 徐々に領土を失っていく人類は、近隣の大国同士が連合国として軍を組織し、魔族を退ける、とまではいかなくとも食い止めることに成功した。


 さらに民間から討伐隊の募集をかけ、それが現在にも存在する討伐ギルドの原型とされている。


 さらに、魔族を食い止めることができた大きな要因は、文献によると魔族側にあったようだ。


 それは…………15人の魔王は協力をしない。


 同時期に現れた魔王達だが、各々自分達の国を作り上げ、誰かに統率されて動いているといった様子はなかったようだ。

 仲違いしていたという話もないため、それぞれが自由に生きていたということだろう。


 なにはともあれ、人間側は攻め込まれながらも耐え凌ぐ日々が続く。


 そして魔王達が現れてから実に100年。


 ついに人間側は反撃に出る。


 勇者と呼ばれる人間の登場である。

 勇者はその左目に【勇者の証】と呼ばれる刻印が入っており、魔法とは違う特殊能力を使うことができたとされる。


 史実では初代勇者の能力は有名であり、様々な文献にも記されている。

『魔法の打ち消し』


 これが初代勇者の特殊能力だった。


 初代勇者は仲間を集め、魔王の1人と対峙。

 死闘の末、相打ちとなった。

 15人の魔王が現れてから100年目にして初めて人類が反撃した瞬間である。


 しかしながら、魔王を1人倒しても残りは14人。

 対してこちらは人類のただ1人の希望。

 その希望を失ってしまった人類の絶望感は想像するに難しくはないだろう。


 だが、初代が死んでから再び希望は現れる。

 さらに25年後、2代目勇者が現れる。

 初代と同じく左目に【勇者の証】を宿し、魔王討伐を掲げる。

 残念ながら、2代目勇者の能力についてはどこの資料にも記録されていなかかったため、私は知ることができなかった。


 そして2代目勇者も1人の魔王の元へと辿り着き、見事魔王を撃破。

 しかし、2代目勇者はその後行方不明に。

 勇者の仲間達も生死が分からなくなってしまった。


 2代目勇者が行方不明になってから18年後、3代目勇者が現れる。


 戦争が終結する5年前。


 今迄で戦争期間が最も短い5年間が、歴史学では最も長く、濃い歴史となっている。

 なぜならばその5年間で3代目勇者により、残りの13人の魔王は打ち倒されてしまったからだ。

 3代目は童話の主人公になったり、噺屋はなしやの語る王道話として現在でも数多くの伝説を残している。


 余りに語ることが多すぎて、ここでは話しきれないほどだ。


 そして、3人の勇者の功績が大きいとされ、戦争が終わったあとの年号を勇和暦と制定されることとなる。


 人魔戦争の大雑把な戦争の流れはこんなものである。

 ここまでは子供向けの教科書にも載っている。


 しかし私は、この人魔戦争について書かれている奇妙な一冊の文献を見つける。

 書き出しはこのようにして始まっていた。


『勇者ではなく英雄と呼ばれた少年』


 今まで数多くの文献、資料、記録を読み漁ってきたが、英雄などと呼ばれた人物がいるなど聞いたこともなかった。


 ましてやこの文献にも、その少年がどの様な人物なのか、一体何をしたのかは詳しく記載されてはいなかった。

 ただその少年がどの国を周り、誰と出会ったのかのみ記載されている。

 文献というには余りにもお粗末で、とてもじゃないが誰かの空想話だと思われても仕方のない出来だ。


 だが私は何故か心惹かれた。


 その文献が初代勇者の生まれた国、シャンドラ王国で見つけたものだからだろうか。

 3代目勇者が13人の魔王を本当に倒したのかどうか疑問に思っているからだろうか。


 いや、違う。


 この文献の最後に記されている一文を読んだからだ。

 彼がどこに行き、何をしたのか。

 この文献に従って調べていけば恐らく紐解けるだろう。


 私は旅の支度をした。

 平和になったとはいえ、魔者や魔物はまだいる。


 最後の一文の意味を知るまでは死ねないだろう。

 家の扉を開けながら、私は文献に書かれている最後の一文を思い返す。





『あなたは実在した。例えあなたが行なった偉大な功績を世界が知らずとも、私達は知っている。だからあなたも忘れないで欲しい。私達と過ごした大切な時間を。 英雄ヤシロミナトへ送る』


 "シーラ・ライトナー"

 "ゼロ・レパルト"

 "アイラ"

 "シャルル・アラトリア"

 "3代目勇者グリム一同"

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