6. 女王の言い分

意外な救援

 ――ハサンは目を覚ました。辺りは明るかった。最初、何かおかしいぞと思った。何がだろう……と考えて、少ししてわかった。揺れていないのだ。地面はしっかりとしていて、揺れがない。ということはここは船の上ではなく、陸だ。そして自分はえっと……考えているうちに次第に頭がはっきりし始めた。そうだ、謎の島についたのだ。そして自分はその島の女王より歓待を受けたのだ。


 ハサンはむくりと起き上がった。粗末な、申し訳程度の布団に寝かされていた。そこは狭く殺風景な部屋だった。自分が最初通された部屋、それから女王と食事をした部屋とはずいぶん違うなあ……とハサンは思った。この落差は一体なんなのだろう。ひょっとして自分は女王を怒らせたりしたのかしらん。そういえば、昨日は、一人で先に眠ってしまったし……。


 ともかく立ち上がると、ハサンは部屋の外に出て行こうとした。しかし、すぐにそれが無理だと気づいた。扉が開かないのだ。どうやら鍵をかけられているようだ。ハサンはぐるりと室内を見渡した。他に扉はない。窓はある。小さな窓だ。近寄って外を見た。部屋は上階で、地面が遠い。ハサンは黙ってそこを離れた。


 ――おもむろにハサンの胸に不安が込み上げてきた。いつもは楽天的で、大いに呑気なハサンとしては、これは珍しいことだった。何故、自分は一人ぼっちでこんなところにいるのだろう、と思った。仲間たちが無性に懐かしかった。彼らの元に帰りたかった。彼らは……一体、今、何をしているのだろう。無事なのだろうか。


 意味もなく部屋をうろうろしていると、ふと、小さな物音を聞いた。音のした方向を探すと、一匹のネズミがいた。部屋の中をちょろちょろしている。ネズミは船の中にもよくおり、船においては招かれざる客であった。しかし今は何か生き物がいるということが嬉しい。ハサンはネズミに声をかけた。


「おまえはどこから来たんだい?」


 ネズミは立ち止まってハサンを見た。ハサンが壁を探していくと、ネズミの穴らしきものがあった。あれはどこに通じているのだろうか……外に通じていないかな。自分がネズミくらいの大きさだったらなあ! とハサンは思ったが、考えても仕方がないことではあった。


「――おれはここから出ていんだよ。みんなのところに行きたい。……って、おまえに言ってもどうしようもないことだけどねえ……」


 ネズミはじっとハサンの言葉を聞いていた。黒い小さな瞳が光って、まるで知性のある生き物のようだった。ネズミは唐突にひょいと立ち上がると、窓のほうを見た。その様子はハサンの言葉に応えるかのようであった。


「窓? 窓がどうかしたと……」


 ハサンは誘われるように窓のそばに寄った。そしてそこから外を見て――声もなく、目を見開いたのだった。




――――




 アジーズたちのところでも、もちろん、夜が明けていた。苦しい、眠れぬ夜を彼らは過ごした。床は固く冷たく、そして今後のことが心配で、全く熟睡できなかった。疲れの色を見せながら、彼らが起き上がり、そしてこれからのことを言葉少なに話し合ってるときだった。


 ターヒルはふと、何か声を聞いたような気がした。しかも聞きなれた声だ。「……おーい」とどこからかまた声が聞こえた。空耳ではない。それは窓の外から聞こえたようだった。窓の近くにいたハサンは立ち上がり、そこから外を見た。


 ――そこには信じられない光景が広がっていた。鳥がいる。それもただの鳥ではない。やたらと大きな鳥だ。それが何羽もいる。しかもその中の一羽に見慣れた人間が乗っている。呑気そうな、綺麗な顔。――ハサンだ!

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