合成獣

ラミージュの研究室。

それは城の中にあり、賢者の森にあるラミージュの部屋よりもごちゃごちゃとしている。

右を向けば怪しい薬、左を向けば何かの手や骸骨。真ん中には大鍋と正に魔女と呼べる様な部屋だった。

唯一違うのは、部屋全体が明るいことぐらいだろうか


そんなところに、俺とアルモは連れてこられた。理由は聞かされていない。

「さて、早速始めるとするかのう」

ラミージュは俺に近寄り。

「さあ、賢者殿からもらった知恵を使うのじゃ」

という無茶ぶりを振られる。

「使うって、どうやって?」

スマホの画面に浮かぶ3つのアプリを見る。

その内1つを開いたことならあるのだが、あまりの不思議現象に中断してしまったのだ。


「元の世界で使っていた様にじゃ。賢者殿の知識量を儂がそれに合う形に作り直したのじゃ、心配無用じゃ」

腕を組んでそういうラミージュ。そんなことまで出来るのかと感心する。

俺は、ラミージュの言葉に促され、赤いアプリを開く。

「うわっ!? 何ですかこれは!」

アルモは驚嘆していた。

今朝と同じように、画面から文字が浮かび上がり、文字は俺を囲む。


ちなみに、文字がラミージュの器具などにぶつかってもすり抜けてしまう。見た目こそ派手だがアプリの演出というだけらしい。

作った本人のセンスかも知れないが。

「で、どうすれば良い?」

ラミージュに尋ねる。彼女は人差し指を俺のスマホに指し示す。

「合成獣を調べるのじゃ」

俺は言われた通り、合成獣を検索する。

検索を押した瞬間、入力した合成獣という文字が実物の無い獣と代わり、周りを走り始める。

それも、一匹だけではない、スマホに住んでいたと言わんばかりにどんどん画面から獣が湧いてくる。


「何だよこれ!?」

「全て合成獣じゃ。儂の知らぬ奴もおるのう。やはり賢者殿の知識量には敵わん。じゃが、それだけ楽しみが残っているということじゃな」

ラミージュは高らかに笑う。

笑ってる場合なのか?

「流石ラミージュ様、一流なのに知識を求めるその探求心、アタシも見習わせてもらいます!」

アッハハハ、とアルモも笑う。

本当、凄く嬉しそうだな。


俺は、改めて合成獣の大群を見る。

大きな角や牙を持つ合成獣。鱗の鎧を持つ合成獣。タコの様な触手を持つものまでいた。

魔王が作り出した生物兵器。その名が伊達ではないことを確認した。

もちろんそれは驚異的な特徴もだが、驚くべきはその個体数だ。

「きりがないな」

獣達が俺を一周する度に新しい獣が出現する。


「火を吐く合成獣に絞る。小僧、頼んだぞ」

俺は再び入力する。すると獣の大半が消滅し、残った獣は火を吹き始める。

もちろん暑さは無い。

「うむ、30体もおるのか、特定しずらいのう」

と、ラミージュは面倒臭そうに溜め息を吐く。

「小僧、今度は雷を落とすものじゃ」

そんなことできるのか? と疑問に思いつつ入力。

2番目の単語は継続しつつ、その中から雷を落とす者だけが残る。

数は20体。

「やはり多いのう、魔王め、合成獣の作りすぎじゃ、おかげで面倒じゃのう」

イライラとしているラミージュは、その20体をじーっと観察する。

ふと、アルモを見れば。

「おおー、やはりお美しい! アタシもあんな風になりたいな~」

と、憧れと感動が彼女の瞳に反射して見えた。


「ふむ、ダメじゃ。やはり情報不足じゃのう」

ラミージュはついに観察を止めた。

仕方ないと思う。まさかこんなにいるとは俺も思わなかったのだから。

「ラミージュ、これからどうするんだ?」

「そうじゃのう……」

次の言葉を聞いて、彼女がどこまで本気か知ることとなった。

「本物を見に行くとするかのう」

「マイペースも程ほどにしとけよ!」

命を懸けたツッコミだった。

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