ジェントル・フロッグ

まいずみスミノフ

EP プロローグ

「これどうしたの?」とぼくがきいたら「ぎった」とかれはこたえました。『ギッタ』のいみはわかりませんが、たぶんよいことではないです。だって小学生はうんてんしてはダメだから。かれは『ケイトラ』でとなりにぼくをのせて、とても速いスピードで山をおります。いつじこがおきてもおかしくない! でもふしぎとあまりこわくありませんでした。

「にひひ。アイツら、いまごろ何してるかなあ」と、かれはオレンジ色のかおでわらいました。

 アイツらはさっきまで『にだい』にのっていましたが、今はお山の上においてけぼりです。

「…ねえ、なんでこんなことしたの?」「アイツら蛙を殺したんだ」「かえる…」「爆竹で。いやストローだったかな? とにかくおれは生き物を大切にしない奴は大嫌いなんだ」「…じゃあぼくをたすけたわけじゃないの?」「なんだお前いじめられたのか? だっせー」

 けっこうショックな自分にびっくりしました。彼はさらに続けます。

「確かにいじめはいじめる方が悪い。だが、だからといって何もしないのは愚の骨頂だ。お前の敗因は大きく分けて三つ。まず準備不足。武装しろ。逃げ場をつくれ。証拠を残せ。それが駄目なら二つ目、奇襲をかけろ。大勢を相手にするな。一人ずつ暗闇でうしろから殴れ。そして最終的に喧嘩でものをいうのは覚悟の違いだ。幸い連中は遊び半分、だからお前は殺す気で行け。ダイジョーブ。殴られても殺されやしないし、殺そうとしても死にやしない。人間ってのは案外頑丈なんだ」

 かれの言うことはむずかしくて、ちっともわかりませんでした。

「…むりだよ。ぼくはきみみたいに強くない。それに…なんかヒキョーだ」

「卑怯上等ご意見無用。じゃあいじめられっぱで良いのかよ? ま、おれは興味ねえから。下駄箱に堆肥とか給食に鶏糞とか鞄に肥溜めとかご自由にどうぞ。うんこばっかりだなお前!」

 キョーミがないくせに、とてもくわしい。

「ねえところで、あのダンボール箱はなんだったの?」

 かれはアイツらといっしょに、大きなコーラが六つ分ぐらいのダンボール箱をおろしました。

「コーラ」そのまんま。「が、箱を開けると吹き出すようになっている」

「ふーん。…で?」

「フフフ。いずれわかる…」

 ガシャーン! 

 その後、彼は軽トラを一台御釈迦にした。木に頭から突っ込んだのである。地面に放り出されたぼくたちは奇跡的に無傷だった。無性に笑いがこみ上げてきて二人で転げ回った。

 次の日、行方不明になった五人の子どもたちの代わりに、小汚い橙色のマシュマロマンが発見される。「UMAか!?」と小さな村をひととき賑わせたがそれはまた別のお話。

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