第3話 ナビリング『セリ』
僕に軍資金を渡した女神様は、
「うーん……やっぱり本格的な一眼レフほしいですね」
唐突なシャッター音が響く。
「最初はデジカメでも満足だったですけど、周りの女神が使ってるの見ると、どうしてもほしくなっちゃいます。ナイショで買っちゃおうかな……」
女神様はファインダー越しに新緑樹を見つめ、独り言を繰り返した。
「あの女神様?」
「カメ
カメ
「んんっ――では、勇者。軍資金の他に貴方にはもう一つ渡す物があるです」
「おお!」
女神様は僕に一つの指輪を手渡した。
「これは、婚約指輪ですか?」
「そんな訳ないのです」
僕はひどく落ち込み、地面に突っ伏した。
「いや、そんな落ち込まなくていいです……それに私、夫いるですし」
瞬間、僕の心に雷鳴が轟く。
「えっ? 女神様、人妻なんですか?」
「人妻というか、神妻ですね」
「いやいや、そんな言い方は
女神様はピースを決めながら銅メダルを噛んだ。
「
「だって、まさか人妻だったとは……皆がっかりですよ」
「それは貴方の偏った意見です。というか、皆って誰ですか」
僕は咄嗟に口笛を噴いて胡麻貸した。
「では、改めて。勇者、これを受け取ってください」
僕は人妻から受け取った指輪を左手の薬指にはめ。
直後に殴られた。
「これはナビリングと言う魔法道具を私が改良したものです」
「ナビリングですか?」
「ええ。自我を持つ指輪と言った方が良いですか?」
「自我を?」
そして、僕が指輪を右手の人差し指にハメた途端。
――あんっ。
と、何故か女性の艶っぽい美声が脳内で聞こえた。
「……どうかしたです?」
「イイエ? ナニモ?」
どうやら声は僕にしか聞こえないらしい。
僕は一度指輪を外し、それをまた指にハメたり、外したり、ハメ直したりした。
――あっ……くぅっ。
だが。
「やめるです! バカ!」
女神様は何かを察したようで、また僕を殴る。
「この指輪は決して、夜の寂しさを慰める玩具ではないです」
「おや? 女神様は寂しい夜の経験がおありですか?」
「目は覚めましたか?」
「はひ。そろそろ目覚めてしまいそうです」
――マスター。そう言った危ない発言は、これから私が内から修正して参りますので。
冗談を言った後で脳内にまた声が聞こえる。
「これは」
――もうお気づきでしょう? 私、ナビリングの声です。
僕が女神様の砲を見ると
――マスター。『砲』ではなく、『方』です。
女神様の方を見ると、彼女は満足げな表情をしていた。
「もしやこれ! 僕の誤字を未然に防いでくれる道具なのですか!」
思わず感動した!
これで僕もやっと、普通の異世界召喚勇者になれる!
しかし、女神様は。
「ええ、そうです! 一時的にですが!」
と、高らかに宣言した。
「Do you 琴?」
――『どういうこと?』ではないでしょうかマスター。ちなみにそれは私の誤字修正機能が常時発動できないと言うことです。基本は戦闘などの重要な場面での使用を心掛けてください。
「重要な場面……プロポーズの時とか?」
――もちろん構いませんが……それはご自分で考えた方がよろしいのでは?
「けど、君を頼ってもいいんでしょ?」
――もちろんです。
「OK。〇リ。検索。女神様へのプロポーズ」
――誰が〇リですか。
その後、僕はナビリングにセリという名をつけ、女神様に見送られながら足袋に
――『旅』です。
旅に出た。
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