色のない夢

多田七究

第一章 濃い黄色と桃色

第1話 濃い黄色と桃色

 鳥が飛んでいた。見渡す限り地平線が広がる。

 巨大な大陸をつらぬく線路が、北から南へ旅人を運ぶ。いくつも繋がる銀色の箱に乗せて。

 すこし離れた西には、同じ方向へ伸びる道路。

 周りは緑色で、あまり背の高くない植物が多い。高い日を浴びるトカゲを、鳥がとらえた。

 バスが走っている。舗装された広い道だというのに、ほかに自動車の姿は見えない。

 四角く長細い車体の中には、座席が並ぶ。後方に座る男女二人が口を開く。

「もうじき、始まる」

「ヤヨイたち元気かな?」

「もちろん。おれたちも身体を鍛えるか」

 細身の青年が笑った。淡い黄色の服で二十代後半。

「レオンはともかく、うちはサボりグセ治さないと」

 十代後半の女性は、腕をバツ印に組んで力を入れ始めた。美しい姿態を、薄い桃色の服が演出する。

 夏服に着替えるにはすこし早い。

「おれが二人分動けばいい。無理するなよ、エミリ」

「甘い言葉、禁止」

 二人は視線をすこし上に向けた。まばらに座るほかの乗客も、同じ場所を見ている。

 前方の映像出力用ディスプレイから告げられる、バトルの開始。

 ヤヨイ組の参加者は三人。カケル・スズネ・タクミ。

 リーダーの姿はない。


 円形のドーム内に、異質な空気が漂う。

 3対3のバトル。

 足元はクリーム色。チーム同士は、すこし離れた位置で睨み合っていた。

 ヤヨイ組の服はそれぞれ、緑色・黄色・青色。

 相手は全員、二十代の男性。服は、どどめ色。

「こちらから行こう」

 十代半ばで短髪の少年が、右手を構えた。光る細身の剣を出現させ、相手に近付いていく。

 ミドルヘアの少女がウインクする。つり目ぎみで十代後半。

「いいわよ」

「軽く遊んでやるか」

 たれ目ぎみの少年がニヤリと笑った。長身で十代後半。

 二人は、手のひらから光の弾を発射した。こぶし大の剛速球。

 先行した少年は身体を回転させ、弾の後ろを剣で叩いて加速させた。

 すぐさま次の弾も叩く。

 常人には不可能な芸当だ。

 相手の身体の前に、半球体の光の壁が現れた。ぶつかり消える弾。

 バトルを撮影する人たちは、すこしだけ驚いていた。

 流れ弾を気にする様子もなく、仕事をこなす。


「普通だ」

「弾、飛ばしたいな。うちも」

 放送される公式戦に、トップレベルの強者が参加することは少ない。

 待ち時間が長い。バトル時間は短い。バトルマニアを遠ざける理由はそれである。

 バスの中で、レオンとエミリは雑談していた。

「ヤヨイ組にとっては、いつもの基礎練習と同じか」

「だからヤヨイは参加しなかった、かな?」


 ロングヘアのヤヨイは、友人の家にいた。

 二人とも十代半ば。ボサボサ頭の友人と話す、赤い服の少女。嬉しそうに身体が揺れる。

 物がすくないヤヨイの部屋と違って、色であふれる華やかな空間。

 部屋の主、シララは散らかっていることを詫びた。


「友達と遊んでいるんじゃないか?」

「バトルのことしか、頭にないと思ってたよ」

「少しずつ変わるものさ。人間ってやつは」

 ざわつく乗客たちを乗せて、バスは走りつづける。

 すでにバトルは終わっていた。

 ヤヨイ組は特殊な能力を使わなかった。近接武器と通常弾のみ。

 詳しい者には、映像からでもレベルの違いを感じ取れる。

 能力バトルの浸透は世界中に及ぶ。そのため、気付かない者のほうが少なかった。

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