第11話:盃


「おい」


……!


ハッとなり顔を上げる。そこには忘れもしない酒神の姿があった。


…ああ


軽く項垂うなだれる。


僕、死んだのか…


「おい、はよ盃出せ」


胡座あぐらをかいて向き合う僕らの間には、盃が二つ。


僕、未成年ですから


死んでも体は10代のままだった。


「…あーー」


すると酒神は何を思ったか、酒壺さけつぼをひっくり返し、中身を全部捨てた。


「ほれ、盃出せ」


そしてなおも僕にしゃくをしようとする。

仕様しょうがなく、僕は盃を持って酒神に差し出す。


「はぁ〜、とくとくとく」


何もそそがれはしない。口で酒があるかのように演出しているだけだ。


「ほれ」


次は酒神が盃を持って、酒壺を僕に差し出す。


…はあ


こうなればやけだと、酒壺を取って酒神に酌をする。


はーい、とくとくとく


「とっとっとお、へへ、あふれるあふれる」


なかなかこだわるな


…あ、そういえばあんたに聞いて置きたかったことがあるんだ


「んあ? なんでい」


あんた情神とか闘神とか、酒神以外にも地位を持ってるのに、何で酒神を名乗ってんだ?

闘神の方が格好かっこいいじゃん


はっそんなことかと鼻で笑われた。


「誰かが出会い、幸せになる。めでてえ。酒がうめえ。

 破滅に勝って、生きてる、めでてえ。酒がうめえ。

 うまい酒が飲みてえから色々やってたら、こうなったんだよ、馬鹿野郎」


…うん、あんたは酒神だわ


「そんでこの盃よお」


これ?


「この数日間のお前の生き方、よかったぜ。

 お前を救ってよかった。実に酒がうまい!」


……


「ほーれ乾杯だーー!」


僕らはからさかずきかかい、ともあおぐ。


「っかあーー! うっめええ!」


……


盃は空なのに、酒をあおったかのように胸が熱かった。


ああ、そうか


「はらら〜、とくとくとく」


空の二杯目を自分で注ぐ酒神を見やる。


生き方を認められたのって、もしかしてこれが初めてかも…


「盃もわせたし、もう用はんだ。

 おら、さっさと行け」


…え?


「あの子を守ってやんな」


そういうと酒神は、盃を掲げてニカッと笑った。


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