16~20

 彼女は誰なんだ!?


 と、疑問を持つ前に、まずは胸を触った事について謝罪をしなくてはならない、子供と言えど難しいお年頃。


 出るとこに出られたらセクハラで掴まるかもしれん。


 そうなったら田舎の両親が悲しむ。


「あ、あのさ、悪気はなかったんだ。ほんと… その… ごめん…」


 誠意を込めて謝罪する。


「ううん、僕の方こそごめん。わざと… じゃないんだよね、急に大声出してごめんね」


 俺の誠意が籠った謝罪に対して、少女は頬を赤らめ、モジモジしながら自分にも非あがると言ってくれた。


 とんでもない、悪いのは全部俺さ、君が謝る必要なんてないんだぜ!


 とりあえずは許してもらえたみたいだ。


 ごめんねが2回もあったんだ。これなら訴えられることは無いだろう。


 ただ、気になった事がある。


 それは、胸が無かった事。


 もちろん本当に胸が無いわけじゃない、胸という部位は存在している。でも決して大きくはない、むしろ小さい、いや無乳である。過剰に反応するほど膨らんではいない。


 声を出して驚くには、まだそれなりの年数が必要ではないだろうか。


 …


 嘘、今のは無しでお願いします。



「さっきさ、俺の手が君の頭を、いや、体をすり抜けた気がしたんだけど、気のせいだよね?」


 俺が本当に気になったのはこれだ。


 現実的にはあり得ない事が起きたのだ。


 俺の気のせいかもしれないが、見間違いとも思えなかった。俺の手は確かに彼女の頭をすり抜け、胸の位置まで下がった。気がする…


 この事が事実なのかを確かめたい。


 だからと言って、その事を彼女に聞くのもどうかとは思うが、

 

 だってこれじゃあまるで、目の前の少女に君はお化けですか? と、聞いているようなものだ。


 それなのに、失礼な質問と分かりながらも、好奇心からつい目の前の少女にそう聞いてしまった。


 その失礼な質問に少女が答える。


「うん、すり抜けたよ?」


 すり抜けたらしい…


「あ、やっぱりすり抜けたんだ」


「うん、すり抜けた」


「へぇ~、すり抜けたんだ……」



 ……え?


「すり抜けた?! どうして! 何で!!」


「何でって言われてもな~」


 少女は少し考えた後、口を開きこう答えた。


「僕が幽霊だからかな?」と、


「ゆ、幽霊だって!?」


 俺の手が少女の体をすり抜けたのは気のせいではなかった。


 少女もまた、自分の事を幽霊だと言う。


「君、本当に幽霊なの?」


「うーん、やっぱり違うかも」


 どっちだ!?


 初めて見る幽霊……


 かもしれない少女に、俺はそれ程驚く事も、恐怖を感じる事も無かった。


 だって妙に明るいし、元気なんだもの、全くもって幽霊に見えないよ。


 幽霊ってさ、俺の中ではもっとこう暗くて、この世に未練タラタラで恨みを持った怖い存在ってイメージなんだけど、この子はそのイメージから大分かけ離れている。


 とてもじゃないけど、目の前にいる活発そうな女の子を怖がるなんて出来ない。

 

 幽霊かもしれないけど特に害はなさそうだ。仮に幽霊だとしても悪霊ではないだろう。

 

 それに普通に会話が出来る。


 俺が想像していた幽霊は、井戸から這い上がって来る様な、意思疎通の出来ないタイプ。


 現実の幽霊は貞〇とは違うのかもしれない。



「あのさ、知ってたら教えて欲しいんだけど、君、ここが何処だか分かる?」


 特に恐怖心は無い、相手が幽霊でも会話が出来るという事で、少女に此処が何処なのかを聞いてみた。


「ここ? ここは僕の部屋だよ」


「君の部屋!?」


 聞いといてなんだけど、正直幽霊という事でまともな返答は期待していなかった。


 これは偏見というものになるのだろうか?


 俺は心の中で「ごめんなさい」と謝った後、部屋の中を見回した。


 ここがこの子の部屋…


 とんでもなく広い… とても個室だなんて思えないぞ。


 俺のアパート(1k六畳)の10倍の広さはあるんじゃないか? 置いてある家具も高級そうな物ばかりだ。


 それになんだこのベット、屋根とカーテンが付いてる。もしかしてこれ、天蓋(てんがい)ベットってやつか?


 お姫様とかが使う……


 この子、とんでもないお金持ちのとこのお嬢様なのだろうか、表情や部屋を見ると何不自由なく暮らして来た感じがする。


 でも… 


 幽霊…なんだよな。


 可哀そうに、死んだ後も自分の部屋にいるってことは地縛霊なのかもしれない… 


 いや、それはそれとしてだな。そもそも何で俺はこの子の部屋のベットで寝てたんだ?

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