転生プリンセス 異世界で目を覚ましたらお姫様でした。

サガ

1~5

日本ボクシングタイトルマッチ、


25歳の青葉司(あおばつかさ)はチャレンジャーとしてチャンピオンに挑んだ。


前評判ではパワーのあるチャンピオンがやや有利


そのチャンピオンに対して司は持ち前のスピードでカバーし、チャンピオンのパンチを被弾しながらも直撃を回避しつつ、最終ラウンドまでコマを進めた。


途中結果の判定では、わずかに数ポイントチャンピオンが司を上回っていた


現時点でも恐らくそのポイント差には変化が見られないだろうとセコンドは司に告げる


「このラウンドが最後だ、勝つには倒すしかない、お前が今まで培ったもの全てを出し尽くして来い!」


この言葉を浴びせながら背中を叩き、司をセコンドがリングの中央に送り出す、


カーン!


最終ラウンドのゴングが鳴る


9ラウンドまでの足を使い、距離を取って戦うアウトボクシングを捨て


リング中央で足を止めチャンピオンを迎え撃つ


チャンピオンとの激しい打ち合い、


10ラウンドにして初めての足を止めての打ち合いに観客席は盛り上がる。


チャレンジャーである司は、過去の試合を見てもそれほど打たれ強くなはい、


高いKO率を誇るチャンピオンに対して、チャレンジャーの行動が無謀に映る観客もいる。 


それでも司は最後に打ち合いを選んだ。


何故なら、そのスタイルこそが司本来の戦い方だからである、


打たれ弱いと分かっていても、司はその戦い方で今まで突き進んできた。


それが彼のポリシーだから


しかし今回に限り、セコンドの指示に従い、


力強いチャンピオンとの試合だけは、距離を取り、外側から攻める戦い方を選んだ。


司にとっては望まない戦い方を、


しかし、今それが解除される。


全てを出し尽くす、足を止め本来のスタイルに戻し、残った体力の全てを拳に託したのだ。


チャンピオンが1発のパンチを打てば司は2発返す、


手数では上回ってはいても、それに憶すことなくチャンピオンの強烈な拳が司の体を捉える。


体が軋み、何度も膝を付きそうになる。


それでも司は倒れなかった、拳を止めなかった、


そして、


カーン!


最終ラウンド終了を知らせる鐘が鳴る。


KOこそ出来なかったが、高いKO率を誇るチャンピオンに対して、接近戦で手数を上回り3分間戦い抜いたのだ。


判定


勝敗は判定へと委ねられた。


10ラウンドを戦い終え、両者が自軍のセコンドへと戻る。


セコンドに担がれガッツポーズを取り、勝者をアピールするチャンピオン、


それに対して、司は自軍のセコンドに置いてある椅子に座り顔を伏せたままだった。


判定の結果を告げるべく、審判が両者をリング中央に呼ぶ


だが呼ばれて中央に”来れた”のはチャンピオンのみ


司が自身の耳で判定の結果を聞くことは無かった。




★★



 ボクシング日本タイトルマッチをチャレンジャーとして挑んだ青葉司は、最終ランドまで戦い抜くも、チャンピオンとの激しい打ち合いの中、その意識は失われていた。

 

 意識を失いながらもリングに足を着き、倒れる事なく戦う事が出来たのは、司がそれまで練習で築き上げた肉体と勝ちたいと思う強い意志によるものだろう。

 

 チャンピオンとチャレンジャー、両者は倒れることなく最終ラウンドの終わりを迎えた。


 しかし、司が判定結果を自分の耳で聞く事も、自分の足でリングを降りる事も無かった。


 司は、意識がないままリングを後にしたのだ。


 そして、司が次に意識を取り戻した先は、見知らぬ部屋のベットの上だった。


(ここは?)


 司が目覚めてまず目にしたものは,、自身の記憶にない天井。


 虚ろな意識の中、自分が何故ここにいるのかを考える。


 自身にある最後の記憶を思い出す。


 チャンピオンとの死闘


 そして、結果の分からない勝敗


(そうか… 俺… 負けたのか…)  


 実際、司は最終ラウンドまで戦い抜き、勝負を判定結果という形まで持っていく事ができた。


 だが、司には最後までリングに立っていたという記憶は無く、途中でチャンピオンに倒されたと考え着くのは自然な事だった。


(一からやり直しだな。もう一度、あの場所を目指そう)


 ベットから体を起こし、目の前の軽く握った拳を見つめながらそう誓う。


(ん?)


 その時、司は自身の視線にある拳を見て違和感を感じた。


(小さい……)


 司が見つめる自身の手は、それまでボクサーとして鍛え上げた物と違い、小さく、そして酷く頼りない物だった。

 

 握った手を緩め、今度は力を込めて再度握る。


(力が入らない…)


 ボクサーである司の手は、調子の悪い時でも握力は最低60キロはあった。

 

 ところが、目の前にあるその手は、本来彼が持っている握力の半分もあるかどうかという微妙なものだった。


(ええ! どういう事、俺の手、なんかめちゃくちゃ弱ってるんですけど! 

 

 こんなんじゃ戦えない、相手を倒すどころかダメージだって与えられるかどうか、下手したら逆に俺の手の骨が折れるんじゃないか? 

 

 もしかして俺… かなり長い間寝たきりの状態だったんじゃ……)


 司は、自身の体がこれまで長い間昏睡状態だったのではと考えたのだが、目の前にある小さな手を見てすぐにその考えを捨てた。


(いや、これ、衰えたとかじゃないよな?)


 拳(こぶし)を緩め、指を開き、手首を反転させ手の平と甲を交互に見る。


(なんか、すごく綺麗で若々しいんだけど……)


 今までボクシングを含め、25年間共にしてきたはずの司の手は、細く華奢ではあるが、とてもなめらかな潤いを持つ綺麗な手へと変わっていた。


 その変化は、とても衰えによるものとは思えなかった。


 むしろ、若返ったとさえ感じさせる。

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