あした

マフユフミ

第1話 はじまりの頃

あの頃、世界は灰色に覆われていた。

どんなにまぶしい夏の日も、どんなに冷たい雪の日も、僕たちの世界はただ灰色で、暗くもあり明るくもある、重くもあり軽くもある、そんな宙ぶらりんの空気の中だけが僕たちの真実だった。

きしむベッド、重く湿った布団、薄暗い蛍光灯。

灰色を思い出すとき連鎖的に浮かぶイメージ。

清潔なはずのその空間は常に消毒液のにおいがして、聞こえるのはカチャカチャとぶつかる金属の音と電子音。

その中で僕たちは、ひっそりと周りの空気をうかがっていた。

まるでそこにいないかのように。

いつか消えてなくなってしまう存在として、ひたすら影を潜めて。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る