トルムアスタ 転成のデル

TAMA-CHAN

1st SEASON

EP.01 結シN

EP.01 結シN: A-part <モ戯sin>

 塔歴とうれき五百十七年、トルムにて——


 模擬戦だから「手を抜いていい」なんて誰が言った?

 廃墟を模したステージに二つの翼が舞う。

 青年は、敵にあぶり出されて苦戦を強いられていた。

 その様子はまるでかごに拘束された鳥のよう。


 そして、正面に一筋の光が輝く。

 蒼き光線は、自分をつらぬき通さんと迫り来る。


 ——やらせるかよ。


 金髪の青年は、舌打ちしながら乗機を宙に浮かせた。

 自分が相手に丸裸なら、正面から立ち向かえば良い。そう思ったのだ。


「上から見つけてやる!」


 絶え間なく続く光線の襲撃は、一線、一線、またもう一線と続く。

 右へ左へ、上へ下へ。

 斜め右上へ、斜め左上へ。

 斜め右下へ、斜め左下へ。

 前へ後ろへ。

 空中飛行は広範囲の空間を移動をできる。その利点を生かして、考え得る全ての挙動を組み合わせる。

 押されたり押し返したり、その繰り返しだ。


 <おっとぉ〜、デル・アドバンテージ、見事な回避行動です! 粒子をなるべく使わない……高得点を獲得できる動き、良い判断ですぞぉ‼︎>


 アナウンスに「デル」と呼ばれた青年——デル・アドバンテージは呼吸を乱す。


「通信、切っておけば良かった」


 憶測でものを言い、それを誇張こちょうするアナウンスは、デルにとって怒りの引き金そのものでしかなかった。

 まるで週刊誌のように痛いところを突いてくる。大抵、それは他人——観客の笑いのかてだ。

 彼らはいつも余計なのだ、と。


 ——うるせえな。


 口を歪ませ、操縦桿を前に押し出した。


「俺だって、できるんだよ! 見ていろ‼︎」


 急発進して敵機に接近する。

 そして、手に持っていたアサルトビームライフルを構えて撃つ。


「どこだ、どこにいる⁉︎」


 敵機は建物の陰に隠れている。数分前のデル機と同じだ。

 それをおびき出すため、建物の角に撃ち込んでいく。

 先ほど敵にやられたことをやり返す。

 幸いなことに、粒子残量はまだ多い。

 溶けていく建物の壁面から、黒い影が見えた。


「そこかあ‼︎」


 そこに集中して連射する。

 飛び出してくる黒い機体。自分が乗るのと同じ機体。独特な鋭利なラインが特徴の人型機動兵器アイリス。

 その最新量産機「ジーニア」のブラックカラーモデルだ。


 ——アレを倒す。


 言い聞かせるように呟いて——

 ライフルを投げ捨てて、サイドスカートから剣を取り出す。

 の先、ガードから青い光が飛び出した。ビームソードの登場だ。

 それを構えて、急発進・急降下しながら斬りかかる。


 しかし、そこに通信が入った。

 相手、目の前の敵機からだ。


『おい、。なに調子乗ってんだ? ええ‼︎』


 その言葉は、デルの苛立ちを強めた。


「ジェームズ。負けそうな奴が何を言っているのやら。笑えるな」


 相手のすぐ頭上まで近づいた好機を逃さず、剣を振り下ろす。


「さっさと……死ねよォ‼︎」

『ハッ、そんな攻撃でやられるとでもぉ?』


 ジェームズ機の急後退により、攻撃は失敗。


 ——ちっ。


 勢いで再び地に足を付けたデル機は、すぐに体勢を正す。

 そして、ジェームズ機めがけて突進。

 剣と剣のぶつかり合いが始まった。

 それは、駆け引きの開始でもある。


『模擬戦ならアイリスを動かせるってか⁉︎ からと‼︎』

「黙れ! 貴様はいつもいつも、俺を愚弄しやがって‼︎」

『だって本当のことだろう? 俺はお前に現実を教えてやってんだ!』

「現実ねぇ……なら、今押されてるのも現実。俺は……貴様より強い‼︎」

『ふざけるな、パナセルの加護を持たないに負けるなどぉ‼︎』


 一瞬の沈黙——


「出来損ない……ね」


 ジェームズの言葉は、デルの抑えていた怒りを爆発させるに十分だった。


「うるせえんだよ」


 ジェームズが剣を上げた瞬間に、どうしても生まれる隙。

 そこを狙って、デル機は急前進。

 機体を体当たりさせる。

 目先の塊が吹き飛ばされたところで、更に機体を前進。

 塊——ジェームズ機は機体の立て直しに手間取っているので反抗できない。

 デルは一瞬たりとも躊躇せず、それの腹部に剣を刺し通す。


「言っただろ。俺は、お前より強い」


 <勝者、デル・アドバンテージ‼︎ 信じられません。実機を起動できない彼が、使模擬戦で勝ちましたあ‼︎>


 対戦が終わって、アナウンスが続いていることに気がついた。


「シミュレーター、ね……」


 声に出しながら、苦笑いする。



 デル・アドバンテージはアイリスを

 つまり、実機を動かせない。


 それゆえ、「出来損ない」と呼ばれるのだ。


 ジェームズの言葉がデルの脳内で木霊こだまする。

 同時に、今日まで笑われ、見下され、罵倒されてきた記憶も脳裏をよぎった。


 ——出来損ないに負けるなどぉ‼︎


 ——出来損ないに負けるなどぉ


 ——出来損ないに負けるなど


 ——出来損ないに負ける


 ——出来損ない


 ——出来損ないなんて


 ——出来損ない!


 ——この役立たず‼︎


「クソ野郎‼︎」


 シミュレーターの操縦桿を叩く。

 全てが腹立たしい。憎たらしい。

 何も出来ない自分も、自分を罵倒する奴らも、嘲笑する奴らも、全てが。

 顔を覆う指の隙間からは、灰色の画面が垣間かいま見える。

 全てが真っ暗。

 青年は、それを睨みつけた。






 ——出来損ないは、もう嫌だ。






 それが、青年の切なる思いだった。

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