幕間 もしもアルが小さな巨神兵の「作ろう!彼ごはん」を読んだら
「ファスト!君のためにご飯を作ったんだ!食べてよ!」
アルが満面の笑みで俺の顔を覗き込んでくる。
男ならだれもが憧れるであろう、「彼女飯」というシチュエーション。食事をとるのが嫌いであるという者でも「彼女飯」に対しては高揚を隠しきれない。少なくとも普通の「飯」と、女(ただし恋愛対象のみ)の作った「彼女飯」では対応に差が出るはずだ。たとえそれが冷凍食品であろうと、女性が作るとなぜかテンションが上がる。
つまり男とはとてもあわれな生き物なのだ。いとあわれなり、なのだ。
1952年、ドイツの天才科学者カノジョイナイレ・キイコール・ネンレイは、「彼女飯」を前にした人間の雄の脳内では、一時的に大量のアドレナリンが放出され興奮状態に陥る、ということを確かめることに成功した。この反応は、ネンレイの出身地にちなんで、ドウテイ反応と名付けられた。(大嘘)
なお、このドウテイ反応は男なら誰しもが必ず持っている哀しき反応である、ということが最近の研究で明らかとなっている。
この反応があるゆえに、飯作ったよえっマジお前ってもしかして俺のこと好きなのか何言ってんのカン違いキモ死ね、という会話が全世界でなされているのである。
しかし小説内において、それはしばしば別のベクトルへと変貌を遂げることがある。
つまるところ、メシマズである。
料理下手萌え~、という方もいるであろう。というか、結構多いのではないのだろうか。それは多分、完璧なヒロインよりも苦手なものがあるヒロインの方が人間味が出てきて可愛いということなのだと思う。
しかし、それはあくまで自分が食べないときの話だ。
小説の中に出てくるような「
俺は、自身の目の前に置かれた皿を凝視する。
その皿に盛りつけられた料理――――ナポリタンモドキ(仮)――――の表面には、別段これといっておかしなところはない。
作りたてなのだろう、湯気がうっすらとたちのぼり、炒められた玉ねぎはあめ色に輝く。そしてなんといっても極めつけは、ほんのり香る、少し焦げたようなケチャップのにおいだ。若干水分が飛んだケチャップはとても美味しいと思います。おっと失敬、主観が入りまくってしまった。
このように、見た限りでは生命の危機を感じるような要素はどこにもなく、それどころかむしろおいしそうでさえある。
しかし――――だからこそ、俺は警戒する。
ラノベにおいて、表面が整った料理ほど怖いものはないのだ。
その仮面の下には全てを死に至らしめる猛毒が入っている、というパターンは多い。
おいしそうだね、手作りなの?じゃあいただきまぐぼぇあというシーンを数多く見てきた俺にとって、表面の整った料理を警戒するのは当たり前のことなのだ。
ファストの危惧していることは正しい。
自然界においても、タマゴダケとベニテングダケに代表されるように、表面上は似ていても実際には大違い、という物がたくさんあるのだ。
そうつまり――――MIMK。見た目、イケても、まだ、食うな、ということ。
(これは……大丈夫か……?どうだ……?見た目的にはおいしそうだが……。)
ファストは思考回路をフル活用して考える。しかし、脳みその持てるスペックをふんだんに使用した脳内会議は文字数にしてたったの34文字(句点含む)で終了する。フル活用してこれぐらいしか考えられない。とても少ない。脳みそが。(倒置法)
そんな少ない脳みそを懸命に使用して思考するファストだった、がしかし。
「ファスト、食べないの?」
アルが悲しそうな顔で話しかけてくる。
そう。これがあるから厄介なのだ。人情。年間で、のべ三十万人以上もの人情による犠牲者がいるとかいないとか。
と、ふとアルの手に目をやったファストは、そこに包帯が巻かれている事に気づく。
…新たな不安材料発見だな。
普通だったら「俺のためにこんなに頑張ってくれたんだね」とか言いながらそのままベッドインするような場面(偏見)だと思うが、あいにくこの小説は普通じゃない。無駄なところで現実的である。
俺が言いたいのは、包帯を巻くようなケガをするほど料理に慣れてないってことは、失敗作が出来上がる確率も上がるんじゃね?ということだ。世の中頑張ったからってハッピーエンドにはならないのだ。頑張っても、まずいものは、まずい。
しかし、竜でも封印されてんのかっていうくらい見事にぐるぐる巻きにされてんな。相当ひどいケガなんだろう。
しかも、両手に巻いてあるのがとても痛々しい。いろいろな意味で。飛影かお前は。
…ってあれ?両手?
普通、片方の手で包丁、もう片方で切る物を抑えるんだよね?ってことは、物を切るときに誤って包丁で手を傷つけてしまうんだから、ケガするのは物を抑えている方の手だよね。
あれ?
包丁を持ってないほうの手だけを切るんじゃないの?なんで両手なの?
なんで包丁を持ってる方の手までケガしてるの?
「甲賀流・
「『だよ?』じゃねえよ!」
百歩譲って両手をケガするのはまだ解る。まだ動きの範疇が予想できる。
だけど、包帯は腕の上の方まで満遍なく巻かれている。
腕の上の方までケガする血祀殺法って、どんなアクロバティックな切り方なんだよ!包丁をブン投げでもしない限り、二の腕までケガすることはないと思うよ!?
というかそれよりも甲賀流という言葉がある方が気になるんだが。たしかここ、一応は異世界ですよね?なぜジャパニーズポップカルチャーである忍者が出てくるんだ。そして伊賀はどこいった。
「ツッコンでないで早く食べてよ。冷めちゃうよ?」
「うっ…、うん、わかった。……そうだな!早速食べてみようじゃあないか!」
とっさに了解したという返事をする俺。
さて、アルの言葉に賛成したのには理由がある。
俺の経験上、飯は冷めると大体がまずくなる。
一般論として、冷めたご飯<暖かいご飯であることからも、ご飯は時間が経てば経つほどどんどんと美味しくなくなっていくのである。
だから、どうせ食べるんだったら冷めていない今のうちのほうがいいと考えたのだ。
え、なに、アルを信じていないのか、だって?
も、もちろん信じてるさ~。でもね、人間ってやっぱり臆病な生き物だからさ、はじめて食べる物にちょっとぐらい警戒するのは当たり前のことだと思うんだ。うん。
……そんな目で見るなよ畜生!わかった!食えばいいんだろ!?食えば!
「南無三!」
俺は覚悟を決め(というかほとんど逆切れで)アル作のなんかちょっと変な香りのするナポリタンモドキ(仮)を口に運んだ――――――――――――――――!
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