本編(先に前夜祭①、⑧を読んでね♡)

①変化(文体のね?)

ガタゴトと馬車が揺れ、俺の体が揺さぶられた。

俺たちは今、馬車に乗ってグリシスという街を目指していた。

アルを巨乳にするため、『黒山羊さん』の居場所を求める旅を始めた俺たちは、まず

近辺で一番大きな国であるユレイオン共和国を訪ねた。その時になんやかんやあって

アルがやらかしたのだが、それは割愛することにしよう。

そして、そのなんだかんだの末に俺たちがあつめた情報から、『黒山羊さん』の居場

所はどうやらグリシスであるとわかったのである。

よって、今、俺は馬車に乗ってグリシスを目指している、のだが。

「寝れねえ………。」

慣れない馬車に眠気は吹っ飛んでしまっていた。おまけにベッド(椅子の上に毛布を

かぶせただけ。)の中に入ると、何を考えたか分からないが、寝ぼけたアルが抱きつ

いてくるのであった。

…暑苦しいことこの上ない。

抱きつかれるたびに反対側に押しやってはいるのだが。いかんせんアルは俺を抱き枕

の一種だと思っているらしい。何度押しやってもふと気づくと隣に来ているのである。

もちろん、可愛くないと言ったら嘘になる。ものっそかわええ。かわええのだが。

……………………あっちい。

一応季節は夏である。この世界にも季節というものはあるらしく、夏はそれなりに暑

いのだ。また逆に冬は寒く、雪が降ることもある。

そしてたいていニートというものは暑さ、寒さに弱い生き物である。

もちろん「元」ニートでもそれは例外ではなく、俺はとても暑さに弱い。

そりゃあもう、真夏の野球部の練習風景を見ているだけでぶっ倒れるレベルで弱い。

モンハンで言うところの暑さ倍加状態である。

「アッツ!」

涼しい夜風に少しでもあたろうと窓から身を乗り出した俺は、逆に入ってきた熱気に

思わず驚く羽目になった。

真夏の夜の熱気は尋常でなく、中より外のほうが暑いくらいであった。

どうでもいいが、「暑っつ!」をカタカナで打つと途端に危険な香りがするのはな

ぜだろうか。なんかこう、バラの花が出てきそうな感じになるのだ。

さて、頼みの綱であった涼しい夜風という期待を完全に裏切られた俺は、すごすごと

窓を閉めた。こうなった以上、残された道は二つである。

一つ目。ずっと立ちっぱなしでアルに抱きつかれないようにする。(多分寝れない)

二つ目。あきらめてアルに抱きつかれたまま寝る。(ものすごく暑い)

Which do you like better?、であった。

そして俺は、迷った末………………………………②を選んだ。

せめてもの抵抗として、アルからできる限り離れて寝っ転がる。が、そんな抵抗もむなしく、5秒もするとアルが隣に来て俺の体に腕を回した。

アッツ!と思わず叫びそうになる俺だったが、声は出さず、アルを優しく転がし、体を向こうへ押しやる。と、

「ファストは、僕が嫌いなのかい……………………?」

「うおおびっくりしたああ!」

アルが突然しゃべったので、俺は思わず叫んでしまった。

こいつ、さては寝たふりしてたな?

「いつから起きてたんだ?」

動揺しつつ俺が聞くと、

「今日はまだ一睡もできてないよ。」

「まったく、起きてるなら起きてるとそう言え。」

「だって寝たふりしてたら、自然にファストにくっつきに行けるでしょ?」

だそうである。かわええ。どこかから「爆発して四散しろ」という声が聞こえてきた

ような気がするが、おそらく気のせいである。

だがしかし。アルがここまで積極的になっているのには訳がある。

最近、暑い日が続き、なんだ、その……布団に入ってくるのを断っていた。

つまり………………一緒に寝ていないのだ。

要するに、欲求不満である。

「ねえ~ふぁすと~いっしょに寝よ~」

「うう…いっしょに寝たいといえば寝たい。」

「え!?」

嬉しそうな顔をするアル。

確かにおねだりしてくるアルはとてもかわいいので、さすがに馬車の中でコトには及

ばないにしても、男心にグッとくるものはある。またアルは耐寒・耐暑のステータスも高いらしく、余裕そうだ。

だがしかし……俺が死ぬ。

よって、

「だが断る」

「ええ~?」

俺の返答にアルがすねたような顔をする。本気ですねているわけではないのだろうが、我慢させてることに変わりはない。

街についたら、本気で対策を考えないといけないな、と思う俺であった。














カタコト、コトコトとだんだんと馬車の立てる音が小さくなり、やがて止まった。

「ついたみたいだぞ、アル。」

「むう…。」

「お、あそこで串焼き売ってる。」

「どこどこ!?」

アルはまだ若干すねていたが、串焼きという言葉の魅力には勝てなかったようだ。

馬車を光速で飛び出すと、トテトテと屋台のほうに走っていき、

「おっちゃん!串焼き!あるだけ全部!」

「やめろ馬鹿!」

……………串焼きを文字通り食いつくそうとする。

「チッ………、串焼き10本。」

「お前今舌打ちしたよな!?」

しかも減らして10本って……。それでも十分多いし……。

最近アルはよく食べる。酒場に行った時も、以前はご飯ものを一品食べたら苦しそうにしてたのに、今では、

「鳥肉の揚げたのと、ライス大盛、野牛のハンバーグ300g、フィニスプ(川魚)の塩焼き、あとは豚骨ラーメン、増し増しで!」

…………このありさまである。というか俺的には異世界に豚骨ラーメンという物があり、増し増しという文化が存在することのほうが驚きだったのだが。

しかし、依然として酒は強くないのでそこはホッとする俺である。

この状態で酒にまで強くなられたら、本気でアルを止める術がなくなる。

今までは、金の心配が出てきたときには、アルに無理やりグリッド(結構強めの酒)を飲ませ、眠らせて止めてきたのだが、いかんせん最近では目を覚ますまでの時間が短くなってきている。耐性が付いてきているのだ。

酒が効かなくなったらマジでどうしようと本気で恐ろしい俺であった。

「おっちゃん、もう10本追加!」

俺が読者に説明している間にも、アルはどんどんと食べ進んでいき、

「追加すんな!」

……俺が目を離したすきにしれっと追加の串焼きを注文していた。

「おっちゃん、おあいそ!」

追加の串焼きの串の部分を指の間に挟み、戦国B○SARAの伊達政○スタイルで財布

から金を取り出すアル。………………器用だな。

「いふぉほ、ふぁふふぉ!」

「うんまずは口の中のものを飲み込んでから話そうか。」

こいつ、本当にお姫様だったのか?と時々疑いたくなる俺である。

「もぐもぐ、んぐ。行こう、ファスト!」

「速い…。」

ちなみに、さっきの俺の発言から2秒ほどしかたっていない。馬鹿速え……。

「あ!あっちにも屋台がある!行こう!ファスト!」

いうが早いかボルトもかくやという速さで走り去るアル。

「おーい、ここに来た目的分かってるかーい……。」

取り残された俺にできることは、ただ呟くことだけであった。

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