⑧ いざ、西へ
「さてと。行きますか。」
時の流れはいとはやし、というわけで出発の日の朝がきた。
なんで古語を使ったかって?
いま、俺はテンション高いのさ!
だって、あれだぜ、あれ!
あれあれ!
えっと…あれ…?
アーレーアレアレアレー!(応援歌風に)
……何言おうとしてたんだっけ?
度忘れってあるよね。
今、俺はまさにその状態であった。
「マジで何言おうとしてたんだっけ……?」
とまあ、そんな俺がお送りします。
さてと、出発だあ!行くぜ野郎どもお!碇を上げろお!
………全然関係ないですが、今、「いかり」と打ったら、予測候補の欄の一番上に「碇シンジ」と出てきました。なんかちょっとうれしい。そして作者はいつも何を調べてるんだ。
さてと、気を取り直して、
「出港だあ!」
「どうしたの、ファスト?」
「いや、なんでもない。」
…恥ずかしいです。
前回プロポーズしてから、俺はいまだにアルの顔を直視できていなかった。
それに比べてアルはなんなんだよ!?
あの時はめっちゃ照れてたのに、次の日には「おはようファスト!」だってさ。
切り替え早過ぎない?
普通はもっとこう…照れたりするもんでしょう?
それが見たかったのに!
ぶっちゃけ実は、プロポーズの最中に「やった、これでアルの恥ずかしがってる顔が見れる!」とか思ってたのに!
「ところでさ、ファスト。」
「うおっ!な、なんだ!?」
アホなことを考えてた俺は、アルの言葉に驚いてちょっと飛び上がってしまう。
しかもなんか……近い。
アルは俺の顔を覗き込むようにして見上げていた。
ちょっと動けばぶつかる距離にまで顔が近づいている。
なんなんだこれは。不覚にもドキッとしたじゃないかよ。
「あのね、」
「お、おう、なんだ?」
いつになく真剣な表情で話を切り出そうとするアルに、俺は思わず身構える。
なんなんだ、真面目な顔で。
「僕は君に聞いておかなくてはいけないことがある。」
ごくり、と息をのんだ。
それほどまでに、アルの顔は真剣そのものだった。
「……ファストは、子供は、好き…かい?」
「!!」
まさか、と思う。
いやでも、と打ち消す。
だって、そうなるための行為はそこまで…いやそんなに…いやけっこう……したわ。
やばいかもしんない。
いや、でもそう簡単になるようなものか?
でも、いや、どうなんだ?
でも確率的にはあり得る話ではある。
だがまさか、とは思う。
まさか、お前………。
「できた…のか……?」
「いや、できてないけど?」
「じゃあなんで聞いた!?」
まぎらわしい!今までの真剣な顔は何だったんだよ!?
お前、ペヨングソース焼きそばよりまぎらわしいぞ!?
ちなみにあれってペヤングと同じメーカーが出してるんだよね。
まぎらわしいことこの上ない。
あれ?
まぎ「わらしい」だっけ?まぎ「らわしい」だっけ?
どっちだ?
まぎらわしいって言葉自体がまぎらわしいわ!
てか、何の話だっけ?
そうだそうだ、なんで聞いたんだ?って話だ。
「だって、その……子供とか、欲しいし……。」
「早くない!?」
心配することが先過ぎるぜ。
一瞬マジでできたかと思ったわ。
「まあ、僕まだできないし…。心配しなくてもまだまだ先のことなんだけどね…。」
「なんだよまぎらわしいな、めっちゃびっくりしたぞ……って……え?」
まだ、できない、だと?
まさか、お前……
「アル……お前今……何歳……だ?」
「ん~?多分16から18の間~。」
「そういうのを知る魔法ってないのか?」
「魔法じゃないけど…守護霊に話を聞けば知ってるかも。」
「今すぐ聞いてみてくれ。頼む。」
「え?なんで?」
「いいから早く。」
「わかったよー、もう。………ふーん、じゅうよ…」
「ああーーーーーーーっ!!!聞こえない聞こえない!!なんも聞こえなかった!」
聞こえなかった!俺にはなんも聞こえなかった!
「ごめんファスト、間違えてた。今までずっと18だと思ってたけど、実際は…」
やめろおお!!!!俺はロリコンじゃない!!!
やめるんだ!僕の脳内の住民たち!「ロリコン」と書いた紙を僕に貼るんじゃない!
そしてどこに連れて行く気だ!まさか!やめろおお!火あぶりだけは!!!!
そこで俺は住民のうちの一人がプラカードを持っているのに気づく。なんだあれは。
と、その住民が高々とプラカードを掲げる。
『証言が確定し次第処刑』
「よし、行こう!早く!!!!」
俺はアルの手を取り、続く言葉を遮った。
危ない危ない。もう少しで脳内火炙りにされるとこだった。
何とか確定はされなかったようだ。俺の体が貼り付け台から外されてゆく。
住民たちが「けっ」とか「くそっ」とか「もう少しだったのに」とか言いながら去ってゆく。
……お前ら本当に俺の脳内に住んでるの?
と思った瞬間、どこかから石が飛んできて俺のほほをかすめた。
ほかの人に言われて侵略に来たんじゃない?と思うくらいひどい……。
こうして俺たちは旅だった。
鉛のような教訓を手に入れて、だがな。
いやーーー、知らぬ間に犯罪を犯してしまったよ。
マジかー。
まあ……可愛いから、いっか!
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