第2話 悪魔に感謝



【ありがとう】


「何やってんだお前ら」



どこからか聞き覚えのある声が……


それは、嫌な声はずだけど……


なんだろう……


とてもホッとする声だ……



カツカツ、カツカツと靴の音が聞こえる。


茶髪のボサボサ頭の少年がポッケに両手を突っ込んでやってくる。


少年の綺麗な紅い瞳は怒りに燃えた悪魔のような形相で不良生徒達を睨みつける。


不良生徒は少年の眼を見て怯えた表情をする。


ガタガタと肩を震わせ、怯えた涙目で少年を見る。


その少年は、周 骸だった。



周は殴っていた不良生徒の胸ぐらを掴み、不良に顔を近づける。


「俺が大嫌いな奴を教えてやる」



「…ひっ……」



「弱い奴を集団で虐めてその様を嘲笑う奴だ」



周は不良生徒を思いっきり睨みつける。


不良生徒は蛇に睨まれたカエルのように動けなくなった。


「あっ……あ……」


「悪魔だっ!こいつ……!悪魔だぁっ……!」


不良生徒が急に泣きじゃくりながら叫び出す。



「お前らぁ!帰るぞぉっ!」


「は?なんでだよ?」


「見ただろ!?あいつヤベーよ!悪魔だ!殺される!殺される!殺される!」



ガタガタと怯えながら僕を殴った不良生徒は一目散に階段を登って逃げていった。


それを追うように他の不良生徒も逃げていった。



助かった……


助かったけど、僕を助ける時の周 骸は恐ろしかった。


あの不良が言うように、僕も悪魔のように見えた。


この世の人間ではないような気(オーラ)を感じた。


でも、こいつには感謝はしてる。


周 骸がいなかったら僕は…今頃……



「おい、大丈夫か?」



周 骸が僕の方へ駆け寄った。


周 骸は僕の顔を見て目を丸くした。



「お前……!?あの時の……!?」



「……」



僕は周 骸と目も合わさず、うつむいた状態でゆっくり立ち上がる。



「……ありがとう」


「……え?」


こんな変態野郎に感謝の言葉を述べるなんて悔しさの極みだ。


でも…でも……


僕は顔をあげ、周の瞳を見る。



「多分、お前がいなかったら、僕、今頃、無事じゃなかったから……感謝してる」


「……み、み、…」



周 骸は目をウルウルさせながら僕をじっと見つめる。


そして周は口を開いた。



「ミコトちゃーん!やっぱり好きだー!付き合ってくれー!うわーん!」










やっぱ死ね。



**************

*********

*****


【白雪先生】


周骸から告白の言葉を受けた後、それを見ていたクラスメイト達から冷たい視線を僕らは受けた。

ああ……死にたい……


僕は思いつめながら保健室へと足を運び、保健室の先生に怪我の手当を受ける。


黒縁眼鏡をかけた紅い髪のお団子ヘアーのスタイルがとってもいい美形の保健室の先生。


先生は僕の怪我した左足を診る。


「神崎くん、また怪我したの?」


「あ……はい、またしちゃいました……」


「……誰かにまた殴られたのね」


「そんな!違いますよ!」


「嘘つき。B組の女の子から聞いた、また尾崎たちに暴力振るわれたんだってね」


保健室の先生はクスッと笑って僕の左足に湿布を貼る。



「お風呂に入るまで剥がしちゃダメよ」


「子供じゃないからそんな事くらい分かりますよ」


「高校生なんてまだまだ子供よ」



保健室の先生はクスクスと笑う。



「神崎くん、辛いことがあれば先生がなんでも聞いてあげるのに」


「どうしては貴方は辛いことを溜め込んじゃうのかしら」


保健室の先生は口元をニヤつかせながら僕を見つめる。



「……別に、辛くなんてないです」


「もし、辛いことがあったとしても、白雪先生には」


「聞いて欲しくない」



「……そう。私って、神崎くんにはまだ信頼されてない?」


「……授業に戻ります、失礼しました。」



僕は保健室を後にした。


白雪先生は眼鏡をくいっとあげて僕が保健室から出ていく姿を見つめていた。


口元をニヤニヤさせながら。


「嘘つき」


*************

*********

*****



【巻き込みたくない】


放課後になり、僕は1人で帰っていた。


すると後ろから誰かが追ってきた。



「ミーコートちゃーんー!かーえーろー♡」



周 骸が後ろから急に笑顔で抱きついてきた。



「うわっ!気持ち悪!離れろ!今すぐ!」



「んもー、ミコトちゃんったらツンデレのデレ〜」


周骸がニヤニヤして僕をからかう。

そんな周の抱きついている腕を撲は振りほどく。



「いいか?僕は男だ!

……まったく!お前があいつらの前で変な事言うから僕がより一層変な目で見られるようになったじゃねーか!!!!」


「俺の愛の告白か?

……ああ、ごめんな。

告白は誰かに公開して言うことじゃないよな……二人っきりの時に……」


「そういう問題じゃねぇんだよ!変態野郎!」


「変態?違う、俺は紳士だ」


周骸がキリッとした顔を僕に向ける。


「嘘つけ!どこが紳士だ!」


「……」


僕は周の顔をみた。

僕は周の綺麗な紅い瞳を見つめる。



「今回は、ありがとう。僕なんかを助けてくれて、さ。」


「礼なんて要らねぇよ。人間助けるのは当たり前だろ」


「またなんかあったら俺呼べ。いつでもあんなチンピラなんざボッコボコにしてやるからさ」


周骸が満面の笑みを浮かべながらガッツポーズをする。



「悪いけど」


「ん?」



僕は顔をうつむく。

ぎゅっと、両手に力を入れる。


周がキョトンとした顔でこちらを見る。


寂しい……。


けど……


「もう、僕に今後一切関わるな」



「え?」



僕はその場を離れようとした、が、周が僕の右腕を掴む。



「待てよ!」


「……」


周が焦った顔になり僕を止める。



「なんでだよ!」


「……」


「俺が空気読めないからか!?俺がウザイからか!?俺がド変態だからか!?」


「……」


「なんとか言えよ!」


「……」


「せっかくこうやって会えたのに!」


「……」


「……ああ、ごめんな…俺たち、今日出会ったばっかだもんな……ハハ…」


「お前とは、仲良くできるって思ってたんだけどな……」


「どうしてそう思うの?」


僕はうつむきながら問いかける。


「なんでだろうな。分かんねー」


「けど、お前は、イイヤツだと思う!」


周はニコッとしながら言った。


「……なんだ、それ。」


「いい奴?僕のこと何も知らないくせにそんなこと言うんじゃねぇ!」



周の掴んだ手を勢いよく振りほどいて、僕はその場を去った。


なんでだろうな。


久しぶりに、いい人に会った、こいつなら、いい友達になれるのかな……なんて思っちゃった。


でも、ダメだ。


僕は、人と深く関わっちゃダメだ。


ダメなんだよ……。


僕なんかが……。

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