第4章 旦那様は超人戦士

「うふふ。どうやってかわいがってあげようかなあ」

 麝香院が真子に迫る。

 な、なに、こいつ。なにをしたいの?

 魔子は本能的に危険を感じた。

 そのとき、スマホの着信音が鳴り響く。

 麝香院の動きが止まる。興味もそっちに移ったらしい。視線が泳いだ。

 鳴ったのはジュベールのスマホ。麝香院はため息をつく。

「なによ。興がそがれたじゃない」

 しばらくして、ジュベールはスマホを切る。

「なに。なにかあったの?」

「西郷からの報告だ。迷い込んできたのはただの不良じゃない。風太だ。どうやってか、ここをつきとめた」

「まさか?」

 麝香院が信じられないといった顔をする。

 あれに気づいてくれたんだ。

 十中八九気づいてくれないだろうなと思いつつも、落としていった目印の柿の種。それを追ってここまで来てくれた。

 そう思うと、ふたたび、魔子に力がよみがえってくる。

「しかも援軍が来るらしい」

 援軍?

 ジュベールがいった言葉だが、意味がわからなかった。

「警察が来るのか?」

 暁が口をはさむ。

「いや、それなら、警察内部の仲間から連絡が入るだろう。巣豪杉家の私兵か、さもなきゃ、あいつのハッタリだ」

 ハッタリ? いや、ちがう。今こいつがいったみたいに、家に連絡入れたんだ。お母様が衛兵を引き連れてくるに決まってる。

 ジュベールがどこかに電話を入れた。

「ちょっとした戦争が起こるかもしれない。とりあえず、百名ほど用意してくれないか。すぐにだ。アジトまで頼む」

 百名? こいつの仲間が来るってこと? ここに?

 さらにジュベールはなにか、室内の機械を操作した。

「全トラップの安全装置を解除した。そのつもりでいろ」

 ジュベールは暁と麝香院にいったようだ。

 トラップ? なにそれ?

「麝香院、お嬢様と遊ぶのはあとだ。敵襲に備えるぞ」

「しょうがないわね。もっともあと一週間は帰れないんだから覚悟してね。ゆっくりかわいがってあげるから」

 麝香院はにんまりと笑いながら意味深なことをいう。

「ねえ、トラップってどういうことっ?」

「ふふっ、王子様が心配? 映画なんかでよくあるでしょ? ゲリラなんかがジャングルに仕掛けるようなやつ。いきなり槍が飛びだしてきたり、落とし穴が掘ってあったり。そんなやつよ。くわしくは教えてあげない」

「それに引っかかったら死ぬの?」

「かもね。うふふ、楽しみ」

 そんなのだめだ。なんとか……なんとかしなくっちゃ。

「心配しなくても、あなたの王子様は引っかからないわ。トラップはあとで来る援軍用。もっとも風太くんは西郷に殺されるかもしれないけどね」

「殺させないでっ!」

「あらっ、恋する男の命乞い? う~ん。どうしよっかな?」

「おい、いつまで遊んでんだ。準備しろ」

 暁のいらついた声。

 いつの間にか、暁は左手に盾、右手に斧を持っていた。ジュベールはフェンシングで使うような剣。先はしっかり尖っている。

「あらっ? あたしは常時獲物を装備してるけど?」

 麝香院がスーツの裏から取りだしたのは、丸めた鞭。伸ばせば長さ二、三メートルはありそうな黒い鞭だった。

「泣かないで、子猫ちゃん。風太センセは殺さないでおいてあげるわ。あとで、あなたの前でいたぶれるようにね」

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